2026年バイオインフォマティクス学会年会 参加報告
この度、2026年8月26日から28日にかけて小田急ホテルセンチュリー相模大野にて開催された「2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会(IIBMP2026)」に参加し、初めての口頭発表を行いました。今回の発表にあたりご支援いただいた皆様に感謝申し上げますとともに、学会を通して得られた学びを共有させていただきます。
今回の学会における最大の出来事は、なんといってもハイライトトラックのセッションにおいて口頭発表の機会をいただけたことです。超速プロジェクトとして同期と進めている創薬AIエージェントOrchestRAの内容について、知識グラフを用いた創薬標的の探索から分子の生成や最適化、SPR(表面プラズモン共鳴)を用いた実験的検証に至るまでを発表しました。1年前の発表の際はまだ知識グラフ構築の段階であったテーマですが、1年間でプレプリント投稿や実験検証結果の一部を示せるところまで進められたことは感慨深く感じました。一方で、発表自体は今後に向けた反省点も残る結果となりました。他の学会と比べても圧倒的に長い17分間の口頭発表時間の中で、いかにして聴衆を飽きさせないストーリー展開をするのか、今あるデータの中で何を見せるのが良いのか、どのような表現や図を用いることで専門外の研究者にも理解してもらいやすいのかなど、発表練習を受けて清水先生やラボの皆様にいただいたフィードバックをもとに、試行錯誤を重ねました。トークの緩急や質疑応答への対策などでは未熟な部分が残るものにはなってしまいましたが、初めての口頭発表としてはなんとかやり切れたと感じています。次回は10月末にCBI学会での発表がありますが、その際には今回の反省点を活かせたらと考えています。
そのほかにも、いくつかのセッションを拝聴しました。2日目の刑部祐里子先生(東京科学大学)による基調講演「生命の機能を変える新規ゲノム編集技術の開発」では、刑部先生らが動植物細胞でのゲノム編集に利用できることを初めて見出された、藍藻由来のType I-D CRISPR-Cas(TiD)の応用研究の展開についてのお話を伺いました。Cas9のように単一のタンパク質が切断を担うのではなく、複数のサブユニットが複合体(Cascade)を形成して働く点が特徴的で、Cas9とは異なる編集様式が得られるとのことでした。ゲノム編集においては、CRISPR-Cas9が自分にとってほぼ唯一の選択肢という認識でしたが、実際には自然界に多様なCRISPR-Cas類似の分子種が存在し、それぞれの特徴を活かした利用が進んでいるというお話は非常に興味深かったです。
最も自分の研究に近く、印象に残っているのは、3日目午前のライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)共催ワークショップ「AI時代の生命科学データ基盤をデザインする」です。昨年のバイオインフォマティクス学会のポスター発表の際に担当の方から声をかけていただいたご縁はありましたが、きちんとセッションとしてお話を伺うことは初めてでした。
講演の中では、日本のライフサイエンスデータベースは個々の質や量では欧米に決して劣らないものの、それらを束ねる統合基盤、特にデータ容量の面が追いついていないという現状が示されました。また、IBDC(インド)・CNCB(中国)・KOBIC(韓国)など、アジア各国でもナショナルセンターの整備が進むなかで、日本でもEBIやNCBIに相当する基盤を目指してNLDP(National Life science Database Project)が動き出しており、創薬応用を目指したBINDSなどとの連携も含めた将来展望が語られました。その中で、複数のデータベースを統合する上では知識グラフを活用し、それらをいかに標準化するのかという議論が2010年頃から行われており、当時はリレーショナルデータベースとSQLで回していたという経緯の紹介もありました。研究を進めていく上では論文を読んでどのような流れになっているのかを見ることはありましたが、自分が今取り組んでいる内容が国のプロジェクトとしてどのような文脈の上にあるのかの観点から俯瞰することができたことは貴重な機会となりました。
続いて登壇された先生からは、「知識を知っていること」と「それを使いこなせること」は別であり、データに到達して根拠の強さを評価できる能力こそが重要であるという指摘がありました。一つの問いに答えるためには複数のデータベースから必要なデータを選び、識別子を手がかりにそれらをつなぎ、異なる証拠を統合した上で仮説と事実を判定する必要があります。この一連の流れをAIに担わせるには、AIとデータベースを接続する仕組みだけでなく、そのデータベースをどう読めばよいのかをメタデータとしてAIに伝える仕組みが欠かせない、という枠組みが示されました。「答えを覚えさせるのではなく、生命科学のデータから答えを確かめさせるのだ」という言葉が印象に残っています。
また、3日目午後の生命情報科学若手の会による「バイオインフォマティクスとAI codingのこれから」というセッションでのSakana AIの井ノ上雄一さんのお話も強く印象に残りました。京大薬学のご出身で、実験系の研究で学位を取られたとのことでした。自分の薬学部の先輩にあたる方が現在はLLMそのものを開発されているという経歴自体がまず非常に刺激的でした。ご講演では、AIエージェントを駆使してLLMを開発する実際の進め方が共有されました。環境構築で「学習が正しく動くまで責任を持って実行する」というゴール設定を与えて試行錯誤させる、学習開始前には条件を列挙させてAIが自ら勝手に決めた部分を人間が確認する、評価の際には「現在の計算環境で最大のスループットになる条件をまずは調べて」など詳しく指示をし、「どのように実装したのか?」や「何を参考にしてそのような実装を選んだのか?」などを具体的に問い直す、といった運用の細部が非常に実践的でとても参考になりました。また、モデルは正解を返せば報酬を得るように学習しているため、ベンチマークの答えを外部から探してくるようなズルをしうるという指摘もあり、自分が経験のない領域ほど確認が甘くなるという注意点は肝に銘じたいと思いました。
振り返ってみると、昨年度のバイオインフォマティクス学会が清水研での学会発表の初陣で、周りには全く知り合いもおらずすごく不安だったことを覚えています。そこから1年間で様々な学会に参加させていただきましたが、知識グラフを扱う自分の研究にとっては、バイオインフォマティクス学会が最も親和性が高い場だと改めて感じました。昨年から継続的に参加してきたことで自分が顔を覚えた方も自分の顔を覚えていただけた方も増え、今年は産官学を問わず多くの方と議論を交わすことができました。昨年度とはまた違った領域についての発表も多く伺うことができ、とても有意義な時間となりました。
この度は、このような貴重な機会とご支援をいただきまして、改めて感謝申し上げます。
この度、2026年8月26日から28日にかけて相模大野で開催されたIIBMP 2026に参加する機会を頂いた。私自身、普段はAIを用いた抗体設計などの研究に取り組んでいるが、今回の学会では、生成AIそのものの発展から、遺伝子設計、RNA、植物の進化に至るまで、幅広い研究に触れることができた。特に、AIの性能が急速に向上する中で、自分はどこに研究の面白さや価値を見出していくのかを考えさせられる機会となった。また、個人的な経験として、清水研究室で初めての口頭発表も経験させて頂いた。以下、印象に残った講演や発表、自分の口頭発表について、感想を述べたい。
まず、IIBMP 2026の始まりは今井翔太先生による生成AIの発展と社会への影響に関する基調講演であった。講演は期待と同時に、少し焦りも感じる内容であった。まず、「人間の知識をシステムに直接組み込むアプローチは、長期的には計算量を活用する汎用的な方法論に必ず敗北する」という、Suttonの「Bitter Lesson」が紹介された。海外では膨大な数のGPUを用いた開発が進み、計算規模の大きさが研究の方向性そのものを左右しているというお話は、普段限られた計算資源の中でモデルを構築している自分にとって、なかなか厳しい現実でもあった。手法を少し工夫するだけで、この差を埋められるのだろうかと考えながら聞いていた。
また、AIエージェントが扱えるタスクの長さが予想以上の速度で伸び、評価する側が追いつかなくなっているというお話も印象に残った。HLEやARC-AGIなど、難しいとされてきたベンチマークも次々に攻略されつつある中で、何をもってAIが十分な能力を持ったと判断するのかは、簡単には答えの出ない問題だと感じた。
