第48回 日本分子生物学会 年会 (MBSJ2025) 参加報告
12月3日から5日にかけて開催された、分子生物学会の年会に参加した。本レポートでは、今回の学会を通じて得られた学びや感想を報告する。
清水研において、本学会は重要な発表の場の一つとして位置づけられている。今回自分は初日の12月3日がポスター発表の日であった。発表準備にあたっては清水先生のご指導もあり、AIに詳しくない方にも興味を持っていただけるよう、専門用語を極力排したタイトルや抄録の作成を心がけた。正直なところ、3,000件近くもの演題がある中で、抄録を多少工夫した程度では集客効果は薄いだろうと高を括っていた。 しかし蓋を開けてみれば、自分の抄録をブックマークして聞きに来てくださる方や、自分が到着する前からポスターの前で待ってくださる方がいらっしゃるなど、想像以上に多くの方に足を運んでいただくことができた。「神は細部に宿る」とはよく言ったもので、抄録での言葉遣いのような小さなところにも丁寧に拘るということの大切さを感じたところであった。
発表そのものについては、今回は秋口に取り組んだ成果をもとに過去四回からは大幅な刷新を行った。また、過去に参加した学会よりも規模が大きいことを踏まえ、できるだけ通りがかった人の目を引くことができるような工夫を意識した。具体的には、文字数を意識的に減らし、見る人の負担が少ない色調を選んだこと、そして「自己免疫疾患」「AI」「創薬」といった抽象度の高い用語を効果的に配置したことなどが挙げられる。これらの工夫が功を奏し、先述のような盛況に繋がったと感じている。
発表当日は、基本的にはこれまでの学会と同様に、分野の文脈における自身の研究の立ち位置や、今後の方向性を分かりやすく伝えることを重視し、この目的は概ね達成できた。一方で、「聞き手の人にどのような学びを持ち帰ってもらうか」という視点が不足していた点は反省材料である。自分も含めて、分子生物学会という学会の参加者の多くは、生物学としての新たな学びを得るために色々な発表を聞きに来ている。そのため、ただ「どのような研究か」を伝えるのではなく「そこから何がわかったのか」という新たな知見を持ち帰ってもらえるような発表にすること、ひいてはそのような成果を生み出すということをもっと意識して発表の準備にとり組むべきであったということが今回のポスター発表での反省点である。
自身の発表以外にも、今回の学会では非常に多くの発表を聴講することができた。神経変性疾患やクロマチン構造解析など、普通に過ごしている限り自分のプロジェクトと関連してくることはあまりなさそうなセッションを様々聴講し、視野を広げるということを意識した。特に印象に残っているのは、当研究室の大谷さんが登壇された2日目の「アカデミア創薬会議2025」である。と言うのも、過去に参加した学会での学びと点と点が線で繋がるような感覚を得られたからだ。例えば、テーマの一つであった「肝細胞–肝星細胞間のコミュニケーションに注目した線維化治療薬創出」については9月のMOEワークショップで、また「ショウジョウバエを用いた創薬研究」については6月のメディカルAI学会で、それぞれ別の先生による講演を拝聴していた。詳細は省くが他にもいくつかそのような発表があり、自身の専門外の分野であっても、現在多くのラボで進められている研究トレンドを少しずつキャッチアップできているという事実は、わずかながらに自信となった。この一年はできるだけ色々な学会に参加して視野を広げるということを意識して過ごしてきたつもりであるが、その成果がほんの少しではあるが形として表れてきているように感じられた。
自分自身も今後口頭発表へ挑戦したいとも思っているため、今回は「参考になるスライドやポスターを見つける」という視点でも聴講した。特にポスターについては、今回は非常に規模の大きな学会であったため「人が集まるポスター」と「あまり人が集まっていないポスター」が顕著であった。様々なポスターを観察するなかで、色の選び方や文字の少なさ、図のバランスといった基本に加え、「タイトルの抽象度」が重要であるという新たな気づきを得た。それはつまり、○○ウイルスとか△△遺伝子という具体性の高い用語よりも、「□□の感染症への新規創薬」といった抽象度の高い用語を用いた方が、「自分の研究に関連しそうだ」と多くの人に感じてもらえるということである。これは当たり前のようでいて、実践できているか否かが意外にも集客の明暗を分けていた。
