研究者の目指しかた: 医学系・生命科学系研究者になるには
iPS細胞の山中伸弥先生、オートファジーの大隅良典先生、免疫チェックポイント阻害薬の本庶佑先生、そして2025年には制御性T細胞の坂口志文先生と、日本の研究者が次々にノーベル賞を受賞しています。その影響もあってか、清水のもとには「研究者になりたい」という学生さんからの問い合わせがたくさん届き、中学生からメールをいただいたこともあります。
ただ、そうした声を聞くなかで感じたのは、研究者の実際の姿を知っている方がとても少ないということです。「研究者になるには」という記事は世の中にたくさんありますが、書き手が研究者ではないことも多く、研究者が書いたものでも、PI(教授など研究室を主宰する立場)のその先までは書かれていないものがほとんどです。そこで、現役のPIとして、研究者を目指す皆さんの道しるべになるようなキャリアガイドをまとめることにしました。
最初にお断りしておくと、「研究者」はとても広い言葉です。私が語れるのは理系の研究者、特に実験も行う基礎医学系・生命科学系の研究者についてです。また、企業で働く研究者も多くいますが、企業の研究は製品開発に近かったり、数年で異動があったりと、私が詳しく知らない世界なので、ここでは大学などで研究するアカデミア研究者について、各段階で何が求められるのか、そして進路を考えるうえで大事なお金の話も含めて、一般論としてまとめました。
研究の世界は、スポーツ選手や音楽家と同じく競争のある世界です。だからこそ、良いところだけでなく大変なところも正直に書きました。読んだうえで「挑戦してみたい」と思っていただけたら、とても嬉しいです。
中高生の方へ向けたメッセージ
研究者というと「自由な発想がすべて」というイメージがあるかもしれませんが、実際には思っている以上に地道な積み重ねの仕事です。裏を返せば、これまでに積み上げられた知識の上に、一歩ずつ確かな進歩を重ねることが未来の科学を創るともいえます。だからこそ、教科書や文献に書かれていることを正しく理解する力、つまり基礎学力がとても大切です。学校で習う科目は、どれもまんべんなく吸収してください。高校までに学ぶことは、研究の大きな土台になります。
進学先を選ぶときは、同じように学ぶ意欲の高い仲間が多い環境を意識してみてください。周りに刺激し合える友人がいると、自然と自分の目標も高くなります。ただし、どの学校・どの大学に入ったかで将来が決まるわけではありません。大切なのは、入ったあとに自分からどれだけ学び続けるかです。
また、よくある誤解なのですが、医学の研究者になりたいからといって、医学部に入らなければいけないわけではありません。大学の医学部は、いわば医師を養成するための学部で、医師に求められることと医学研究者に求められることは大きく異なります。医学研究者としての修行は大学院で行うのですが、医学系の大学院にはどの学部からでも進学できます(文系学部からでも大丈夫です)。患者さんの診療をしないのであれば医師免許は必要なく、大学院から医学研究の道に入ることができます。
実際、ノーベル生理学・医学賞を受賞した日本人6名のうち、3名の先生は医師ではありません。今、第一線で活躍している医学研究者にも、医師ではない方がたくさんいます。清水研にも、生命科学・薬学・理工学など医学部以外の出身者が多く在籍しており、経済学部出身で全国規模の学会賞を受賞した先輩もいます。
国立大学の医学部はどこも難関で、医師を目指して何年も浪人したり、大学に入り直したりする方もいます。医師になりたいのであればそれも一つの道ですが、医学の研究者を目指すのであれば、少しでも早く研究の修行を始める方がおすすめです。生命科学や薬学など、広い意味での生物学を学べる学部も視野に入れ、そこで基礎を身につけてから医学系の大学院に進むのも、とても良いルートです。大学院にも入試はありますが、ライフサイエンス(と英語)をしっかり学んだ方にとっては、医学部入試よりも挑戦しやすいはずです。
参考までに学費についても書いておくと、国立大学の授業料は標準額が年約54万円で、大学によっては約64万円です。私立大学は大学や学部によって異なり、年100〜200万円ほどが目安ですが、医学部は6年間で数千万円になることもあります。