一方で、日本の研究現場に蓄積された、まだ十分に活用されていない実験データをAI for Scienceにつなげるというお話には、期待も持て、前向きな気持ちになった。実験条件や失敗した結果も含めて、自分たちにしか得られない情報を整理することには意味があるはずである。今の研究環境は基本的に人間向けに作られており、AIが作業を進めやすい形にはなっていないという指摘も、実験記録や解析手順の残し方を見直すきっかけになった。また、雇用への影響とともに、経験に基づく暗黙知の価値が語られていたことも心に残った。若手である自分としては、AIを便利に使いながらも、結果の不自然さに気づけるだけの知識や経験をどう身につけるかが課題になると感じた。
2日目の発表で特に面白かったのは、北里大学の秋山真那斗先生による、オルソログ情報を活用した異種間遺伝子設計の研究である。異種のタンパク質を発現させる際にはコドン最適化がよく使われるが、通常はアミノ酸配列そのものを変えない。それに対してこの研究では、種分化によって分かれた対応する遺伝子であるオルソログに着目し、自然界で生じてきたアミノ酸置換や挿入・欠失まで含めて、別の生物種に適した配列への変換を学習していた。「発現させたいタンパク質の配列は固定する」という前提を見直す発想が面白く、進化の過程で蓄積された配列の違いを、設計の手がかりとして使えることに納得した。用いられていたOrthologTransformerは、変換元と変換先の生物種をトークンで指定し、一つのモデルで多くの種間変換を学習する仕組みであった。さらに、生成時にモンテカルロ木探索(MCTS)を組み合わせ、GC含量やmRNAの二次構造に関する条件も考慮していた。モデルが自然な配列を生成できることと、目的に合った配列を選べることを、それぞれの仕組みで支えている点も参考になった。実際にPET分解酵素であるPETaseへ応用し、コドン最適化したものよりも多くの分解産物が得られたという実験結果まで示されていたため、研究の狙いがよく伝わってきた。自分の抗体設計でも、結合の予測だけでなく、発現や安定性を含めて、実験で使える分子をどう得るかまで考えていきたい。
また、大上研究室の坂野さんによる、タンパク質とリガンドの複合体構造をトークン化する「ProLIT」の発表も、自分の研究との関連を考えながら興味深く聞かせて頂いた。VQ-VAEを参考に、立体構造を離散的な表現へ変換し、そこから元の構造を復元することで、性質の異なるタンパク質とリガンドを共通の枠組みで扱おうとしていた。普段は配列を入力するモデルを考えることが多いが、相互作用を学習させたいのであれば、二つの分子の位置関係をどう表現するかも大切になる。実際のリガンドと抗原の複合体構造情報をトークナイズする発想はとても面白く、非常に興味をそそられたが、既存のリガンド表現とタンパク質表現を個別に統合するのと、複合体構造のトークナイズされた情報を利用するのだとどちらが有効なのかについては非常に気になった。
最後に、今回のIIBMP 2026での口頭発表経験について述べたい。
IIBMP 2026のハイライトトラックとして口頭発表の機会を頂いた。私にとって人生で初めての学会の口頭発表であり、発表時間も17分と長い発表であったため、発表のスライド作成には非常に苦戦したが、清水研の皆様が発表練習の機会を設けてくださり、非常に建設的なご意見をたくさん頂いて発表資料をブラッシュアップすることができた。そのおかげもあり、ハイライトトラックの発表では会場にいた多くの人に興味を持ってもらえるような発表ができたと感じた。当日は少し緊張したが、丁寧に準備して発表に臨めたので、自信を持って発表することができた。また、大きな学会での口頭発表という場で貴重な経験を積むことができたのは、これからの自分の研究人生の非常に大きな糧になったと感じる。発表終わりに色々な方から声をかけていただき、発表について質問やお褒めの言葉もいただくことができ、非常に自信につながったと共に、さらに自分の研究を発展させていこうという意気込みにも繋がった。
今回の学会では様々な経験や刺激を得ることができた。今井先生が基調講演でお話ししていたように、AIの進歩の速さに焦りや恐怖を感じる場面もあったが、今回得られた経験を活かし、計算と実験の両方から自分の研究を自分のペースで発展させていこうとモチベーションを高めることができた。
最後になりますが、このような貴重な学会参加の機会を与えて頂きましたことに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
この度、2026年8月26日から28日にかけて相模大野にて開催された2026年日本バイオインフォマティクス学会年会(IIBMP2026)に参加した。本学会は私にとって初めての学会参加およびポスター発表であり、多様な研究に触れ、多大な刺激を受ける非常に良い機会となった。
自身のポスター発表に関しては、当初ロングリードを用いた解析を想定して来ている人が大半であったものの、私が提案したバルクショートを用いた解析手法に対しても「妥当である」「ストーリー構成が良い」といったポジティブな評価を得ることができた。全体的なコメントとしても好意的であり、今後のロングリードによる結果を心待ちにする声も寄せられ、大変励みになった。一方で、ポスターの「見せ方」に関しては実践を通して多くの改善点に気づかされた。文字による説明よりもグラフや図を多用した方が圧倒的に見やすいこと、また聴衆は主に一文、あるいは太字で強調された箇所を中心に目を通す傾向があることを肌で理解した。メソッドの記載についても、詳細に書きすぎるより極力シンプルにまとめるべきであると痛感した。今回は事前のバージョンより簡略化して臨んだものの、さらに削ぎ落としても良いと感じるほどであった。他の方の優れたポスターを拝見しても、文字と図の配置の塩梅や、一貫したストーリーの構築がいかに重要であるかを学ぶことができた。
また、他者のポスター発表の中で、特に面白く、個人的に大きな刺激を受けたものが三つあった。一つ目は、ナノポアを用いたタンパク質デザインに関する研究である。少し前までは塩基をターゲットとしていた技術が、今回はアミノ酸の20種類を認識する段階へと進展していた。電気信号の強さを高く保ちながら20種類のシグナルを明確に区別できる設計が主な課題とされており、非常に挑戦的な内容であった。現在はIn silico evolutionのみの実験段階とのことであったが、今後の発展が非常に楽しみな研究である。二つ目は、生細胞のライブイメージングを可能にした研究である。以前から発見されていた1,3a,6a-triazapentalene(TAP)をウェルに添加し、ResNetベースのモデルを用いることで、PrecisionとRecallともに0.9という高い性能を達成していた。生理食塩水で洗浄するのみで蛍光体が速やかに洗い流され、細胞への負担が極めて少ないイメージングを可能にしている点が画期的であった。また、一般的に細胞分裂等のイベントを追跡するモデルの作製は困難とされてきたが、このモデルはそれを可能にしている。現在は複数のがん細胞での検証にとどまっているものの、今後多岐にわたる細胞の形態へと応用されていくことが大いに期待される。三つ目は、清水研究室との共同研究を行っていた方の発表で、長寿命動物に存在するエンハンサーの予測に関する研究である。着眼点が非常に良く、また最近話題となったAIモデルであるEvo2をいち早く活用しており、新しい技術を取り入れて形にするまでの行動の早さに圧倒された。
本学会ではポスター発表だけでなく、非常に興味深い口頭発表や招待講演等も多く行われていた。ここでは特に印象に残った三つの発表について述べる。一つ目は、直接自身の研究テーマにも関連するスプライシング予測に関する発表である。2026年にNucleic Acids Research誌で発表された「SpliceSelectNet」と呼ばれるモデルで、ゲノムから直接mRNAのスプライシングが起こり得る部位を予測し、従来のSpliceAIを超える精度を達成したという内容であった。細胞のヘテロジネイティ(不均一性)を考慮しないゲノム全般的な予測を行う基盤モデルではあるものの、非常に強力なモデルである。これを機にスプライシング予測モデルに対する理解が深まり、今後の自身の研究にも繋げられる大きなチャンスになると感じた。二つ目は、刑部祐里子先生によるCRISPR-Cas9に関する技術の講演である。一般的に知られるCas9は小規模な切断にとどまるが、刑部先生は数キロ塩基にわたって切断できるCRISPR技術を開発し、それを植物に応用したという報告であった。この技術を開発するまでの経緯が最初から丁寧に紹介され、どこに着目し、何を改善できるかと考え、他と比較して何に気づいたのかという研究の思考プロセスが詳細に語られており、大変面白く引き込まれる内容であった。最後は、AI関連のセッションにおけるgLM(genome Language Model)の現状に関する聴講である。最近話題となったEvo2の登場に至るまでの経緯や、Evo2と拮抗し得るモデルとしてEdenやCENOが紹介された。また、gLMのリソースやその具体的な応用方法についても学ぶことができ、大変有意義であった。