また口頭発表については、特に今回は会場の広さに対してプロジェクターの投影が小さかったこともあり、スライドの視認性が重要であった。文字を極力減らし、主張したい点だけをシンプルに載せる技術の有無が、分かりやすさに直結していると感じた。
その他の感想としては、自身の興味の方向性についても再認識する機会となったことも挙げられる。ここ最近は、自分は論文として読むに当たっては、情報系やバイオインフォマティクス系の論文よりも、Wetの生物学に振り切った論文の方が好きであると感じていた。しかし、学会の講演として聴く場合は、10月に参加したCBI学会(情報計算系)の方が興味深く聞けるセッションが多かったように感じる。これはおそらく、生物学の論文が持つ「未知の生命機構を実験で論理的に解明していくミステリーのような面白さ」を、限られた時間のプレゼンテーションで表現しきることが難しいためではないかと推察する。裏を返せば、そうしたストーリー性を適切に構成・表現できることが、優れたプレゼンテーションの条件なのではないかということでもある。その点で、お名前を出して大変恐縮ではあるが、アカデミア創薬会議のセッションで拝聴した京都大学の倉永英里奈先生によるショウジョウバエのご講演はまさにそのようなストーリー性を受け取りやすい形となっており、お話の内容はもちろんながら伝え方についても非常に見習うべき点の多いものであった。
以上、今回の学会の参加報告となる。今回の学会は、多様な生物学研究に触れられたことはもちろん、「発表して伝える」という観点においても多くの学びを得られた貴重な機会であった。
2025年12月3日から5日にかけて、パシフィコ横浜で開催された第48回日本分子生物学会年会に参加させていただきました。 3日間を通して、基礎研究から応用研究、さらには研究者のキャリアや研究環境に関するセッションまで、非常に幅広い内容に触れることができました。今回の学会参加は、自身の研究テーマを見つめ直すだけでなく、今後のキャリアや研究の進め方について考える良い機会となりました。
初日は、いくつかのシンポジウムや一般講演を通じて、「マルチオミクス」や「データ統合」といったキーワードに触れる機会が多くありました。ゲノム、トランスクリプトーム、エピゲノム、さらには組織や細胞の空間情報など、従来は別々に扱われていた情報を統合して生命現象を理解しようとする試みが、多くのセッションで取り上げられていました。特に印象に残ったのは、「一つの実験結果を詳しく見る」という視点に加えて、「多様なデータを組み合わせて、生命システム全体をどう捉えるか」という考え方が、もはや特殊なものではなく、かなり一般的なアプローチになりつつあることでした。また、データサイエンスや機械学習の手法を取り入れた発表も多く、単に「便利な道具」としてではなく、仮説の立て方そのものを変えていくような使われ方が紹介されていたのが印象的でした。計算と実験を行き来しながら、より効率的に研究を進めていくスタイルが定着しつつあることを改めて強く実感しました。昼には、若手研究者・学生を対象としたキャリアに関する企画にも参加しました。研究者として生きていくための不安点、リスクヘッジ、人とのつながりの重要性などをキャリアパス委員の先生方と参加者の双方向のやり取りにより議論されており、多くの方が悩んでいることを感じるとともに、日々の研究生活ではなかなか落ち着いて考えられない点について整理する良い機会となりました。
2日目は、分野の異なる複数のセッションに参加しました。午前中は、光や物理的な刺激が生物に与える影響を扱うセッションに参加しました。視覚や紫外線応答、力学的な刺激に対する細胞の応答など、一見ばらばらに見える話題が取り上げられていましたが、「外界からの刺激にどう適応し、恒常性を保つか」という点は共通していると感じました。組織や個体のレベルで光や力にどう応答するのかという話は新鮮であり、スケールの違う視点を持つことの大切さを実感しました。また、物理的な刺激が疾患や老化、再生などと結びついて語られていたのも印象的で、今後、自身の研究でも「環境」や「力」といった要素を意識してみたいと思いました。別のセッションでは、膜輸送体やチャネルなどを扱うセッションに参加しました。生体内での物質輸送やイオンバランスの維持は、どの細胞にも共通する基本的な仕組みですが、標的分子や組織が変わると、その役割や問題意識も大きく変わることがよく分かりました。私は学部時代にトランスポーターの研究を行っていたので、多くの内容を理解することができましたが、ヒト以外のトランスポーターについては扱っていなかったため、新鮮さと重要性を感じ取ることができました。