研究者の目指しかた: 医学系・生命科学系研究者になるには

iPS細胞の山中伸弥先生やオートファジーの大隅良典先生、免疫チェックポイント阻害薬の本庶佑先生といった日本を代表する先生方がノーベル賞をとったことも影響してか、清水のところには「研究者になりたい」という学生さんからの問い合わせが多数きており、中には中学生からメールをいただいたこともあります。でもそういう声をたくさん見て聞いて分かったのは、みんな本当の実態を何も知らないということです。世の中には「研究者になるには」記事が多数ありますが、発信者が研究者ではないこともしばしばですし、研究者であってもPI (教授などの研究室主宰者) ではなくその先が書かれていない未完成の記事がほとんどです。リアルなPI研究者によるリアルなキャリアガイドを発信し、前途有望な次世代を創る方たちに羅針盤を提供する目的でこのページを作りました。

お断りしないといけないのは、「研究者」というのは非常に広い言葉で、私が語れるのは理系の研究者、特に医学系や生命科学系の研究者のことだけです。また、一般的には「研究者」は企業で勤務する人たちも含まれますが、企業勤務の場合は「製品開発」に近いとか数年で部署異動になって研究から外れることも少なくないなど私が知らない世界ですので、ここでは大学などのいわゆるアカデミア研究者になるにはということを紹介します。各階級でどのようなことが求められているのか、そして進路を決める上での重要な情報としてお金の話も、一般論としてまとめました。

研究の世界は野球選手やミュージシャンや大相撲力士などと同じ競争社会ですので、厳しいことも正直に書かせていただきます。これを読んで、自分には向かないなと思われた方は別の道に進まれることをオススメしますし、自分にできそうと思う方はぜひ未来の研究者を目指してください。

中高生の方へ向けたメッセージ

研究者というのは自由な発想が全てだと勘違いしている方が多いのですが、みなさんが思っている以上に地味なことが多いです。裏を返せば、既存の知識体系に基づく堅実な進歩が未来の科学を創るともいえます。したがって、知識や文献に書かれていることを理解する能力というのは極めて重要です。中高生の身近な言葉で言えば、学力が大事ということです。学力と研究者になれる確率は非常に強い相関があります。そのため、学校で習う科目はどの科目もまんべんなく吸収してください。

高校進学がこれからという方は、家から近いという理由で選ばずに学区内でトップの学校に進学してください。そういう進学校は偏差値でいうと70近くあるはずで難関校だと思いますが、その程度を突破できる学力がないと将来研究職につくのは難しいでしょう。すでに高校に在学している方であれば、近隣のトップ校の学生と肩を並べる程度以上に勉学に励む必要があります。目安としては、全国の同学年のうちで最低でもトップ5%に入るくらいは維持しましょう。高校までに習うことは研究の大きな礎になっています。頑張ってください。

大学進学を考える上では、旧帝大学またはそれに準じる大学に進学する必要があります。正直なところ名前を知らないマイナー大学の先生でも、そのほとんどは一流大学出身です。そういうトップレベルの大学で渡り合えるだけの学力がないと研究者になることはできないという意味でもあります。大学受験の偏差値は高校受験の頃と比べて10ほど下がりますので、50後半、できれば60以上のところを考えるとよいと思います。そういう難関大学は、同級生にも優秀で研究者を目指す人達が多いので入学後も大いに良い影響を受けることができるでしょう。


また、これはよくある誤解なのですが、医学者になりたいから医学部に入らないといけないわけではありません。大学の医学部はあくまで「医師養成専門学校」のようなもので、医師と医学者に求められることは全くことなります。
「医学者」としての下積みは大学院で行うのですが、医学系の大学院はどの学部からでも入れます (文系学部からでも!)。
ですので、もちろん医学部に入って、その後医学系大学院を出れば医師・医学者を目指せますが、患者さんの診療をしないのであれば医師免許は不要であり、大学院だけで大丈夫です。
実際、ノーベル医学賞をとった日本人はこれまで5名いらっしゃいますが、そのうちの3名の先生は医師ではありません。現在第一線で活躍されている新進気鋭の医学者にも、医師ではない先生がたくさんいらっしゃいます。

国立大学の医学部受験はどこもかなりの難関です。医師を目指して何年も浪人をしたりあるいは一度大学に入ったのに再受験を目指して数年頑張っている方もいらっしゃいますが、医師ではなく医学者を目指すのであれば時間がもったいないです。医師の勉強は基本的に暗記科目なのでそれほど年齢関係ないですが、研究者はより頭を使ったり柔軟な発想が求められる仕事ですので、少しでも若いうちに研究の下積みを始めた方がよいです。