初めての学会参加を通して、自身の研究を客観的に見直す機会を得るとともに、最前線で活躍される研究者の方々の熱量に直接触れることができた。今後は、今回得られた知見を活かしてプレゼンテーション能力を磨くとともに、自分自身も最近の技術発展に常にアンテナを張り、面白い研究に繋がるものがあればぜひ積極的に携わっていきたいと考えている。
この度、2026年8月26日から28日にかけてホテルセンチュリー相模大野にて開催された「2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会 (IIBMP2026)」に参加し、ポスター発表を行いました。今回の発表にあたりご指導・ご支援いただいた皆様に感謝申し上げるとともに、学会を通して得られた学びを共有させていただきます。
今回の学会は、私にとっては、学部生として初めて参加する学会であり、自身の研究を専門の異なる多くの方に説明し、直接意見をいただく貴重な機会となりました。高校生や企業の方々も発表を行っており、さまざまな背景を持つ人の議論が聞けてとても有意義な時間となりました。
ポスターセッションでは、「海洋メタゲノムからのAI駆動型新規抗菌ペプチド探索」というタイトルで、プロジェクトセメスター期間で研究してきたAMPsの探索の成果を発表しました。9.4億配列からAIでスクリーニングを行い、10候補中8個が当たったというインパクトを伝えると言うことを意識して発表しましたが、そのインパクトの部分に感嘆してくださる方もおり、達成感を感じました。また、今後、細胞毒性や物性をAIで予測して検証し、臨床応用の可能性を評価していく計画についても関心を持っていただきました。この発表を通して、自分の研究のストーリーを改めて整理することができたと思っています。
一方で、多くの質問を受けたことで、現在の研究に不足している点も明確になりました。答えづらい質問だなと思ったのは、「土壌など他の環境から探索した場合と比べて、海洋由来候補の活性率は高いのか」「10候補中8候補という結果は、AMP探索の分野においてどの程度優れているのか」という類の質問でした。今回の研究では海洋由来配列のみを対象としており、同じモデルと選定基準を用いた土壌由来配列との直接比較は行っていません。そのため、8割という活性率だけから海洋の優位性を結論づけることはできません。今後は、土壌など異なる環境に由来するデータに同一の探索パイプラインを適用し、候補の抽出率や実験的な活性率を比較する必要があると感じました。また、候補配列の新規性についても多くの指摘をいただきました。現在は、既知配列との相同性を調べるBLAST探索によって類似配列の有無を確認しています。しかし、BLASTで高い相同性を示す既知配列が見つからないことだけでは、AMPとしての新規性を十分に証明したとは言い切れません。学習に用いた既知AMP配列との重複や相同性を改めて確認するとともに、複数のAMPデータベースを用いた探索、配列モチーフや構造の類似性の評価など、異なる観点から新規性を検討する必要があるという風に思いました。
他の発表や講演からも、多くの刺激を受けました。特に印象に残ったのは、長年蓄積された基盤技術やデータベースが、開発から何年も経過した後に思いがけない形で役立つという話です。2002年に開発された多重配列アラインメントプログラムMAFFTが、2020年以降の新型コロナウイルスの系統解析に活用された例からは、将来何が必要になるかを正確に予測することよりも、目の前の科学的な興味を追究し、再利用可能な知識や技術として蓄積することの大切さを学びました。また、化石そのものではなく、化石が残した「穴」に着目してX線CTで三次元情報を得る研究からは、対象を直接見るだけでなく、その周囲や痕跡に視点を移すことで新しい研究手法が生まれることを知りました。歴史の長い分野や比較的マイナーな分野には、情報科学やAIによって発展させられる余地がまだ多く残されているという点も印象的でした。創薬に関するセッションでは、膨大な候補を量子の力を使って低コストで広くスクリーニングし、絞り込まれた少数の候補を高精度な手法で評価するという手法が紹介されていました。これは、約9.4億配列から候補を絞り込む自身の研究にも共通する考え方であり、とても参考になりました。量子の未知の可能性に期待の気持ちが高まるとともに、新しい技術をいち早く知り、自分の研究とのつながりを考えることも、新発見のためには大切なのではないかという感想も持ちました。
また、薬効や安全性だけでなく、薬の苦味のように従来は開発後期に検討されていた要素を、AIによって設計段階から評価しようとする研究も興味深く感じました。AI創薬とは単に候補探索を高速化するだけのものではなく、創薬の各工程で生じる様々な課題を、より早い段階で評価可能にする取り組みなのだと理解が深まりました。
今回の学会で強く感銘を受けたのは、参加者の方々が高い知的好奇心を持ち、活発に、そして気軽に議論していたことです。私はこれまで、学会に対して、発表を静かに聞き、質疑応答も堅い雰囲気の中で行われるというイメージを持っていました。しかし、実際には参加者同士が立場にかかわらずフラットに意見を交わし、交流を深めていました。高校生から経験豊富な研究者まで、気になったことや面白いと感じたことがあればすぐに質問できる雰囲気があり、学会全体が知的好奇心とエネルギーに満ちあふれた空間だと感じました。
また、普段一人で自分の研究と向き合っているだけでは、自然と視野が狭くなり、重要な点を見落としてしまうことにも気付かされました。今回、異なる専門や立場の方々から質問を受けたことで、自分にとっては当たり前になっていた研究上の判断を改めて見直すことができました。特に、候補配列の新規性を示すための相同性解析や、複数の菌種を用いた検証など、今後取り組むべき課題が明確になりました。これらの課題に一つずつ取り組み、研究成果をより確かな根拠に基づいて説明できるようにしていきたいと思います。
初めての学会発表で緊張もありましたが、自分がやってきた研究の成果を発表する喜びも感じることができ、自身の研究の面白さと課題を客観的に捉え直すことのできる、非常に有意義な経験となりました。また、幅広い分野の最新研究に触れる面白さを感じつつ、自分の研究を深めるだけでなく、異なる分野の考え方を取り入れることの重要性も実感しました。まずは今回明確になった課題に一つ一つ取り組み、次回の学会では、今回よりも解析手法や結論の根拠について深く説明できるよう準備するとともに、自分の研究に近い発表だけにとどまらず、異なる分野の発表にも積極的に触れ、自身の研究に新たな視点を取り入れたいと考えています。
この度は、このような貴重な機会とご支援をいただき、改めて感謝申し上げます。
2026年8月26日から28日にかけて開催された「2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会」に参加し、自身初となるポスター発表を行いました。
当日は多くの方に足を止めていただき、活発なディスカッションを行うことができました。さまざまな質問やご意見をいただく中で、自分自身の理解が十分でない部分が明確になっただけでなく、自分ではあまり意識していなかった側面に興味を持っていただくこともあり、「自分の研究のどこが他者から見て面白いのか」を知る大変貴重な機会となりました。また、研究内容を第三者に説明し、議論を重ねることで自分自身の理解も深まり、研究における議論の大切さを改めて実感しました。
他の参加者のポスター発表では、全体としてオミクスデータを扱う研究が多く、中でもSpatial Omicsに関する発表が多かったことが印象に残っています。実際に空間トランスクリプトームデータの取得から解析までを一貫して行っている研究室もあり、現在非常に注目されている分野であることを実感しました。
