生命医科学領域のアカデミア研究者になるための大学院の選び方 【6つの鉄則】

どのような研究室の卒業生がアカデミア研究者になっているのかを調べてきました。そこでこの記事では、これからライフサイエンス系のアカデミア研究者になりたいという方に向けて大学院選びについて重要なポイントを紹介します。

鉄則1: 圧倒的に名門大学に軍配

まず1つ目ですが、大学院は名門大学に行くに限ります。研究費の額も持っているリソースも、そこに集まってくる人も、名門大学とそうでない大学では雲泥の差があります。日本国内には大学院が700ほどありますが、研究者の先生たちの出身大学・大学院を調べてみると実際にはそのうち上位20-30くらいの大学院でないと研究者になるのは厳しいのではないかと感じています。あくまで学部ではなく大学院の話です。

鉄則2: CNSではなくしっかり認知された雑誌に複数投稿できるところを探す

ありがちな失敗は、Cell, Nature, Science (CNS) といったトップジャーナルに論文を出しているラボに目がいってしまうことです。はっきりいって、これはポスドククラスのラボ選びとしてはいいことですが大学院選びとしては間違っているのではないかと思います。そういったトップクラスの研究業績があるラボは、

  1. CNSに成果が出るまで10年近くも研究を続ける必要がある (もちろん卒業も10年後になることも)
  2. 非常に大きなプロジェクトを数十人で分業しているので、大学院時代に身につくのはその限られた領域のことだけである
  3. 研究室の先生方がこれまで蓄積してきた膨大なリソースがあり、そのラボだからCNSに出せるのであって、卒業して外に出たら困る

のいずれかに陥りやすいので注意しなければいけないでしょう。

大学院で身につけるべきは、CNSではなくてもImpact factor 1桁後半くらいのしっかりした雑誌に複数論文を発表できる力を身につけること。1桁後半であっても、全雑誌のうちのトップ3%くらいに位置します。研究力を偏差値でいえば70クラスの超難関が1桁後半のレベルです。研究偏差値70クラスを大学院で身につけ、そういった基盤の上にポスドク時代にCNS論文を発表するようなラボで成果を上げればいいわけです。この順番を間違えてはいけない。

鉄則3: さまざまなテーマや手技を学べるところを探す

大学院選びでありがちなもう1つの失敗は、今の自分が興味を持つ領域に専門特化したラボを選ぶということです。

大学院を選ぶ段階の方の多くあまり研究論文を読んだことないでしょう。研究のことをあまり知らない (=他の領域を知らない) 段階であるspecificな領域にフォーカスしすぎるのはもったいないなと思います。

生命科学や医学のさまざまなテーマを手広く手掛けている研究室の方が、より多くの学びが得られます。いろいろな領域に日常的に触れる中で、当初希望していた領域は自分の思っていたものとは違ったということもあるでしょうし、逆にもっと面白い領域に出会うこともあるでしょう。一種のモラトリアムのように映るかもしれませんが、このようにすることで真に一生をかけて探求したい領域を見つけることができ、それはポスドクで専門特化して研究すればいいのです。

また、今のご時世は多様な領域の分野融合が求められています。ある領域に特化したラボで頭が柔軟な若い時代を過ごしたとしたら、そのテーマ以外のことは何もできなくなり、異分野に手を出すハードルは格段に上がってしまいます。どんなテーマであっても1ヶ月あれば過去の先行研究を調べテーマを設計し研究を開始できるというようなフレキシブルな研究スタイルを確立する方が、ずっと続けられる研究者になれます

これは研究テーマだけでなく手法についても同じで、ある解析法しか学べないラボではなく多様な解析を学べるラボに進みましょう。

鉄則4: 教育に熱心なラボを探す

特に大御所のラボであればあるほど指導スタイルは基本的に放置でしょう。放置された方が伸びる人もいるのは事実ですが、そうではない人の方が多いです。

先生に教育してもらうのを待っているのはいけませんが、それでもどのような学びの機会が提供されているのかは確認しましょう。参考までに当分野で提供しているのはこのようなものですが、希望する研究室ではどのようなものがありますか? もし聞いても具体的な返事がなければ、基本的に放牧主義のやや危険な研究室といえます。