学部生の方へ向けたメッセージ
学部生の時代は、ある意味で体系的に教えてもらえる最後の期間です。専門科目はもちろん、それ以外のこともぜひ幅広く学んでください。コロナ禍を経て多くのことがオンラインでできるようになり、これは学部生にとって大きな追い風です。住んでいる場所に関係なく、意欲次第でさまざまな勉強会に参加できます。
大事なのは、自分の将来を見据えて、自分に足りないものを考え、戦略的に学ぶことです。大学生の授業以外の勉強時間は1日30分ほどという調査もありますが、だからこそ、ここで自分から学ぶ習慣をつけた人は大きく差をつけられます。学部時代に自ら学んだことは、そのまま研究者としての土台になります。
また、学部から博士号まで同じ研究室で過ごそうと考えている学生さんも多いのですが、研究者としてのキャリアを考えると、これはあまりおすすめできません。理由はアカデミア研究者のキャリア形成の鉄則【学部〜博士まで同じはNG】にまとめました。
清水研では、学部生のうちから研究に挑戦できる機会を用意しています。 東京科学大学の学生さんはプロジェクトセメスターや研究実践プログラムで、他大学の学生さんもオンライン研究や論文輪読会のBiomedical Data Science Clubで、所属や専攻を問わず参加できます。実際に、学部生のうちに全国規模の学会で発表したり、筆頭著者として論文を書いたりしている先輩もいます。まずは雰囲気を知りたいという方は、月1回のLab Tourや、1日体験型のOpen Labにお気軽にお越しください。
修士課程の方へ向けたメッセージ
大学院は、学びながら、自分で研究を生み出す側になる場所です。学部までは知識を受け取る立場でしたが、大学院では研究活動に携わることになります。研究には研究費がかかっていて、その多くは税金でまかなわれています。だからこそ、修士の学生も「プロの研究者の卵」としての自覚を持って取り組んでほしいと思います。その意味で、修士課程は本格的な研究者としての修行の始まりです。学部と同じ「学生」という肩書きのままなので気づきにくいのですが、ここが大きな切り替わりのポイントです。
修士課程の学生に求められるのは、指導教員とテーマを相談して決めたあと、定期的に助言を受けながら、自分で関連する文献を調べて研究を進め、その成果を学会で発表できる力を身につけることです。後輩の学部生のよき相談相手になることや、研究室の運営に積極的に関わることも、研究者としての大切な経験になります。
一般的な目標としては、学会発表を数回(できれば口頭発表を1回)、論文発表を1本(共著を含む)というところでしょう。ここまで達成できれば、学振DC1などの博士課程の支援に採択される可能性も高まります。
学費は、国立大学の標準額で年約54万円(大学によっては約64万円)、私立大学は年100〜200万円ほどが目安です。修士課程では、条件を満たせばTA(ティーチング・アシスタント)として月に数万円ほどの収入を得られることもあります。
清水研では、修士課程から入っても、早い段階で研究者としての実践経験を積めるよう設計しています。実際、清水研の修士課程の学生は、在学中に10回近く学会発表を経験しています。上で書いた一般的な目安(数回)を大きく上回る数で、発表のたびにフィードバックを受けることが、研究を伸ばす何よりのトレーニングになっています。また、研究の早い段階から清水と1対1で論文を共同執筆する時間を月2回ほど持ち、論文を書く力と論理的思考力を集中的に鍛えます。また、学部生のプロジェクトセメスターやオンライン研究など、意欲的な学部生が集まる仕組みもあり、そうした後輩と一緒に取り組むことで、修士の2年間で複数の論文に名前が載ることも十分に目指せます。理工系や他分野の出身で医学の知識に不安がある方には、医学の基礎を学ぶ「朝活」もあります。
博士課程の方へ向けたメッセージ
最初に、少し厳しいお話からします。ここから先のステージは、努力の量ではなく、成果で評価される世界になります。
学部や修士課程では、まじめに取り組んでいれば進級・卒業できました。しかし博士課程は、修業年限の目安はあっても、自分で成果を出し、それが学術論文として学外の専門家に認められて、はじめて修了できます。決まった年数で修了できるとは限らないという意味で、ここが実力の世界の入り口と言えるでしょう。