さらに、ONTの技術を応用し、将来的なペプチドの直接読み取りを目指してナノポアを設計する研究についてもお話を伺うことができました。現在のONTのナノポアは核酸の読み取りに適した構造となっているため、アミノ酸を読み取るためには異なるポア径や構造が必要になるとのことで、MDシミュレーションと実験の両面から最適なナノポアを設計されていました。現時点では実際にペプチド配列を直接読み取る段階には至っていないとのことでしたが、以前から興味を持っていた技術について、実際に研究されている方と直接お話しできたことは非常に良い経験となりました。
講演からも多くの学びを得ることができました。中でも、黒川顕先生・浅井潔先生による「生命の理解と設計・制御を目指すバイオ生成AI」が特に印象に残っています。近年のゲノム基盤モデルは性能面で成熟しつつある一方で、その性能は学習に用いるデータの選び方や学習順序、条件付けによって大きく左右されるとのことでした。しかし、Evo 2のような大規模モデルでは一度の学習に数か月を要するため、さまざまな条件を試すことは容易ではありません。そこで黒川先生は、より小規模なモデルを独自に構築し、効率的に条件を検討した上で大規模モデルへつなげる工夫をされているとのことでした。既存の大規模モデルを利用するだけでは見えにくい、実際のモデル開発における試行錯誤について知ることができた点も非常に興味深く、モデルの規模や構造だけでなく、どのようなデータをどのように学習させるかというデータ設計の重要性を強く感じる講演でした。
今回の学会を通して、自分の研究を改めて見つめ直すとともに、普段触れることの少ない研究や技術にも多く触れることができました。初めてのポスター発表という点でも非常に良い経験となったため、今回得られた意見や学びを今後の研究にしっかりと生かしていきたいと思います。
2026年8月26日から28日にかけて小田急ホテルセンチュリー相模大野にて開催された、2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会(IIBMP2026)に参加し、ポスター発表を行ったので、本稿ではその概要を報告する。本大会のテーマは「生成AI時代にバイオインフォマティクスがつなぐライフサイエンスコミュニティ」であり、生成モデルや基盤モデルが急速に浸透しつつある現在、計算科学が生命科学の各分野をいかにつなぎうるかという議論が、口頭発表・ポスター発表を通じて活発に交わされていた。研究室に配属されてから初めての全国規模の学会発表であり、自身の研究を外部の研究者に問う最初の機会でもあった。以下では、学会全体の印象、自身の発表と質疑、印象に残った発表、そして交流を通じて得た学びについて述べる。
まず学会全体の印象として、扱われている対象と手法の幅広さに驚かされた。タンパク質や核酸の構造予測、抗体やペプチドの設計、単一細胞データの解析、ゲノム配列からの機能予測、さらには臨床データの時系列解析まで、生命科学のほぼ全域に計算科学的アプローチが入り込んでいる。一方で、その多くが生成モデルや大規模言語モデルを何らかの形で用いており、方法論のレイヤーでは急速に共通言語ができつつあることも強く感じた。また、アカデミアだけでなく製薬企業をはじめとする企業の研究者の参加が多く、実用化を見据えた議論が随所で交わされていたことも印象的であった。自分が取り組む中分子の膜透過性予測は決して主流のテーマではないが、隣接する分野の発表から着想を得られる場面も多く貴重な機会であった。
自身のポスター発表では、環状ペプチドの膜透過性予測において、モデルに入力する立体構造の選び方を見直した研究を発表した。環状ペプチドは柔軟な分子であるため、単一の構造ではなく複数の立体構造をまとめて入力するのが一般的である。しかし従来はエネルギー的に安定な構造を上位から選んでおり、選ばれた構造どうしが互いによく似てしまうという問題があった。実際に定量してみると、入力立体構造数のうち実質半分程度の情報しか持っていなかった。そこで、あえて互いにできるだけ離れた構造を選ぶようにしたところ、実質的な多様性は入力数どおりに近い水準まで回復し、モデルの構造を一切変更しないまま予測精度が明確に改善した。モデルではなく入力の作り方を問い直すという主張は、幸いにも多くの方に興味を持っていただけた。
質疑では鋭い指摘を数多くいただいた。選抜アルゴリズムの選定理由については、決定論的で扱いやすいことを重視したと答えたが、外れ値を拾いやすく計算量も大きいという弱点があり、クラスタリングや確率的な多様性選抜への拡張を検討している。多様性を優先することで物理的に妥当でない構造が混入しないかという指摘は、我々自身も懸念していた点であり、配座生成の段階でエネルギーによる足切りを行っていることを説明したうえで、より外れ値に頑健な選抜手法の必要性を再認識した。集約時の重み付けをどのように学習しているのかという質問に対しては、単純な平均ではなく学習可能な重み付けを用いていると答えたが、既存の注意機構との違いをその場で明快に説明しきれなかったことが心残りであり、自身の理解の粗さを突きつけられた。構造を「異なる」とみなす閾値の恣意性についても指摘を受けたが、値を前後に振っても傾向が変わらないことを事前に確認していたため、根拠を持って答えることができた。準備の段階でどこまで詰めておけるかが本番の質疑の質を決めるということを、身をもって学んだ。
他の発表からも多くの刺激を受けた。特に印象深かったのは、抗体の設計に関する発表である。骨格の生成、配列の設計、構造予測による絞り込み、結合エネルギーの評価という多段階の枠組みを組み、計算コストの高い評価の前段で候補を効率よく絞るという設計思想は、扱う分子は違えど自分の研究にそのまま応用できる考え方であった。また、構造予測モデルの信頼性を検証した発表では、柔軟な鎖を含む複合体ほど予測精度が下がる傾向が示されており、柔軟性そのものが本質である環状ペプチドを扱う自分にとって、予測構造をどこまで信頼してよいのかを考え直す契機となった。分子動力学から得た知見を構造予測モデルの推論時の制約として与えることで、モデルを再学習せずに化学的な妥当性を改善しようとする発表や、複数のAIエージェントが役割を分担して創薬プロセスを進める発表も、生成AI時代らしい発想として強く記憶に残っている。
交流という点でも収穫の多い学会であった。ポスターの隣が同じく環状ペプチドの膜透過性を扱う研究であったことから発表後に挨拶に伺い、計算手法の違いについて議論することができた。ある先生からは、データが限られる状況では分子動力学をデータ拡張に用いるという発想があると助言をいただき、別の先生からは、近い課題に取り組む研究者を紹介いただけることになった。実験系の外注に関する実務的な情報を教えていただく場面もあり、こうした情報は論文や資料からは得にくいものだと痛感した。名前と研究内容を覚えていただくことの重要性を実感し、今後は発表後の連絡も含めて丁寧に関係を築いていきたい。
総括すると、今回の学会参加は、自身の研究の主張が外部に届くかを確かめると同時に、説明の詰めの甘さと今後の課題を明確にする機会となった。次回の学会に向け、聴衆の背景に応じて説明の粒度を変えられるよう、複数の説明の型を用意しておきたい。貴重な発表の機会と日々のご指導をいただいた研究室の皆様に、この場を借りて深く感謝申し上げる。
2026年8月26-29日の日程で相模大野にて開催された2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会 (以下バイオインフォマティクス学会) に参加したのでその報告を行う。
この学会に参加したのは一昨年国際学会として沖縄で行われた2024年大会以来の2年ぶりである。その中でまず感じたことが、wetがメインであろう発表が明らかに増えたという点である。想像ではあるが、これまでdry専門であった研究者がwet実験を始めたのではなくて、wet実験者がdry解析を実施するようになったのだと思っている。いくつか理由はあるが、まず研究の設計や課題設定がwetありきである研究が多い印象である。AI技術の進歩によって、情報技術を利用するという点においてはかなり民主化しているように感じた。これまで幾つかの学会に継続的に参加してきているが、ここまで劇的に変化を感じたのは初めてである。AI技術の民主化が起きている中で、どこに自分の価値を見出していくのかを改めて整理していく必要性を強く感じた。