  1. ラボ共通図書 (関連書300冊)
  2. スーパーコンピューターSHIROKANE最上級モード(D9モード) およびデータストレージサーバーSHIRAUMEアクセス権 (家からでも利用可)
  3. MATLAB, Mathematica, Illustrator, Gaussianといった研究を行う上で不可欠の有償ソフトウェア
  4. 配属前に学習するオンライン予習教材 (200時間分の演習教材)
  5. 実験や情報解析に関わる膨大なオンライン教材・リソース (1万ページ以上、在宅で勉強可能)
  6. (希望者のみ) 一通りの分子細胞生物学実験環境および共用の専門実験機器
  7. (希望者のみ) 3Dプリンターを含む先端技術へのアクセスと企業との連携の場
  8. 生命科学や医学を未履修者を対象にした集中勉強会 (2ヶ月)
  9. ライフサイエンス系学術論文に頻用される図表の読み方を集中的に学ぶ勉強会 (1ヶ月)
  10. 米国マサチューセッツ工科大 (MIT) ・人工知能研究所 (CSAIL) で使われているのと同じ教材を使ったML特論 (2年コース)
  11. システム生物学, 数理生物学, 合成生物学, 量子情報科学等の多様な周辺領域を学ぶCS (convergence science) 特論 (2年コース)
  12. アットホームなラボ環境、ラボメンバーおよびM&Dデータ科学センター
  13. JR御茶ノ水駅から徒歩3分、東京のど真ん中にあるので各種学びの機会にも参加しやすい環境
  14. 国内でもトップクラスの優秀な同期・先輩後輩と切磋琢磨する場
  15. バイオメディカルデータサイエンスとその関連領域における人脈ネットワーク (清水研は30年続くので今後同門の方がたくさん輩出されるでしょう)
  16. ラボメンバーからの建設的な批判によるプロジェクトの軌道修正
  17. ほぼ毎週ある研究に関する個別ミーティングを通じた論理的思考回路の構築
  18. 多様な研究プロジェクトを見聞きする中で広範な科学領域に対する理解の提供
  19. 主体的に貪欲に学び続ける習慣と、それを人にシェアすることで自らのさらなる学びとする機会の提供
  20. 教員による補佐のもと、博士課程学生は修士の学生を、修士課程学生は学部学生を指導するという、高等教育の経験
  21. マイプロジェクトとして自らの興味に応じてプロジェクトを0から立ち上げる経験
  22. 最先端の学術論文やテクノロジーを毎週学ぶ機会
  23. 英語運用能力の向上
  24. 発表プレゼンや書類等の手直しを通じた、研究者として生き残るための「聴衆への上手な見せ方」指南
  25. 倍率5倍, 10倍, 20倍の競争率に勝ち採択された過去の学振DCやグラントの申請書をシェアすることで、近い将来不可欠になる採択される申請書を書く秘訣を学ぶ機会の提供
  26. 最初は促されつつも、いずれは自主的に全国規模のセミナー等でみなの前で発言できるだけのセンスと度胸の養成
  27. 2年に1本以上の頻度で筆頭著者として英語学術論文を国際誌に発表できる可能性
  28. 書籍、各種記事等を執筆する機会
  29. (研究成果に特許性がある場合は) 特許出願経験 + 特許収入
  30. (研究成果に社会的インパクトがある場合は) プレスリリース、記者会見経験
  31. 少なくとも2ヶ月に1回の清水との面談・雑談により研究以外の困っていることを自由に相談できる環境
  32. (希望者のみ) 週に1回昼食をともにしながらデータ科学関連の他分野の先生、学生との交流
  33. (希望者のみ) 年に1回以上の国内学会発表機会の提供
  34. (希望者のみ) TA/RA雇用による生活費サポート
  35. (希望者のみ) 各種奨学金申請書サポート
  36. (希望者のみ) 本学が実施する「データサイエンス人材育成プログラム」無料受講 (本来は受講料25万円)

鉄則5: 勢いがあり、教授以外のスタッフ・学生もフラットな研究室を探す

日本にあるあるなのですが、研究室が縦社会になっているところは避けた方がいいです。お互いに自由に科学討論をするからこそ育まれる要素はかなり大きいですが、日本の強い縦社会ではそれが容易ではありません。アメリカは教授であってもファーストネームで呼ぶためかとてもフラットです。日本でも、そこまでいかなくてもフラットな研究室に所属したほうがサイエンスを多く修得できるのは間違いありません。研究室見学の際には、ボス以外のスタッフ・学生さんとも話をして、どのようなメンバーなのかをよく確認しましょう。

また、これは持論ですがすでに円熟したラボに行ってもあまり学べるところはないのではと思います。大学院進学は自己投資ですので、投資と同じくこれからさらに伸びると思われる大学・研究室に所属することで成果を最大化できる、少なくとも私はそう思って大学院を選びました。

鉄則6: 博士課程卒業までに2つの研究室に所属する

これも日本の学生に「あるある」なのですが、学部〜博士号まで同じラボというのはNGです。これについては長くなってしまうのでアカデミア研究者のキャリア形成の鉄則【学部〜博士まで同じはNG】にまとめました。

絶対に選んではいけないラボを選ばない

鉄則には入れていませんが、それに先立つ絶対条件として「これはまずい」というラボに間違っても入らないことです。これは全ての大前提になります。どんなラボが「絶対に入ってはいけない」のか、選んではいけないラボの特徴9つという記事にまとめていますので合わせてご覧ください。

自分が性格的に研究者に向いているのかを再確認する

この記事では、研究者になるための研究室の選び方の鉄則を紹介しましたが、自分自身が性格的に研究者に向いているのかを知るのも大事なことです。詳しくは研究者に向く人向かない人【7つの違い】という記事にまとめました。