午後には、RNAを用いた治療法やそれを支える基礎研究に関するシンポジウムに参加しました。核酸医薬に関連する内容も多く、日頃自分が関心を持っている領域とのつながりを意識しながら聞くことができました。基礎的なメカニズムの理解と、実際の疾患への応用を見据えた開発研究が密接に結びついており、研究成果がどのように医療へ橋渡しされていくのかを具体的にイメージできました。一方で、実用化に向けては安全性やデリバリーなど多くの課題が残されていることも示されており、地道な検証の積み重ねの重要性も改めて感じました。夕方から夜にかけてはゲノム言語モデルに関連したフォーラムに参加しました。私の非常に興味がある分野であり、遺伝研の取り組みを知るとともに、開発の肌感覚も知ることができました。また、ディスカッションに参加することもでき、大変貴重な機会となりました。
最終日は、進化やゲノムの多様性をテーマとしたセッションを中心に参加しました。新しい遺伝子や機能がどのように生まれ、生物の多様性や適応に関わっていくのかという話題が取り上げられており、長い時間スケールで生命現象を捉える視点の重要性を実感しました。日頃は、特定の分子やパスウェイに焦点を当てて実験を進めることが多いですが、「そもそもその分子はいつどのように生まれたのか」「なぜその仕組みが維持されているのか」といった問いは、あまり考えていませんでした。今回、進化の視点からの話をまとめて聞くことで、自分が扱っている現象も、より大きな歴史の流れの中にあるのだと感じました。また、空間情報を含むオミクス解析や、複数階層の情報を統合した解析に関するセッションにも参加しました。同じ組織内でも細胞の状態が多様であることや、その背後にある制御ネットワークの複雑さが紹介されており、「平均像」では見えない情報の重要性を強く感じました。こうした技術は、今後の疾患研究や創薬においても大きな役割を果たすと感じる一方、データの解釈や情報量の多さにどう向き合うかという新たな課題もあると感じました。
ポスター会場では、機械学習を活用した研究や、核酸・タンパク質・細胞を標的とした多様な研究が数多く発表されていました。自分の専門に近い分野のポスターだけでなく、あえて少し離れた分野のポスターも見るように心がけたことで、「同じツールでも全く別の使い方がされている」こと、「似た課題設定でも、アプローチの仕方が研究者によって大きく異なる」ことを実感しました。限られた時間の中ではありましたが、質疑応答を通じて肌感覚を知ることができ、大変勉強になりました。また、1日目には私自身もポスター発表をさせていただきました。多くの方にお越しいただき、その方に合った説明をするように心がけました。実際に薬を世の中に届けている製薬企業の方やアプタマーの研究をされている方までお越しいただき、私の研究に対して実用上どうなのかのサジェスチョンをいただくことができました。こうした意見を取り入れつつ、研究に磨きをかけていきたいと思いました。企業展示では、最新の実験機器や試薬、解析ソフトウェアなどが紹介されていました。最新の機器や実験試薬などを見ながら、自分の研究にも取り入れられそうな点や、今後目指したい研究環境のイメージを膨らませることができました。
今回の学会参加を通して、生命科学のさまざまな分野で、データの大規模化やマルチオミクス化、AIの活用が進んでいることを改めて実感しました。一方で、どれほど技術が進歩しても、最後に問われるのは「どのような問いを立てるか」「得られた結果をどう解釈するか」という人間側の部分であり、その意味で基礎的な知識や論理的な思考力の重要性は変わらないと感じました。また、専門外のセッションでは、背景知識が不足していて十分に理解が追いつかない場面も多く、自分の勉強不足を痛感しました。今後は、自分の専門を深めることに加えて、周辺分野についても少しずつキャッチアップし、学会での発表をより主体的に参加できるようにしていきたいと考えています。キャリアや研究生活に関する企画を通じては、複数の視点やテーマを持つことの大切さ、人とのつながりを意識的に広げていくこと、困っていることや悩んでいることを一人で抱え込まず、言葉にして他者に伝えることといった点を改めて意識するようになりました。これらは、短期的な成果だけでなく、長期的な研究者人生を考えるうえでも重要な視点だと感じています。