もし医学部に入る学力はないが医学者になる夢を諦めきれないと悩んでいるのであれば、生命科学や薬学など、広い意味での生物学を学べる学科に進学してライフサイエンスの素養を身につけ、大学院で医学系研究科に進学するのをオススメします。

大学院も入試はありますが、特にライフサイエンス系 (+英語) を専攻した学生にとっては医学部入試よりはるかに通りやすいです。

学部生の方へ向けたメッセージ

学部生時代はある意味勉強を教えてもらえる最後の期間です。専門科目は当然として、それ以外にもさまざまなことを広く勉強してください。コロナで社会が変わり、多くのことがオンライン化されましたが、学部生にとってはこの変化は追い風です。住んでいる場所は関係なく、どこにいても意欲次第で多様な会合に参加できますBiomedical Data Science Clubをはじめ、探せばさまざまな勉強会があると思います。自分の将来プランを見据えて、自分に足りないものを考え戦略的に学ぶといいでしょう。部活やバイトやゲームなどに専念するような暇はありません。学部生の一番大きな仕事は、多様なことを貪欲に学び続けることで、学部時代に自ら学んだことが研究者としてのベースになります

中高生のために書いておくと、国立大学はどこでも・どの学部でも一律で授業料は1年あたり50万円ほどです。私立大学は大学や学部によって違いますが100~200万円ほど (医学部は例外で500~3000万円ほど) / 年です。

修士課程の方へ向けたメッセージ

まず最初に、大学院は研究をさせていただくところです。勉強をするのは学部までであり、大学院は研究活動に従事するという全く違うところです。勉強するのは個人の自由ですが、研究活動をするということはそこには研究費がかかっており、その原資は税金です。税金を使わせていただく以上、修士の学生は「学生」ではなく「プロ」でなくてはなりません。サービスを受けるのは学部まで、修士以上は提供する側になるのです。この点は新入社員と同じです。学部から修士にあがっても同じ「学生」なので勘違いしている人が多数いますが、そのような簡単な本質すらも理解できないようでは研究者はまず無理ですのでご覚悟願います。その意味では、ここからが本格的な下積み生活の始まりと言えるでしょう。

修士課程の学生に求められることは、指導教員とテーマを相談して決めた後は、定期的にアドバイスを受けつつも自らが主体的に関連文献をサーベイし研究を進め、教員から強い指導を受けつつも研究成果を自ら学会発表できる力を習得することです。教育面では、後輩にあたる学部生のよき相談相手になる必要があります。また、「新入社員」と同じですので研究に関するさまざまな雑用も率先して取り組み身につけていくことも求められます。

国立大学はどこでも・どの学部でも一律で授業料は1年あたり50万円ほどです。私立大学は大学や学部によって違いますが100~200万円/年ほどです。ただ、修士クラスであれば条件を満たせばTA (ティーチング・アシスタント) として月に数万円くらいの収入を得ることもできるでしょう。

最終的な目標到達点としては、学会発表経験が数回 (うちできれば口頭発表1回)、論文発表経験1本 (共著含む、以下同じ) というところでしょう。達成できれば、学振DC1といった博士課程のサポートをとれる確率が高まります。

博士課程の方へ向けたメッセージ

まず最初に悲しいお知らせから。ここより先のステージでは「努力賞」はありません

学部時代・修士課程時代は、真面目に取り組んでいれば必ず進級・卒業できました。しかしながら博士課程というのは一応の修業年限はありますが基本的にエンドレスなので、自分で結果を出してそれが学術論文として学外の専門家たちに認められない限り卒業できません。必ずしも決まった年数で卒業できるとは限らないという意味で、実力主義世界の入り口と言えるでしょう。

修士課程にも書きましたが、一番本格的な下積みはこの博士課程であり、中高生や学部生からしたら信じられないくらいの時間を研究や勉強に充てる大学院生が大半です。よく「人生で一番勉強したのは大学受験の時」みたいな人がいますが、博士号をとってアカデミアで生き残っている研究者は異口同音に博士課程時代が一番辛かったといいます。メンタルが病みやすい時期でもあり、定期的な休養とまわりのサポートは不可欠です。

