基礎研究医・医学研究者になるには 【大学の選び方も】

中学生や高校生の方を中心に、基礎研究医・医学研究者になりたい、あるいはなるにはどうすればいいのかということをよく聞かれます。ネット上にはその手の記事は他にもたくさんありますが、それらの記事は書いている方が研究医ではないなどの理由で間違っているものも多いです。

そこで、医師として、かつ大学教授として基礎医学系の研究室を運営している立場からリアルな実態を書いておきます。この記事が研究医・医学研究者を目指したいという若い方の進路の参考になれば幸いです。

医学研究は大きく3つの分野に分かれる

医学研究といっても、その内容は広いです。医学は大きく3つの領域にわけることができます。

  • 基礎医学:正常の体の仕組みや、病気の原因、治療法の開発などを行います。今の患者さんの治療ではなく、未来の患者さんの医療を見据えた研究や、そのための基盤となる生命科学研究です。ノーベル生理学医学賞を受賞した日本人の先生は5名いらっしゃいますが、みなこの基礎医学領域の業績です。高校の授業では「生物」の延長だと考えるといいでしょう。
  • 臨床医学: 患者さんの診察・診断・治療など、医療に関する領域です。医師のイメージに一番近いです。患者さんを研究にリクルートして研究をするので、個人研究というよりは大掛かりなチームでの研究となります。
  • 社会医学: 行政と密接に関わる領域の医学研究です。例えば、厚生労働省がまとめるデータを解析して医療政策を提言したり、警察から依頼された不審死を医学的に調べて死亡推定時刻や死因を見出したりします。

おそらく「病気の研究者」に一番近いのは基礎医学研究者だと思いますが、どういった領域を突き止めていきたいかをよく考える必要があります。

基礎研究医と基礎医学研究者は異なる

医学領域の研究者のことを「医学研究者」、その中で基礎医学を研究している人のことを「基礎医学研究者」といいます。「基礎医学研究者」にはさまざまなバックグランドの人がいて、医師免許を持っていない人の方が多いです。「基礎医学研究者」であり、かつ医師免許を持っている人のことを「基礎医学研究医」といいます。

医師免許を持っている人の方が当然ながら広い医学知識を持っていますが、研究は「広さ」ではなく「深さ」が要求されますので、医師免許を持っていなくてもある特定の領域だけに特化して深く研究をすることで医学研究をすることができます。

したがって、基礎医学研究者になりたいのであれば必ずしも医学部を出ていなくても大丈夫です (し、医学部以外の人の方が多数派です)。

研究室でほとんどの時間を過ごす基礎医学研究者と異なり、臨床医学研究者の場合は大学病院に医師として勤めている必要があります。したがって、患者さんとじかに接して臨床研究をしたいのであれば医学科を卒業する必要があるでしょう。

基礎医学研究者になるには

基礎医学研究者になるためには医師免許は必須ではないという話をしました。ですので、大学に入る段階ではどの学部でも大丈夫です。理学部生物科や薬学部・農学部の方が多いですが、工学部の方もいます。専攻に関わらず、学部生時代に専門的な研究をすることはほぼありません。科学者としての土台をつくる大事な期間とお考えください。大学生にバイトやサークルより「研究部」をオススメする理由も読むといいでしょう。専門分野はもちろんですが、幅広いサイエンスを学ばれることを強く勧めます。当研究室では、医療・生命科学・データ科学を学べるオンラインの学生勉強会Biomedical Data Science Clubもやっていますので、自己投資をしたい熱意ある方は大学生になったら来てください。

また、研究者を目指す方へのキャリアガイドはこちらにまとめています。

研究者になるには、最低でも修士号 (ベンチャー企業などでの研究職など)、普通は博士号 (大学や国立研究機関、中企業・大企業の研究職) が必要です。ですので、大事なのは大学院に進学する時です。大学院に入ると授業のようなものはほぼなく、毎日ひたすら選んだ研究室で下積みトレーニングを行います。そのため、大学院に入るのは学校ではなく、その先生個人への弟子入りだとお考えください。優れた研究者は研究環境が整っている有名大学に集まっています。日本国内には数百の大学院がありますが、その中でトップ20、できればトップ10くらいの有名大学の大学院でないと研究者になることはかなり難しいでしょう。トップ大学の先生が主宰する研究室の中で、自分にとって最も成長できそうなところを選んで弟子入りする必要があります。大学院を探すときのアドバイスはこちらです。

また、大学院生活についてはこちらも読んでください。