それらの中で、最も興味を持ったのは情報学だった。東北大医学部の1年後期はかなり時間的に余裕があったため、情報の先生に連絡をとり、論文抄読会に参加させていただく機会を得た。この先生の研究室は病院キャンパスではなく山の上にあり、自転車で片道1時間近くかけて通っていた。授業が忙しくなり, また先生ご自身が他大学のPIとしてご栄転されたこともあって2年生以降は通えなくなってしまったのだが、半年間もの間、1年生だった私に情報・データサイエンスを手ほどきしていただき、その後この道に進むきっかけとなっている。先生に最初のきっかけをご指南いただいたことでその後自ら数理や情報科学の勉強会を東北大で立ち上げて理工学系の仲間を募って数年間運営したことが、15年後に医科歯科大で独立して創設することになるBiomedical Data Science Clubにつながっている。数理や情報科学の勉強はとても楽しかったが、画像の畳込みニューラルネットワークやPythonの便利なライブラリーもない時代に書籍で機械学習を学んでいたこの頃はまさか17年後にPythonで実践・生命科学データの機械学習という本を自ら上梓することになるとは思っていなかった。
この頃は、毎日朝1時間ほど研究室に顔を出してから図書館に移動し9時から17時くらいまでは国試の勉強をして、その後は研究室に戻るという生活だった。同級生はみな受験生なみに1日10時間とか12時間とか国試勉強をしていたので、だいぶ国試勉強時間は少なかったことになる。その代わり、「細胞の分子生物学 The Cell」という生命科学研究者で知らない人はいない本や、もう絶版になってしまったがマウント著「バイオインフォマティクス」といった合わせて2000ページの本を通読し、自分の研究者としてのキャリアに先行投資していた。また、この頃Pythonの日本語の本が出始めたため、さっそく遊んでいた。もちろんPythonの英語の情報はすでにいろいろあったのだが、当時は似たようなRubyというプログラミング言語が (日本人が開発したため) 国内では圧倒的に優勢だったのだ。この頃にPythonを修得したことで、翌年畳み込みニューラルネットワークが登場したときにいち早く参入することができた。