バイオインフォマティクス学会に限らず個人的に糖鎖に関する講演があれば聞くようにしている。数年前の分子生物学会では、個々の糖鎖修飾が活性や機能に与える変化の議論が中心でデータベース化には程遠い印象を受けていたがが、今回のバイオインフォマティクス学会においては大規模なデータベースとして糖鎖修飾の情報が整理・体系化され始めているということを感じた。それを印象づける演題として、今回、2026年度日本バイオインフォマティクス学会賞を受賞された木下フローラ聖子先生(創価大学)の受賞講演を挙げたい。
木下先生は、コンピュータ工学を背景として糖鎖科学の研究に参入し、糖鎖生物学とバイオインフォマティクスを融合した研究を長年にわたり推進されてきた。糖鎖はDNAやタンパク質に続く「第三の生命鎖」とも呼ばれる一方、構成単位や結合様式が多様で、さらに分岐構造を形成するため、配列情報を中心とするゲノムやタンパク質と比較して情報の標準化が難しいとのことである。こうした複雑性に対し、木下先生らは糖鎖構造を登録する国際的なリポジトリであるGlyTouCanを開発し、現在では25万件を超える糖鎖構造が収載されているそうだ。講演を聞いて特に印象に残ったのは、単に大規模なデータベースを構築するだけでなく、糖鎖情報を研究者間で共有・再利用するために、構造の表現方法、登録時のメタデータ、国際的なデータ連携までを一体として整備している点である。これまで個別の糖鎖について各々が取り組んでいたものを、体系化して取り扱えるようになっているのは数年前の分子生物学会では想像もできない糖鎖研究の進展である。現在は、2023年から10年間の計画で開始されたヒューマングライコームアトラスプロジェクトが進められている。このプロジェクトでは、ヒトの糖鎖構造を網羅的に解析し、レファレンスとなるグライコームマップを作成するとともに、疾患関連バイオマーカーの探索や糖鎖関連酵素の活性・パラメータ解析を行うことが計画されている。最終的には、糖鎖を自在に設計・制御できる「ネオ細胞」の実現を目標としており、ヒューマンゲノムプロジェクトやヒューマンプロテオームプロジェクトに続く、大規模な生命情報基盤の構築として位置づけられている。
数年前に糖鎖関連の講演を聞いた際には、個別の糖鎖修飾と生命現象との関係を一つずつ明らかにしていく段階にあるという印象が強かった。それに対し、今回の講演では、個別に蓄積されてきた知見を標準化された形式で集約し、網羅的な解析や疾患研究、さらにはそれを応用して細胞設計へと展開するための基盤が形成されつつあることを実感した。
このほかにも、企業様の展示ブースでも利用可能な糖鎖データベースの紹介があるなど、今後糖鎖研究が加速していくような気配を至るところで感じた学会であった。
最後に、自身のポスター発表について振り返りたい。今回のポスターは前回参加した時の反省を踏まえて、よりバイオインフォマティクスとして議論できる方向に作成したつもりだったが、これが裏目に出てしまった。冒頭に述べたように学会に参加している研究者の背景が大きく変化していたことが大きな要因であると考えている。というのも、今回わざわざ入れた内容に関して聴衆の先生方から全く質問されずに、逆に外した実験の内容について何度も質問された。その度に口頭で説明することになってしまい、最終的には質問される前に「ここにはないデータなのですが」という枕詞とともに発表していた。また、今回のポスター発表はいつもよりもシニアな先生方や企業の方が多く足を運んでくれた印象がある。中には事前に私のポスターをチェックして、具体的な連携提案を提示してくれた企業さんもいらっしゃった。要旨の段階で興味を持ってくれたのは非常に嬉しい限りである。また、今回ポスター発表する中で足を運んでいただいた方々の専門についてdry・wetの比はほとんど1:1であった。そのような中で、どちらのバックグラウンドの先生にも適切な発表ができたと振り返っている。これはこれまで様々な領域の学会での発表や日々のmeeting等を通じて培われてきた力だと感じている。様々な学会への参加や発表の機会をいただける清水研は恵まれていると改めて思った。その具体的な結果として、ありがたいことに優秀ポスター賞をいただいた。
学会参加・発表の回数が増えてきたことで、今回の学会では様々な流れを感じることができた。私自身初の学会参加から今年で5年目に入るが、今後も積極的な学会参加を継続していきたい。
8月26日から8月28日にかけて、神奈川県相模原市で開催された2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会に参加させていただきました。本学会では、ゲノム解析、シングルセル解析、遺伝子制御ネットワーク、代謝モデリング、ゲノム編集、生成AIなど、幅広い研究発表が行われました。参加したセッションの中から、特に印象に残った内容について記します。
今回の招待講演では、今井翔太先生による最新のAI研究の動向に関するお話をお聞きすることができました。私はバイオインフォマティクスに関する最新情報はキャッチしていますが、バイオ以外のAI研究には深くキャッチアップできていませんでした。講演では生成AIの性能向上とAIエージェントの発展、ならびに、それらが科学研究や社会に与える影響について紹介され、非常に印象に残るとともに、これからどのように生命科学においてこれらの技術が応用されるのか、人間が研究を行う意義を考える良いきっかけとなりました。
今回、非常に印象に残ったのは、数理モデルを用いた研究です。特にゲノムスケール代謝モデル(genome-scale metabolic model: GEM)に関するセッションが印象に残りました。GEMは、ゲノム情報から再構築した代謝反応ネットワークに培地条件などの制約を加え、細胞内の代謝フラックスや増殖可能性を計算する枠組みです。セッションの中では特にJason A. Papin先生の講演が非常に印象に残りました。Papin研究室が開発したReconstructorは、アミノ酸配列からCOBRApy互換の代謝モデルを自動構築し、parsimonious FBAを利用したgap-fillingまで行うツールです(Jenior et al., *Bioinformatics*, 2023)。多数の微生物ゲノムからdraft modelを構築できるため、大規模な比較解析の基盤として有用であると感じました。また、GEMを創薬へ応用した例として、914株のヒト病原性細菌の代謝モデルを構築し、生息部位に特異的な代謝依存性から抗菌標的を探索した研究も印象に残りました(Glass et al., *PLOS Biology*, 2024)。この研究では、胃に関連する複数の病原菌で共通して必須となる候補遺伝子を計算的に抽出し、候補阻害剤を用いた培養実験によって増殖阻害を検証しています。自分はヒトを対象にGEMを用いたフラックス推定を行っていましたが、細菌の代謝モデルを物質生産に用いるだけでなく、治療に利用するのは非常に興味深いと感じました。他のセッションでもシングルセルデータから遺伝子制御ネットワークや細胞状態の変化を推定する数理モデルに関する発表が複数あり、非常に印象に残りました。このセッションでは質疑応答が活発で有意義な討論が行われていました。
また、ゲノム言語モデルに関するセッションについても興味深く拝聴しました。バイオ生成AIに関するセッションも興味深く拝聴しました。私はEvo 2に代表されるゲノム言語モデルについて、論文を深く読み込んでみたりチュートリアルを動かすことはしておりましたが、実際にモデルを再訓練したり、様々なタスクで実行した結果をお聞きすることができました。モデルを動かした際の実際の「肌感覚」を共有していただき、非常に勉強になりました。
ポスター発表では、今回私は、代謝フラックス推定における「細胞種別代謝フラックス推定による心筋症横断的な代謝リプログラミングの解明」というタイトルで発表させていただきました (Sakuma et al., *bioRxiv*, 2026)。実際に数理モデルを扱っている研究者の方々とディスカッションさせていただくことができ、貴重な機会となりました。これらを研究に反映していきたいと考えています。また、今回のポスター会場は全体が熱気に満ちていて様々なディスカッションが行われていました。自分自身も様々なポスターを拝見し、ディスカッションをさせていただくことができ、大変勉強になる部分がありました。今回得られた知見を自身の研究にも活かしていきたいと考えています。