今回の学会で得られた刺激や反省を今後の研究活動に活かし、次回参加する際には、より積極的に議論に加わり、自身の研究についても自信をもって発信できるよう準備していきたいと思います。最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった研究室の皆様、ならびに学会運営に携わられた関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
この度、2025年12月3日から5日にパシフィコ横浜で開催された「第48回日本分子生物学会年会」に参加しました。本学会への参加を通して得られた学びを共有させていただきます。
パシフィコ横浜が会場の学会には初めて参加させていただきましたが、これまでに参加したどの会場よりも規模が大きく、会議センターでは18会場で口頭発表が行われ、展示ホールでは毎日1000件程度のポスター発表が3日間に渡って行われました。高校生も含めた学生からの発表も多く、幅広いレベルや分野の発表に触れることができました。
清水研ではこの分子生物学会での発表が1年目の学生にとっての大きな目標として定められていますが、これまでに学んできた幅広い生物学や情報科学の知識をもとに発表を聞く中で、昨年までの自分では全くついて行けなかったような分野の発表であっても、その意義やロジックをある程度は理解できるようになっていると感じました。詳細まで理解しきれない部分に自分の未熟さを痛感する場面もありましたが、自分のメインプロジェクトや超速だけでなく、各種セミナーへの参加や勉強会で研鑽を積んできた成果を感じられた期間となりました。
今回の学会で最先端の研究に触れてみたいと考えていた分野の一つに「メカノバイオロジー」がありました。研究室のテクノロジーセミナーで紹介しようと偶然レビュー論文を読んでおり、基本的な概念には触れていたため、実際にどのような応用がなされているのか興味を持ち、いくつかの講演を拝聴しました。近畿大学の竹森久美子先生による講演「ECM由来ペプチドの生理機能や恒常性維持機構」では、不溶性で研究が難しいとされているタンパク質であるエラスチンについてカツオの動脈球というユニークな素材に着目されていた点が印象的でした。特に、「高血圧ラットへのエラスチン持続投与によって、(血圧そのものは変化しないものの)血管の伸展性が維持されていた」という結果は、生化学的なシグナルのみに着目するのではなく、組織の「物理的なしなやかさ」も含めて考える重要性が示されており、非常に興味深く感じました。また、そのメカニズムとしてDPP4阻害や血管内皮細胞への抗炎症作用を介した腎保護効果などの複数の経路が示唆されており、ECM由来ペプチドの可能性を強く感じました。また、北海道大学の石原誠一郎先生による講演「基質の硬さ依存的に活性化するATF5により制御される膵がん進行」の冒頭で紹介された「癌という漢字は、病だれに岩と書く(=がん組織は硬い)」というイントロトークは強く印象に残っています。実験手法においても、基質の硬さを単純に変えるだけではなく、コラーゲン濃度を一定に保ちながら「ゲニピン」という架橋剤を用いて硬さだけを厳密に制御することでデータへの信頼性を高める工夫がなされていました。硬い基質上では転写因子のATF5が核に局在しJAK-MYC経路などを介してがんの増殖能を高めるというメカニズムは、がん細胞が物理的な環境を「感知」して自身の振る舞いを変えていることを示唆しており非常に興味深かったです。これらの講演を通して細胞はリガンドと受容体による生化学的な反応だけでなく、足場の硬さや伸展性といった「物理的な力」とも、常に相互作用していることを痛感しました。これまで私はバイオロジーを主にシグナル伝達の経路図として捉えていましたが、これからはそこに「物理的環境」という軸を加えた立体的・力学的な理解が不可欠であると感じました。特にがんや線維化といった難治性疾患の背後には、このような「物理的環境」の破綻が深く関わっていることが示唆されており、生物学的なアプローチと物理学的な視点を融合させた「メカノバイオロジー」という分野が、今後の創薬や疾患メカニズムの解明において極めて重要であることを肌で感じることができました。