博士課程の学生に求められることは、プロジェクト案を教員に提案し何度も差し戻しをされる中で洗練させていき、その後は定期的に若干のアドバイスを受けつつも自らが中心となって関連文献をサーベイし研究を進め、指導を受けて学会発表をつつがなくこなし、教員から強い指導を受けつつも研究成果を学術論文発表できる力を習得することです。教育面では、学部生の研究指導の他、後輩にあたる修士課程学生のよき相談相手になる必要があります。また、大学院生をとりまとめ、研究に関するさまざまな雑用をリーダシップを発揮して遂行していくことも求められます。

国立大学はどこでも・どの学部でも一律で授業料は1年あたり50万円ほどです。私立大学は大学や学部によって違いますが100~200万円/年ほどです。ただ、博士クラスであれば条件を満たせばRA (リサーチ・アシスタント) として月に数万から10万円弱くらいの収入を得ることもできるでしょう。また、学術振興会DC1などの制度に採択されれば、年間で240万円ほどのお給料をいただくことも可能です。こういった制度はいずれも選抜制なので、ご自身のこれまでの研究への向き合い方そして研究成果が他の博士課程の学生と比較して相対的にどれほど優れているのかが審査されます。

最終的な目標到達点としては、学会発表経験が5~10回 (うちできれば口頭発表2回以上)、論文発表経験1~3本 (総IF 10) というところでしょう。海外でポスドクを考えている場合には、フェローシップを獲得する必要があります。そのためには論文5本またはIF 20くらいは少なくとも必要だと思います。

ポスドクの仕事内容・目標

博士号を取得したらポスドクとして働くことになります。この間は研究に専念できる時期で楽しいのですが、非常に不安定な身分で成果を出さないと先はないので大変な時期でもあります。下積み生活の最後とも言える時期ですので、これまで学んできた分野とは違う領域に飛び込んで0から学ぶという方も少なくありません (清水研でも他分野の専門性を持つポスドクの方は歓迎しています)。海外に出て見識を広めるというのもいいですね。海外に出るためには、大学院時代に特に優れた研究業績を出す必要がありますが。

ポスドクで求められることは、プロジェクトを自ら創案し教員と対等の討論のもとに決定し、その後はdiscussion等をしながら自らが中心となって共同研究者を見つけ研究を推進し、学会発表をつつがなくこなし、若干の指導を受けつつ複数の研究成果を学術論文として発表することです。また、はじめての研究費獲得もポスドク時代に課されるノルマの1つです。雑用はほとんどなく、持てる時間の多くを研究に充てることができる最後の時期でもあり、この間にどれくらい業績を積み上げることができるかがその先のキャリアに大きく影響してきます。

年収は300~500万程度ではないでしょうか。

最終的な目標到達点としては、論文発表経験5~10本 (総IF 30~60)、研究費獲得総額200~500万円というところでしょう。

助教の仕事内容・目標

助教からが大学教員になります。助教人事は教授が指名するケースもありますが、多くは公募選考が行われ、その倍率は一般的には数倍から10倍あるかどうか程度かと思います。目安として論文5本 (筆頭2本, 総IF 30)以上かつ研究費獲得総額が300万円を超えたら公募に出し始めてもいいのかなと思います。

助教に求められることは、自らのプロジェクトを推進し複数の論文を筆頭著者として発表し、かつ教員として准教授らと協力して大学院生らの研究指導をすることです。また、少なくとも自身のプロジェクトを推進するのに必要な研究費を自分で継続的に獲得することも求められます。さらに、研究に関する雑用にあたる大学院生チームの監督として研究環境の整備に責任を持つ必要もあります。

年収は600~700万程度ではないでしょうか。任期制が導入されているケースがほとんどで、最長でも10年程度で次のポストを見つけないといけません。

最終的な目標到達点としては、論文発表経験10~15本 (総IF 60~100)、研究費獲得総額500~1500万円というところでしょう。

准教授の仕事内容・目標

准教授ともなるとほとんど公募選考ではないでしょうか?倍率は一般的には数十倍が妥当かと思います。目安として論文15本 (筆頭4本, 総IF 100) 以上かつ研究費獲得総額が1500万円を超えたら公募に出し始めてもいいのかなと思います。ただ、この階級になるとタイミングや勤務する大学を選り好みできる人は飛び抜けた実績を持つ一握りだけであり、多くの先生方は全国あらゆるところの公募に手当たり次第応募してご縁があったところに赴任するというスタンスです。どうしてもこの地域に住みたいなどの希望が強い学生さんには申し上げにくいのですが、研究ができるなら日本全国 (時に海外も含めて) どこにでもいくという方でないとこの業界は務まりません。