今回の学会では、普段の研究分野に近い発表だけでなく、代謝工学、進化ゲノミクス、シングルセル解析、ゲノム編集、AIを用いた科学研究など、幅広い分野の講演を聞くことができ、多くの刺激を受けました。今回はAIがメインであるセッションも多かったですが、AIではない情報科学のアプローチによって生命科学の理解を目指す研究も多くありました。こうした発表を聞く中で、AIを含む最新技術を利用すること自体を目的とするのではなく、どのような生物学的課題を解くためにその技術を使うのか、また予測結果をどのように検証するのかを明確にする必要があると感じました。今回得られた知見や視点を今後の研究活動に活かし、自身の研究においても、計算解析と実験を有機的に結び付けた研究を進めていきたいと思います。最後に、本学会を企画・運営してくださった関係者の皆様ならびに、貴重な研究成果をご発表いただいた先生方に深く御礼申し上げます
2026年8月26日から28日にかけて相模大野で開催された、2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会に参加したため、以下に報告する。本学会への参加は昨年に続いて2度目であり、今年もさまざまな新しい知見や示唆を得る貴重な機会となった。
数多くの魅力的なセッションの中でも、特に楽しみにしていたのが、株式会社GenesisAI代表取締役社長/CEOの今井翔太先生による基調講演であった。「生成AI技術の発展の見通しと社会への影響の展望」と題し、生成AIの現在地と今後の発展、それらが社会にもたらし得る変化について、専門家の視点から解説された。中でも、現在の社会は高度な知能を持つ存在が希少であることを前提として成り立っており、賢くなりすぎたAIが数多く存在するようになった場合、従来の社会構造そのものが大きく変化し得るという議論は、非常に考えさせられるものであった。また、発表の作り方という観点からも、一つ一つに具体的な例やエピソードを交えながら説明されていた点も印象的であった。1時間に及ぶ講演であったが、最後まで興味深く拝聴することができた。
私自身も、「TCR-pMHC結合予測AIによる自己免疫疾患の病態解明」という題目でポスター発表を行った。免疫学とバイオインフォマティクスを横断するテーマであったためか、昨年と同様、事前に発表をブックマークして足を運んでくださった方も複数おられた。聴衆の方々には積極的に質問していただき、モデルの評価方法や研究の今後の展開について議論する中で、多くの有益な示唆を得ることができた。また、2日目の夜に開催された懇親会にも参加し、他研究室や企業で研究に取り組む同世代の方々と交流することができた。互いの研究内容に加え、研究生活における苦労や将来について率直に話すことができた点も、印象に残っている。
大会全体を通して、昨年と比較するとドライ解析のみで完結する研究よりも、dry解析とwet実験を組み合わせた研究が多く見られたことが印象的であった。AIの発展によって高度な解析を行うための技術的障壁が低くなりつつあるからこそ、独自の問いを立てることや、それを検証できるデータや実験技術を持つことの重要性を強く感じた会であった。
2026年8月26日から28日にかけて、神奈川県相模原市の小田急ホテルセンチュリー相模大野にて開催された2026年度日本バイオインフォマティクス学会年会に参加した。本年会は、ゲノム配列解析や生命情報科学を専門とする研究者が一堂に会する国内最大級の情報生命科学の学会であり、近年は大規模言語モデルをはじめとする基盤モデルの生命科学への応用が主要な話題となっている。創薬および薬物動態予測を専門とする私にとって、配列情報を主たる対象とする本学会は必ずしも自身の研究領域と重なるものではないが、大規模モデルの構築・解釈に関する最先端の知見に触れるとともに、自身のポスター発表を通じて異分野の研究者と議論を交わす貴重な機会となった。本報告書では、本年会で特に印象に残った講演および自身のポスター発表について述べる。
まず基調講演では、北陸先端科学技術大学院大学客員教授であり、GenesisAI代表取締役社長CEOでもある今井翔太先生が、生成AIの急速な進化が社会および科学研究に与える影響について、俯瞰的な視点から議論を展開された。講演では、計算資源・データ量・モデルパラメータの三要素を拡大することで性能が向上し続ける「スケーリング則」と、人間の専門知識を細かく作り込むよりも計算力を背景とした汎用的な手法が最終的に優位に立つというリチャード・サットンの「苦い教訓」が、現在のAI開発を支える理論的支柱として紹介された。2026年現在、AIは既に博士号取得者に匹敵する専門知識を備えるに至り、その役割は受動的なチャットボットから、目標を与えれば長時間にわたる調査やソフトウェア開発、研究プロセスを自律的に完遂する「AIエージェント」へと転換しつつある。METR等の第三者機関による評価では、エージェントの作業完遂能力はおよそ4ヶ月で倍増するペースで向上しているとされ、当初の予測を大幅に上回る速度で進展していることが示された。この進化を支えているのは、単なる「次の単語の予測」という枠組みを超え、思考時間をスケールさせることで高度な論理推論を実現した推論特化型モデルの成功である。これに伴いAIの評価基準も、既存の知識量を測るテストから、限られたデータのみから未知の科学的概念を自力で創出できるかを問う「アインシュタインテスト」のような独創性・発見能力を問うものへと移行しているという指摘は非常に示唆的であった。また、動画生成AIが映像データから重力や衝突といった物理的構造を学習する「世界モデル」としての地位を確立し、実世界での試行錯誤を仮想空間内で大幅に短縮できるようになった点も印象的であった。一方で、高度な専門知識の民主化がバイオセキュリティやサイバーセキュリティ上の深刻な脅威となり、性能の追求と安全性の確保がトレードオフの関係にあるという指摘は、AIを研究手段として用いる立場としても重く受け止めるべき論点であると感じた。最終的に今井先生は、真の課題は便利なツールとしてAIを利用することではなく、人間を前提に構築されてきた法制度や社会システムそのものをAIが十全に機能する形へと再設計する「AIトランスフォーメーション(AX)」を完遂することにあると結論づけられ、大きな示唆を得た。
「生命の理解と設計・制御を目指すバイオ生成AI」と題したセッションでは、二件の発表が特に印象に残った。一件目は、東光一先生による「ゲノム言語モデルの原理・応用と国産モデル開発」と題した講演である。本講演は、ゲノム言語モデル(GLM)の基礎理論から、現在進行中の国産モデル開発における「失敗と克服」までを包括した内容であった。2026年現在、米国のEvo 2が世界標準となっているが、東先生らは「1塩基=1トークン」というシンプルな単位を採用し、13.1兆塩基という圧倒的な規模の学習を行う国産モデルをゼロから構築されている。GLMの真髄は、自己回帰モデルが出力する「配列の尤度」を生物学的な「適応度(Fitness)」として解釈する点にあり、これにより進化的に妥当と判断された配列が高い確率で出力され、バクテリオファージの設計をはじめとする新規バイオデザインが可能になるという。特に興味深かったのは、開発プロセスが「ロス・スパイク」との戦いでもあったという点である。数百枚のGPUを数ヶ月稼働させる中で、損失値が突然跳ね上がり学習が崩壊する現象が頻発したが、原因を精査した結果、ゲノムデータ特有の「GC含量の極端な偏り」や「進化的に孤立した配列」が特定の学習バッチに集中することが引き金となっていることが判明した。東先生らは、単純なランダムサンプリングではなく、系統樹に基づいてバッチ内の進化的多様性を最大化する「Taxonomic Mixing(分類学的混合)」を確立し、学習の安定化に成功された。GLM開発の本質が計算資源の投入量ではなく、対象データの性質を踏まえたデータ工学にあるという指摘は、扱うデータは異なるものの、偏りの大きいデータセットを用いてモデルを学習させる自身の研究においても直接的に通じるものであり、サンプリング設計の重要性を改めて認識させられた。