他に印象に残っているセッションとしては、「学際融合で挑む代謝・栄養学の新機軸」があります。このセッションでは、WET研究と数理モデルやオミクス解析などのDRY解析を組み合わせることで、複雑な代謝メカニズムを明らかにしようとする取り組みが紹介されました。九州大学の久保田浩行先生による講演「数理モデルを用いたリフィーディング症候群におけるリン代謝の理解」ではリフィーディング症候群モデルにおけるインスリン分泌抑制条件下でのアミノ酸濃度変動のような実験による検証が困難な複雑な生命現象に対して、数理モデルが強力なツールになることを示されました。構築された数理モデルにおいては、単にmTOR経路による細胞内取り込みを考慮するだけでは再現性が低く、「血中リン濃度に応じた排泄制御因子」という変数を組み込むことで劇的に精度が向上し、そのモデルから予測された排泄制御因子として、実際にFGF23の関与が実験的に見出されたというプロセスは、DryとWetの融合研究の鮮やかな成功例であると感じました。また、名古屋大学の和田恵梨先生による「MASH病態形成における交感神経の意義」では、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)へと疾患概念が変遷する中で、自律神経の役割に注目した点がユニークでした。単なる高脂肪食負荷モデルではなく、MC4RKOマウスにWestern Dietを与えるという実験モデルを用いることで、体重や肝重量には変化がないものの、ASTなどの脂肪肝マーカーや線維化マーカーが顕著に上昇するという、ヒトの病態に近いモデルでの検証がなされていました。解析手法としても空間トランスクリプトーム解析を駆使してAdrb2の発現が肝実質細胞で重要であることを突き止め、肝細胞特異的Adrb2欠損マウスのRNA-seq解析からコレステロール代謝経路(特に貪食関連)の変動を見出すというアプローチには非常に説得力がありました。これらの講演を通して、生体の恒常性は単一臓器や分子だけで完結するものではなく、臓器間の遠隔制御や数理的なバランスの上に成り立っていることを強く認識することができました。数理モデルやオミクス解析といった最先端のテクノロジーを適切なモデル動物と組み合わせることで、一見すると複雑で捉えどころのない代謝現象であってもその背後にあるロジック(FGF23やコレステロール代謝)を明らかにできるという基礎研究の力強さを感じることができたセッションでした。
最後に、自分自身のポスター発表について述べさせていただきます。ありがたいことにここまでに複数回情報系の学会に参加してポスター発表や議論をさせていただけたこともあり、「自分の研究をわかりやすく伝える」点については概ね達成できたと感じています。しかしながら、「分子生物学的に何が面白いか」、すなわち自分の結果がどのように生物学的な新規性につながるのか、また解析で得られた仮説をどのようにして実験的に検証するのか、メカニズムの妥当性などの議論においてはまだまだ深掘りが不十分であったと痛感しました。また今回の学会は、スライドやポスター発表の仕方や見せ方についても深く学ぶ機会となりました。どの会場も聴衆の数が多く、口頭発表スライドの下半分が聴衆から見えづらい場面が多々ありました。そういった点で、今回の学会ではタイトル部分に主張したい点をうまく表記できている発表が自分にとってわかりやすかったと感じました。もちろん学会発表のスライドは普段のプレゼンスライドと異なる部分も多いと思いますが、スライドの文字を大きくして文字数を極力減らすこと、文字を使わなくてもわかるようなイラストを使うことがわかりやすさに大きく貢献していると感じたので普段から意識していきます。また1日あたり1000枚に迫るポスターが同一会場に掲示されていたことから、今回はポスターセッション以外にも時間を割いてポスターを確認しました。その中でも目に止まるポスターは線が引かれていたり、文字の色や太さを変えたり囲ったりするなど、集中して見なくとも重要な部分が目に入ってくるよう工夫されていました。また当研究室の大谷さんが「アカデミア創薬会議2025」で口頭発表されましたがその発表練習や本番を見させていただいて、自分の未熟さを痛感するとともにとても刺激を受けました。来年の3月には日本薬学会でポスター発表をする予定があり、今回の学会と同じような生物学的・薬学的な視点を持つ(=情報学的な視点を持っていない)聴衆に向けて発表することになるので、その際は今回の学びや反省も活かした発表を心がけたいと考えています。
この度は、このような貴重な機会とご支援をいただきまして、改めて感謝申し上げます。