准教授にも自らのプロジェクトを推進して論文発表することは求められますが、比重はよりチーム長としてのマネジメント、つまりラボ内の大学院生・ポスドクらの研究指導に重きが置かれるようになってきます。それゆえ、自身のプロジェクトだけでなくそういった大学院生が研究をする上で必要となる資金の獲得も求められます。助教までとは違って、研究以外の雑用が少し出始めてくるのもこの頃です。しかしながらそれでも業務の大半は研究に関するものであり、エフォートの多くを研究に割ける最後のステージとも言えます。

年収は800~900万程度ではないでしょうか。任期がない場合もありますが、今のご時世、任期つき准教授の方が多いと思います。任期を更新するためには、その期間の業績が大学本部に審査され合格しないといけません。

なお、上のポストが空いて自分にピッタリの求人が出ない限り教授になることはないので到達目標というのはありません。チャンスを待つ間、実績をためるのみです。

教授の仕事内容

教授の一本釣りというのは極めて稀なので、公募選考だと考えておいて間違いないでしょう。倍率は人気大学だと100倍に達します。目安として論文30本 (筆頭5本, 総IF 200) 以上かつ研究費獲得総額が3000万円を超えたら公募に出し始めてもいいのかなと思います。これはある意味ミニマムであり、昨今は人気大学だとIF 300程度ないと教授候補になるのは難しいケースが増えています。清水が34才で教授選に出たときにはIF 200程度、研究費獲得総額3000万程度でしたが、たまたまとてもspecificで他の有力候補者は応募が難しい公募条件でした。今でも「海洋動物のゲノミクス」縛りなどの求人がJREC-INなどにいろいろ出ていますが、条件がspecificになればなるほど論文発表やグラント獲得条件がゆるくなり、逆に「分子細胞生物学」のようにより広い分野の人が出せる求人であればあるほど倍率が上がるので求められる研究実績も高くなります。教授選は水物です。

教授の表向きの仕事内容は大学院生・ポスドクらの研究指導やdiscusion、そして論文発表をすることですが、他にもさまざまな業務があります。例えばラボ全体の研究費を継続して獲得したり、新しいメンバーをリクルートしたりというのもPIの仕事です。対外的な仕事、例えば大学の管理運営や産学連携、さまざまな審査、社会への発信といった手腕も必要とされます。また、PIになれば論文の査読依頼が急激に増え、海外から送られてきた原稿を科学雑誌に掲載するに値するかを専門家として厳しく査定するのですが、これは無報酬であり休日等を削って行うことになります。学生さんは教授になれば好きな研究を思う存分できると思っている方も多いですが、教授になると自分で研究できる時間がほとんどないので特に実験系の分野では自らが筆頭著者として論文を発表している教授の先生は皆無です。常に現場の第一線で活躍されたい方はPI以外のポストを探すとよいでしょう。

年収は900~1100万程度だとネットの記事には書かれていますが、私立大学はもっと高いですし、講演や執筆、それに特許収入などが多数ある先生もいますので人によって幅が広いと思います。また役職によっても異なり、〜長というポジションを兼ねる場合にはその手当が加算され、例えば学長になれば国立大学なら年収2000万くらいになると言われています。国立大学の場合は教授であっても任期があるというケースが多いです。任期を更新するためには、その期間の業績が大学本部に厳しく審査され合格しないといけません。

終わりに: やりたいことをやろう

研究者のキャリアパスについて厳しいコメントもあえて消さずにまとめてみました。これを読んで厳しい世界だと思った方は、ぜひ他の道に進まれてください。それだけでもこの記事の価値があると思っていますし、逆にこの道で勝負したいと思う方はぜひお越しください。

正直なところ、アカデミア研究者より待遇面で魅力的な仕事は他にたくさんあります。しかしながら世界で誰も知らない自分ならではのquestionに自分で答えを出すのは楽しいことですし、その知見が巡り巡って将来の科学や医療を変革する原動力となる可能性を秘めている、とてもやりがいのある仕事だと個人的には思っています。

どんな仕事にもメリット・デメリットはあると思いますが、研究者の実態を正しく理解し納得した上で進む進路なら悔いは残らないでしょう。むしろ若い頃に挑戦しなかったというのが晩年の後悔の中でかなり多いものだと言われています。一度きりの人生です。挑戦しないよりも、実態を理解した上でやりたいことをやりましょう!