同セッションの二件目として、鈴木翔介先生によるSparse Autoencoder(SAE)を用いたモデル解釈に関する発表も強く印象に残った。本発表は、AIの予測精度を競う段階から、ブラックボックス化した内部構造を解明する「解釈性研究」への転換を象徴するものであった。巨大なゲノム言語モデルの内部では、1つのニューロンが複数の生物学的概念に対応してしまう「重ね合わせ(Superposition)」という現象が生じている。これはモデルの次元数に対して捉えるべき生命現象の数が圧倒的に多いことに起因する。鈴木先生はこの課題に対し、埋め込み表現を元の次元より遥かに大きな空間へ射影することで情報の混ざり合いを解きほぐすスパース・オートエンコーダを用いた解析手法を提示された。具体的な検証対象としては、植物のミトコンドリアゲノムに存在し花粉を作らせない性質を持つ「細胞質雄性不稔(CMS)」関連遺伝子に着目している。解析の結果、世界標準モデルであるEvo 2の内部に、既知のCMS原因遺伝子(ダイコンのorf138やトマトのorf13など)に対して特異的に強く反応する特徴量が自律的に形成されていることを突き止めた。ミトコンドリア由来のデータは学習データ全体の中では極めて希少であるにもかかわらず、AIが人間の教示なしに「不稔を引き起こす特殊なゲノム構造」を一貫した概念として抽出していたことになる。この知見は、モデルの内部をのぞき込むことで未知のゲノムデータから有用な遺伝子や進化のルールを「自動発見」できる新たな科学的手法の誕生を予感させるものであり、予測精度の向上のみを目的とせず、モデルが何を学習したのかを問うという姿勢は、予測の信頼性と説明性を重視する自身の研究においても強く意識すべき視点であると感じた。
最後に、自身のポスター発表について述べる。今回は、薬物動態を考慮したマルチタスク学習によるADME・血中濃度プロファイル予測に関する研究を発表した。配列情報を主たる対象とする本学会において、化合物の物性・薬物動態予測という題材は周辺的なものである。しかし、限られたラベルから汎化性能をいかに確保するか、そして得られた予測をどこまで信頼してよいかという問題設定は対象データによらず共通しており、議論はむしろ方法論の水準で噛み合うことが多かった。特に不確実性の定量化と適用範囲の判定については、生命科学データを扱う企業に所属する研究者の方々から、自身の対象データに置き換えた場合にその枠組みが成立するかという踏み込んだ質問をいただき、深層学習を科学的な意思決定に用いる際の共通課題であることを改めて認識した。また、機構論的な制約を損失関数に組み込むという設計に対しては、制約そのものの妥当性をどう検証するのかという本質的な指摘を受け、今後の検討課題として持ち帰ることとした。専門外の聴衆に説明する際には、薬物動態の前提知識を補うことに紙幅を割くよりも、分野に依存しない方法論上の新規性を軸に構成した方が議論が深まるという手応えも得られた。本年会で得られた基盤モデルの構築および解釈性に関する知見と、ポスターセッションで受けた指摘を、今後の研究に還元していきたい。
このたび、2026年日本バイオインフォマティクス学会年会(相模大野)に参加させていただいたので、その参加報告をさせていただきます。
清水研究室に参入してから(元研究室関連の学会を除いては)初の学会発表となり、自身の研究成果を発表する機会を頂けたことを有難く思っております。バイオインフォマティクス関連の学会に参加することは自分自身初めての経験であり、発表や議論される内容などが、これまで参加した学会とは大きく異なり、大変刺激を受けました。
特にポスター発表においては、オミクス解析やシステム生物学、ケモインフォマティクス、臨床インフォマティクスなど、バイオインフォマティクスに関連する様々な領域からの発表が集まっており、短い期間で多くの情報収集や意見交換を行うことができ、非常に有意義な時間となりました。また、学会ならではの様々なワークショップが組まれていたのが印象的でした。その中でも次の2つのワークショップを紹介させていただきます。
「NEDO量子キャラバン バイオインフォマティクス編~その課題、量子で解けるかも?~」は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) が主催している、量子技術のビジネスや地域産業、研究開発などへの普及を目指した「量子キャラバン」の一環としてバイオインフォマティクス学会でも開催されたものです。治療薬探索やゲノム医療の最適化などのバイオインフォマティクス上の課題に対して、どのように量子技術を応用していくかという内容について、バイオインフォマティクス専門家・量子技術専門家・一般参加者という組合せで5~6人が一組となってパネルディスカッションが行われました。このセッションの他にも、量子コンピュータに関連するポスター発表が複数件行われていたなど、量子技術のバイオインフォマティクス領域への応用が着々と進みつつある現状を肌で感じることができました。
「バイオインフォマティクスとAI codingのこれから」のセッションは現在の研究現場において非常にホットな話題であり、実用的なアドバイスも多く含まれる講演・パネルディスカッションでした。アカデミア研究者・企業研究者・大学院生という立場の異なる3人の登壇者の方が研究におけるcoding agentの使用方法について実例を交えて紹介されていました。使用方法の細かい部分は異なるものの、「人間の研究者が手綱を保った状態でcoding agentを扱う」ための手段として、「対話を重ねた上でタスクを任せる」「明確な評価指標を設定してあげる」「結果の理解を大事にする」という点を強調されていたのは、3方とも同じだと感じました。当然のことではありますが、非常に高いcoding能力を有するcoding agentの利点を最大限に生かしながら、いかに研究の舵取りをしていくかというバランスの重要性を再認識させられたという意味で、大変有意義なセッションであったように思います。おそらく同じ感想を持った参加者の方も多いと思いますし、coding agentの発展と並行する形で来年度以降も同様のワークショップの開催を期待したいと思うような企画でした。
最後に自身のポスター発表などについて振り返りたいと思います。今回は「天然物生合成酵素の機能予測AI基盤の創出」というテーマで発表させていただきました。まず、研究室外の方々から研究についてフィードバックを頂く初めての機会であり、特に立ち上げ段階の研究の方向性について議論をさせていただく大変貴重な機会となりました。モデルや特徴量の選択、またそもそもの課題設定について、質問に回答するだけで必死な状況で気づいたらポスター発表時間が終わっていたという感じでした。その中でも、有益なデータベースや論文の情報を教えてくださる方が多数いらっしゃり、それだけでも発表した価値があったように思います。今回は自身が学ぶことが多かったので、他の方の研究を聞いて理解するだけでなく、有意義な意見を出して議論できるように知識を付けていきたいと思います。また、「天然物生合成酵素」というバイオインフォマティクス学会の主流からは少し離れた研究内容を、聴衆の方々の背景知識に応じて分かりやすく伝えるのが難しく、事前に準備した原稿通りにはいかない部分であると感じました。この点は次回発表への課題としたいと思います。
その他、ポスター発表で、構造予測モデルを活用したAI創薬、また環状ペプチドの配座解析、など自身の研究テーマに近いポスター発表をされていた方々と綿密に議論をすることができ、他の研究者の方々がどのような課題意識を持たれているのかなど、貴重なお話を伺うことができました。これは本学会に参加しなければ得られなかった情報であり、目の前の研究を進めながら、今後も情報交換の機会を大事にしていきたいと強く思いました。
最後になりますが、日頃より研究について議論させていただいている清水先生をはじめとする研究室の皆さんに感謝を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
この度、2026年8月26日から28日まで神奈川県相模原市で開催された2026年日本バイオンフォマティクス学会年会に参加してきたので、その感想を共有する。本学会へは参加は、学部4年生の頃に参加して以来、毎年参加しており、今回で4回目となる。今回は自分の実験の都合などで一部の日程しか参加できなかったが、短いながらも実り多い学会参加となった。
発表として印象に残っているのはスプライシングの部位を予測するAIモデルの開発に関する研究である。スプライシングとは生命の設計図であるDNAから、その設計書のコピーのようなものであるmRNAが合成される際に起こるプロセスである。具体的には、DNAの一部の領域のコピーが作られる過程で、そのコピーされた部分のうち本当に必要な部分だけを切り出す操作である。そしてスプライシングによって成熟したmRNAから細胞の部品たるタンパク質ができる。スプライシングによる切り出しは複数のパターンがあるため、1つのmRNAから複数種類の成熟mRNA (アイソフォーム) が作られ、これが細胞機能にとって非常に重要な役割を担っている。また、この疾患においてこのスプライシングの異常が認められていることからも、ある細胞で、各成熟mRNAがどの程度作られるかを明らかにすることは生物学的・医学的に重要な課題である。この問いは、DNA配列のうち遺伝子をコードしている領域のどの部分でどの程度スプライシングが起こりやすいかという問題に置き換えることができ、これが今回紹介するAIが解いている課題である。
