「私は研究に向いているでしょうか?」という質問をよくいただきます。ラボに入って研究を3ヶ月もやらせれば高い確度で言い当てる自信はありますが、面談等でちょっと話しただけででは分かりません。世の中にはこの手の記事もいろいろありますが、執筆者が研究者でなかったり、あるいは自身の経験しか書いていないことが多いです。私は研究室主宰者として数多くの学生さんと接する立場ですので、向いている学生さんとそうでない学生さんを毎年複数見ています。性格的や考え方的に研究者に向いているかどうかの7つのチェックポイントをまとめました。大学生にバイトやサークルより「研究部」をオススメする理由と合わせてお読みください。

情熱を持てるか?

情熱は何よりの原動力。当教室も受け入れ条件に掲げていますが、心から熱意を持って取り組める研究ややりたいことがあるならばとても幸運なことです。私は医師ですので医学領域の例になってしまいますが、「〇〇の病気に効く薬を開発したい」とか、「〇〇の病気のメカニズムを解明したい」とか、各自の領域における大きな目標に情熱を持てるのかということです。もちろん、これからのみなさんが「やりたい事」をすぐに見つけることは難しいかもしれません。しかし常に探し続ける姿勢は常に持っているべきです。情熱があれば、言い訳はしません。例えば学部生なら「授業」「テスト」「バイト」「サークル」等々いろいろあるのは承知していますが、そんな中にあっても情熱があれば研究をするし、そうでなければしない、ただそれだけ。私は学部生時代のエピソードにも書いた通り学部1~2年生の頃から朝7時から研究開始していましたし、土日・長期休みなどは入り浸っていましたし、試験があるから研究を休んだことは一度もありません (し、各科目の試験に落ちたこともありません)。何なら医師国家試験の前日・当日も研究していました。私は当時から毎日研究の詳細な記録を残していますが、学部6年間で研究室に行った日は1,500日を超えます。「〜が忙しいので」というのは厳しい言い方かもしれませんが情熱がないことのただの言い訳にすぎません。

自分が本当にやりたいことをみつけられたら後はもう大丈夫!
小柴 昌俊
2002 ノーベル物理学賞

行動力があるか?

行動力が高い研究者は強いです。まずやってみる、そんな行動力・機動力が研究者には求められます。当教室も受け入れ条件に掲げていますが、高い行動力があるかは大きなポイントです。

近年では一般的にみても、会社に依存せず個々で活動する時代だと言われています。特に研究者ではより個々の活動の割合が高くなります。ポジション獲得、研究計画、研究費調達、人材集め、啓蒙活動、メディア発信まですべて自分自身で行います。己で道を切り拓くエネルギッシュな人材が求められています。

行動を起こすことにより、何かが生まれる。行動を起こさなければ、何も生まれない
大村 智
2015 ノーベル生理学・医学賞

没頭できるか?

「四六時中、〇〇のことで頭がいっぱい」というほど何かに夢中になった経験は誰しも子供の頃にありますよね。大人になった今でも、何かに没頭できる性格というのは研究の大きな推進力となります。反対に、20代の下積み時代からサラリーマンのように平日〇〇時〜〇〇時の研究といった時間ありきのスタイルでは研究者にはなれないでしょう。人よりも練習時間が少ないのにプロのスポーツ選手やミュージシャンになった人はいますか?  研究者もそれと同じです。研究に没頭できる人にとって、〜時間もやって大変という感覚はありません。30代になり例えば結婚したり子供ができたりしたら自分で自由に使える時間はどうしても減ってしまうと思いますが、今はそうでないのだとしたら猛烈に熱中できるはずです。

あることを成し遂げるためには、いろんなほかのことを切り捨てないとだめなんですよ。
利根川 進
1987 ノーベル生理学・医学賞

失敗をプラスに変えられるか?

研究では、自分の仮説に反した結果が出ることの方が圧倒的に多いものです。ネガティブな結果に負けずに、挑戦を繰り返すことのできる折れない心が研究者には不可欠です。発明王のトーマス・エジソンも「成功は1%のひらめきと99%の努力である」と言っていますが、失敗につぐ失敗の詳細をきちんと記録し、感情的にではなく理性的に考え、次に活かす。それができるかが分かれ目です。

専門家とは、非常に狭い分野で、ありとあらゆる失敗を重ねてきた人間のことである。
ニールス・ボーア
1922 ノーベル物理学賞

問う力があるか?