本格的な修行の時期はまさにこの博士課程で、多くの大学院生が、中高生や学部生からは想像できないほどの時間を研究と勉強に充てています。「人生で一番勉強したのは大学受験のとき」という話をよく聞きますが、博士号を取ってアカデミアで活躍している研究者の多くは、口をそろえて「博士課程が一番大変だった」と言います。心身に負担がかかりやすい時期でもあるので、定期的に休むことと、周りのサポートが欠かせません。
博士課程の学生に求められるのは、自分で研究プロジェクトを提案し、指導教員とのやりとりで何度も練り直して形にし、その後は自分が中心となって研究を進め、学会で発表し、成果を学術論文として発表できる力を身につけることです。後輩の学部生や修士課程の学生の研究を支えたり、大学院生のまとめ役として研究室の運営にリーダーシップを発揮したりすることも求められます。
学費は修士課程と同じく、国立大学の標準額で年約54万円(大学によっては約64万円)、私立大学は年100〜200万円ほどが目安です。一方で、博士課程には経済的な支援の制度が充実しています。条件を満たせばRA(リサーチ・アシスタント)として月に数万〜10万円弱の収入を得られることがあり、日本学術振興会の特別研究員(DC1など)に採用されれば、月20万円(年240万円)が支給されます。大学によっては、SPRINGやBOOSTのように、生活費に加えて研究費も支給される独自の大型支援制度もあります。いずれも選考があるので、これまでの研究への向き合い方と研究成果が、ほかの博士課程の学生と比べて評価されます。
一般的な目標としては、学会発表を5〜10回(できれば口頭発表を2回以上)、論文発表を1〜3本(合計インパクトファクター10程度)というところでしょう。海外でのポスドクを考えている場合はフェローシップの獲得が必要になり、そのためには論文3~5本、または合計インパクトファクター20程度は少なくとも必要になるかもしれません。なお、インパクトファクターによる目安は分野や時代によって大きく変わるので、あくまで参考値としてご覧ください。
清水研は、博士課程で大きく飛躍するための環境づくりに力を入れています。 学振DCやSPRING・BOOSTなどの申請書は、採択された先輩たちのノウハウも生かしながら丁寧に指導しており、現在、アカデミアを志望する清水研の博士課程の学生は全員が何らかの経済支援を受けています(大学院生への経済支援)。また、ダブルメンター制度やオンライン研究など、意欲的な学生が学外からも集まる仕組みがあり、そうした仲間と一緒に研究することで、博士課程の4年間で海外フェローシップを十分に狙える研究実績を目指せます。健康面にも配慮し、21時以降は研究室に残らない、日曜日は休養日にするといったルールで、長く走り続けられる環境を大切にしています。
ポスドクの仕事内容・目標
博士号を取得すると、多くの方はポスドク(博士研究員)として働くことになります。研究に専念できる楽しい時期ですが、身分が不安定で、成果を出さなければ次がない、厳しい時期でもあります。研究者としての下積みの最後の時期でもあるので、これまでとは違う分野に飛び込んでゼロから学ぶ方も少なくありません。海外に出て視野を広げるのも良い選択です。そのためには、大学院時代に優れた研究業績を出しておくことが大切です。
ポスドクに求められるのは、自分でプロジェクトを考え、教員と対等に議論して方針を決め、自ら共同研究者を見つけて研究を進め、学会発表をこなし、複数の成果を学術論文として発表することです。はじめての研究費の獲得も、この時期の大切な目標の一つです。研究以外の業務がほとんどなく、持てる時間の多くを研究に充てられる最後の時期でもあり、ここでどれだけ業績を積み上げられるかが、その後のキャリアを大きく左右します。
一般的な目標としては、論文発表5〜10本(合計インパクトファクター30〜60)、研究費獲得総額200〜500万円というところでしょう。