これまでのスプライシングに関する研究によって、スプライシングが起こる部位の周辺に特徴的な配列があることが判明してきているがその全貌は明らかではない。また、それらの既知の特徴的な配列の有無だけで完全に予測できるわけではなく、それらがどのような文脈 (周辺の配列) に存在しているかも重要であり、未知の特徴配列の存在も考えられる。そのような背景から近年AIによるスプライシング部位予測に注目が集まっている。大まかには、ヒトの成熟mRNAの配列を学ぶことで、DNA配列上のこの位置が切り出しの際の切断部分になりうるかということを予測できるようになるということである。今回の研究は、従来のスプライシング部位予測AIが抱える解釈性と受け付ける配列の長さのトレードオフを解決するべく、画像のAIに着想を得て新たなAIアーキテクチャを開発したというものである。自分はこの領域のAIについてはほとんど初心者であったので、細部まで全て理解できたわけではないが、研究のストーリーや、面白さは実感することができた。発表の構成など非常に参考になると思って聴講していたが、後日こちらの発表が最優秀ハイライトトラック (publishされた研究についての口頭発表) 賞を受賞したと聞いて納得した。自分たちが現在アイソフォームに着目した研究をしていることから、この論文については後日勉強会で自分が取り上げてさらに勉強させていただいた。これまであまり知らなかった領域の研究に触れ、詳しく勉強するきっかけを作れるのも学会の醍醐味であると再認識した。
自身の研究発表については、今回初めて学会で発表するテーマについてポスター発表を行なった。真空中や人にとっての致死量の数千倍の放射線下・絶対零度付近でも死滅しない脅威的な生存力を持つ虫であるクマムシについて、その極限耐性に関わる遺伝子をAI予測し実験で実証したという内容である。ポスターについては他のテーマについてではあるがこれまでに毎度の学会で自分なりのこだわりを持って作成し、各学会での反省や他のわかりやすいポスターを見てブラッシュアップをするということを繰り返していた。ゆえに今回のポスターはかなり渾身の出来のつもりであり、実際発表している際にも説明しやすい構成になっていると思えた。しかしそれでも他のポスターと並べて見てみると、まだまだ改善の余地があると気付かされた。発表期間中には多くの方に来ていただき、ありがたいことに絶え間なく発表・ディスカッションすることができた。しかし、ウェット実験での実証が主眼である本研究のAIやバイオインフォマティクス部分の面白さをどうアピールするかについては、個人的にイマイチな発表だったので次回以降に活かしたい。
また、今回は筆頭演者以外として、自分が関わっている研究に関する演題が3つほどあった。いずれも多くの方に来てもらえたようであり、そのうち2つの演題が優秀ポスター賞に選出された。いずれの演題も自分の貢献は微々たるものであり、筆頭演者の方々の力の賜物に他ならないが、自分ごとのように嬉しく思った。今後とも自分がメインで実施する研究テーマ以外にも機会があれば積極的に参画させていただこうと改めて思った。さらに、今回は勉強会や以前の学会などで知り合った方々とオフラインでお会いすることもでき、短時間の学会参加になってしまったが非常に有意義な機会となった。来年度以降も参加する予定なので、また1年後に参加報告を書こうと思う。
8月26日から28日にかけて、神奈川県相模原市の小田急ホテルセンチュリー相模大野で開催された2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会に参加した。本学会は、バイオインフォマティクスについて幅広いテーマを扱った学会であり、ゲノムや遺伝子発現の解析から、計算創薬まで幅広い領域の研究発表が行われた。興味深い発表ばかりであったが、中でも2つの口頭発表が特に印象に残った。
1つ目は、バージニア大学のJason Papin先生による、微生物の代謝機能の予測を治療法開発につなげる研究に関する発表である。細菌の増殖や病原性には代謝機能が関わっており、その特徴を理解することは、新たな治療標的や治療法を考える手掛かりとなる。ただし、細菌は環境に応じて利用する代謝経路を変化させるため、どのような代謝反応が可能かに加えて、対象の環境でどの経路がどの程度利用されているかを知る必要がある。遺伝子発現情報はその手掛かりとなるものの、転写産物の量が機能する酵素の量をそのまま反映するとは限らず、代謝反応の進み方は基質の供給状況などにも左右される。そのため、発現量だけから代謝状態を判断することは難しい。この課題に対して開発されたRIPTiDeは、遺伝子発現情報と代謝ネットワークを統合し、対象の条件における代謝状態を推定する手法である。反応同士のつながりを踏まえ、発現情報に加えて、増殖を維持しながら代謝全体の負担を抑えるという考え方を取り入れることで、利用されると考えられる経路と、各反応がどの程度進むかを推定していた。発現量だけでは判断しにくい菌の代謝状態を、代謝ネットワークとの統合によって推定できる点が、画期的であると感じた。
また、Papin先生の研究室から発表された別の研究成果として、代謝モデル集PATHGENNを用いた抗菌薬の標的探索が紹介された。この研究では、公開されているゲノム情報から345菌種・914菌株の代謝モデルを構築し、各モデルから予測される代謝反応の流れを比較した。その結果、系統的に離れていても同じ部位に由来する菌では代謝の特徴が似る例が見られた。一方、近縁の菌でも、胃に由来する菌群は他の部位に由来する菌群とは異なる代謝の特徴を示した。こうした生息部位と代謝の関係に着目し、胃に関連する病原菌に共通して必要な遺伝子を探索した。次に、標的候補となった遺伝子がコードする酵素の阻害候補化合物を選び、培養実験で増殖への影響を検証した。その結果、胃に関連する病原菌の増殖が抑制され、他の部位に関連する対照菌では抑制が認められなかった。菌の分類学的特徴だけでなく、生息環境と結び付いた代謝の特徴から治療標的を見いだすアプローチが、大変興味深かった。
2つ目は、国立がん研究センターの野村亮輔先生による、腫瘍と周囲の細胞との位置関係を解析するSCOMVに関する発表である。細胞の位置と遺伝子発現情報を統合する空間トランスクリプトーム解析を用いて、腫瘍組織の特徴を捉え、組織型を分類する手法が開発されている。一方、毛細血管やリンパ濾胞、がん関連線維芽細胞などを含む腫瘍周辺の微小環境については、その局在や配置の特徴を十分に捉えきれない面がある。今回発表されたSCOMVでは、腫瘍周囲の毛細血管などの構造の位置を、腫瘍からの距離と方向に基づく極座標で表し、発現量と組み合わせることで、組織が腫瘍を取り囲むのか、あるいは一部分に偏るのかといった分布の違いを捉え、特徴を抽出していた。腫瘍の組織分類には定まった表現がある一方、微小環境の微妙な違いを表現することは難しい。こうした言語化しにくい特徴を定量的に評価して分類できる手法であり、とても興味深かった。
また、今回の学会ではポスター発表の機会をいただき、腫瘍の遺伝子発現情報と薬剤情報から治療応答を予測するAIモデルについて紹介した。がん治療では、抗がん剤が十分に奏功せず、病状の進行を抑えられない患者もおり、一人ひとりに有効な治療を選択することが求められる。本モデルは、患者ごとの腫瘍の特徴を抽出し、その特徴に応じた薬剤選択を提示することを目指している。参加者の方々からは、モデルの出力の解釈可能性や実際の個別化治療への応用について意見をいただいた。
今回、初めてバイオインフォマティクスの学会に参加し、自分の研究とは異なる分野についても幅広い知見を得ることができた。紹介された研究では、大規模なデータを用いて、実験だけでは網羅的に検討することが難しい多数の対象を比較し、個別には捉えにくい特徴や関係を見いだすことで、新たな視点から生命現象の理解に取り組んでいた。今後は、自身の研究においても、解析から得られた特徴や関係の生物学的な意味を考察し、そこから立てた仮説を実験で検証する研究を進めたい。