何事も自分自身で考える癖をつけないといけません。もっというと、研究者たるもの、自分でquestionを見つける必要があります。昨今の学生は問題を自ら見つける力がかなり低いといわざるを得ませんし、普通のラボは博士課程の学生ですら与えられたプロジェクトしか経験ない人が大多数です。これを打破するために、清水研では「マイプロジェクト」として大学院生の間にリサーチクエッションを設定するところから訓練します。

考える力、答える力が落ちていると言いますが、最も心配なのは「問う力」がほとんどないこと。
野依 良治
2001 ノーベル化学賞

コミュニケーション力と礼節があるか?

「研究はコミュニケーション力があまり必要ない」と考えている学生もいますが、それは大きな間違いです。最初から最後まで1人で完結するものはなく、専門性の異なる複数のメンバーが協力して1つの研究を行うからです。他の研究者と情報共有し、密に連携を取れなければ研究は難しいでしょう。そのためにもコミュニケーション力は欠かせないスキルです。また、礼節に欠ける「お客様」気分の学生も一定数います。「授業料を払っているのだから教育をしっかり提供しろ」というわけです。勘違いしてもらうと困りますが、年間たった50万円のお金など、使っていただく場所代や電気代・水道代、あるいは図書館などの利用料を払ったら全部消えてしまいます。また、本学の収益のうち学生さん達からの授業料収入はたった2%にすぎません。ですので、授業料は私たちの研究室には1円も入ってきていません。私たちの人件費を含めて、一切お金をいただいていない以上、君たちを「お客様」扱いする義務は毛頭ありません。むしろ逆に、学生さんの研究活動は私たちが国から交付される競争的資金 (グラント) で行っており、もともとの原資は税金です。税金を使って研究者としての訓練をさせていただく、それが大学院生の実態です。したがって君たちは「お客様」ではなく「一番下っ端の修行中の見習い研究者」です。私たちが頑張って学外からお金を集めてくる、君たちはそれを自分のために使わせていただく立場。礼節をわきまえ謙虚に、でも貪欲に学んで、チームに、そして国に恩返しをしなければなりません。

執筆が好きか? あるいは締切を守ることができるか?

私がこれまでたくさんの方を見てきてよくわかったのは、「実験」や「解析」が上手な人達はたくさんいます。でも残念なことに、「レベルの高いテクニシャン」で終わっている人のなんて多いことか。研究というのは、それをまとめて論文として発表しない限りただの自己満足です。素晴らしいデータがあっても、それを論文にできない人は数多といます。それは時間の無駄遣いでもあり、税金の無駄遣いでもあります。研究者としての第一の評価は論文です。それも、誰かが書いてくれた論文に共著者として、というのではなく、自分が筆頭著者としてどれくらいの論文 (量 x 質) を書いたのかということによってきます。執筆が好きか、あるいは仮に好きでなくても自分に負荷をかけて短いスパンの締切を設定し、その締切以内に何が何でも原稿を書き上げることができるのか、そこがキャリア形成の大きな分岐点でしょう。

番外編: 下積みの間は収入を二の次にする覚悟があるか?

これはサイエンスに直接は関係ありませんし、駆け出しの初期だけの期間限定なので「番外編」として掲げます。

安定したポストに就くまでの間、経済的にはとても不安定な状況になります。なんせ学生ですので、同世代ですでに働いている方々に比べると低い経済水準で生活することを強いられます。下積みの間は収入を二の次にしてでも、自己投資し続けることができるか熟慮してください。世の中には「社会人大学院生」という働きながら博士号をとるコースもありますが、それでアカデミアポストにつき、その先にPIを目指すというのはまず無理と考えてください。例外的に医局に所属する医師に関しては専門医を目指しながら博士号をとり、その医局の中限定ですがそこで出世して数十年後にその医局の教授になるというケースも多々ありますが、その他の社会人大学院生でPIになれるケースはほぼ皆無です。博士号という称号がほしいだけなら社会人大学院生は良い制度ですが、研究力は当然ながら身につきません。PI選というのは倍率100倍くらいあります (例えばこちら)。研究者としての一番大事な下積み時代に手抜いていて、それでも勝ち残れる10年に1人の逸材である自信がなければ、大学院時代は経済的なことは二の次にして研究に専念しないといけないでしょう。

しかしながら、下積みの間に成果を出して常勤の助教等、研究者としてのポストを得ることができれば、自分のしたいことをしてしかるべき給与を受けとることができるようになります。人生100年時代と言われる今だからこそ、若い頃の数年の投資は十二分に回収できると私は考えていますが、後はみなさんの考えと行動次第です。