清水研では、これまでの専門性に新しい専門性を掛け合わせたいポスドクの方を歓迎しています。 文部科学省のAI for Science事業によるプロジェクト研究員や、自分のテーマで研究する学振PDの受け入れを行っており、学振の申請書の構想段階から支援しています。清水研で研究したOB・OGからは、すでにPIとして独立した方や、大学の正規教員になった方も出ています。また、研究室には意欲的な大学院生や学部生が多く在籍しているので、学生の研究指導に一緒に携わることで、共著論文と指導の経験を積むこともできます。詳しくはJoin Usのページをご覧ください。
助教の仕事内容・目標
助教から大学教員になります。ポスドクを経験して、目安として論文5本(筆頭2本、合計インパクトファクター30)以上、研究費獲得総額300万円以上になったら公募に応募し始めてもよいと思います。ただし、これは相対的なもので、分野によっても大きく変わります。
助教に求められるのは、自分のプロジェクトを進めて筆頭著者として複数の論文を発表し、教員として准教授らと協力しながら大学院生の研究指導を行うことです。また、自分のプロジェクトに必要な研究費を継続して獲得することや、大学院生チームの監督役として研究環境の整備に責任を持つことも求められます。
任期制のポストがほとんどで、長くても10年程度で次のポストを見つける必要があります。一般的な目標としては、論文発表10〜15本(合計インパクトファクター60〜100)、研究費獲得総額500〜1,500万円というところでしょう。
PIの仕事内容
PIの一本釣りというのもありますが、近年では稀でほぼ公募選考と考えておいて間違いないでしょう。個人的な意見ですが、目安として論文30本(筆頭5本、合計インパクトファクター200)以上、研究費獲得総額3,000万円以上になったらPIの公募に応募し始めてもよいと思います。これはある意味で最低限のラインで、最近は有名大学だと(ライフサイエンス系では)合計インパクトファクター300程度ないとPI候補になるのは難しいケースも増えているそうです。情報系であればトップカンファレンスでの発表が評価の中心になるなど、分野によっても大きく異なります。
PIの表向きの仕事は、大学院生やポスドクの研究指導や議論、そして論文発表ですが、ほかにもさまざまな業務があります。研究室全体の研究費を継続して獲得すること、新しいメンバーを迎えることもPIの仕事です。学内の会議、産学連携や各種審査、社会への発信といった対外的な仕事の手腕も求められます。PIになると論文の査読依頼も一気に増え、世界中から投稿された原稿が科学雑誌に掲載するに値するかを専門家として審査しますが、これは無報酬で、休日などの時間を使って行うことになります。
「研究室の主宰者になれば好きな研究を思う存分できる」と思っている学生さんも多いのですが、実際には自分の手で研究する時間はほとんどなく、特に実験系の分野では、自ら筆頭著者として論文を発表しているPIの先生はほぼお見かけしません。そういった若い世代の方々が活躍できる場をつくるのがPIの大事な仕事です。
終わりに: やりたいことをやろう
研究者のキャリアについて、厳しい面もあえて隠さずにまとめました。待遇の面だけで比べれば、アカデミアの研究者より魅力的な仕事はほかにたくさんあります。読んでみて自分には別の道が合っていると感じた方は、その判断もとても大切です。
それでも、世界でまだ誰も知らない、自分ならではの問いに自分で答えを出すことは本当に楽しいものです。そして、その発見がめぐりめぐって、将来の科学や医療を変える原動力になるかもしれない。研究は、それだけやりがいのある仕事だと私は思っています。
どんな仕事にも良い面と大変な面がありますが、実態を正しく理解し、納得したうえで選んだ道なら、きっと後悔は残らないはずです。むしろ「若い頃に挑戦しなかった」ことは、人生の後半で後悔することの多いものの一つだと言われています。一度きりの人生です。実態を理解したうえで、やりたいことに挑戦しましょう!
清水研は、研究者を目指す皆さんの挑戦を全力で応援します。 特別な才能に自信がなくても、出身大学や学部がどこであっても、研究者になりたいという本気の思いがあれば大丈夫です。まずは気軽に雰囲気を知りたい方は、月1回のLab Tourや1日体験型のOpen Labへ。大学院への進学を考えている方は、大学院お問い合わせのページから面談のご連絡をお待ちしています。ポスドク希望の方も大歓迎! 一緒に未来の医療を創りましょう。