この度、2025年12月3日から5日にかけてパシフィコ横浜にて開催された第48回日本分子生物学会年会(MBSJ 2025)に参加する機会を頂いた。本学会は、日本最大級の生命科学系の学会であり、基礎生物学から医学応用、最先端の技術開発に至るまで、極めて多岐にわたる分野の研究成果が発表される場である。私自身、普段はAIを用いた分子設計やバイオインフォマティクスに関連する生命情報学寄りの研究を行っているが、本学会では自分の専門領域にとどまらず、Wetな実験生物学の最新知見や、全く分野の違う地学系の講義や、AIと異分野との融合領域における研究などを数多く学ぶことができ、日本の最先端研究のダイナミックな進展を肌で感じることができた。また今回は、学会の1日目にポスター発表を行う機会を頂けたため、Wetの異分野の人にどのように自分のDry研究の概要を理解してもらうかについて色々な経験や学びを得ることができた。以下、3日間の学会を通じて特に印象に残った講演やポスター発表などについて、私の感想や考察、学びを交えて報告させて頂きたい。
初日の一発目に、東京科学大学の島村徹平先生と東京大学の大澤 毅先生の「異分野融合が拓くマルチオミクス生命科学の新機軸:生命システム理解から分子デザインまで」を聴講した。
特に印象深かったのは、理化学研究所の二階堂愛先生による「DNA言語モデルによる遺伝子摂動に対する転写応答の予測」に関する講演である。個人のゲノム情報から遺伝子発現変動を予測することは、現状のゲノム言語モデルでも未だ困難であるという課題もあるが、二階堂先生の研究では、摂動によるトランスクリプトーム変動とDNAエレメント(ATAC-seqのオープンクロマチン領域など)のマルチタスク予測に取り組んでおり、AIが転写制御のどの部分に「注目」しているのかをパラメータの勾配から逆算できるという点は、解釈性の観点からも非常に興味深く、個人別の遺伝子発現量予測とその応用としての個別化医療の進展につながる可能性のある非常にインパクトの高い研究だなと感銘を受けた。また、島村先生の空間トランスクリプトーム解析技術「STODE」の話も刺激的であった。VAE(変分オートエンコーダ)を用いて画像データの潜在空間やダイナミクスを推定し、組織の発生をシミュレーション動画として可視化して実際に我々に見せてくださっており、このような発生という生命現象の「予知」につながる技術を開発されているのはすごいなという感動と、データサイエンスが発生生物学の領域において新たな知見をもたらしつつあることを実感し、とても勉強になった。
一方で、分子生物学の学会でありながら、地球史や進化に関する壮大なスケールの話を聞けたのも、非常に多岐にわたる研究分野が集っている本学会の醍醐味であった。 東京大学の田近先生による、大酸化イベントやスノーボールアースイベント(全球凍結)と生物進化の関係性についての講演は、異分野の話ながら、非常に印象に残っている講演だった。彼らは、火山活動(LIPs)によって鉄とリンの比率が変動したことで、地球の酸素濃度が上昇し、さらに温暖化効果を有するメタンの濃度が低下して地球全体の気温が一気に低下し、全球凍結というイベントが発生したのではないかという仮説を発表していた。普段はミクロな分子の世界について研究している分、こうしたマクロな視点で物事を捉えることの重要性や面白さを痛感することのできた貴重な講演だった。
また、初日のランチョンセミナーでは、博士課程学生の経済的待遇に関する議論がなされた。博士課程の学生の多くが経済的な不安を抱えており、それがアカデミア離れの一因となっている現状について熱く語られており、当事者世代として首がもげるほど頷きながら聴講した。博士課程学生の現状については多くの記事やお話がネットで挙げられているため、ここでは詳細については書かないが、DCやPDの給与・採択率の改善に向けた政府への働きかけなどを知れて、将来への一縷の期待や希望を持つとともに、日本の科学技術の未来のためにも、多くの人が研究に安心して取り組めるような環境整備が急務であると強く感じた。
初日の最後はパシフィコ横浜の広い展示ホールでポスター発表を行った。ポスター発表では、会場に非常にたくさんのポスターがある中、多くの人が私のポスターに足を運んでくださり、活発な議論をさせて頂いた。その中で、このようにすればさらにいい研究になるのではないかと色々なご指摘やご意見を頂け、非常に貴重な学びの機会になった。
2日目に印象に残ったのは、京都大学の池田幸樹先生がオーガナイザを務めた「アカデミア創薬会議 2025」であった。本セッションは、「患者の声」に寄り添い、アカデミアと企業が共創できる道を探るというテーマで開催され、発表される研究分野もWetだけでなく、Dryや幅広い創薬分野から演題を募っており、非常に熱気のある議論が展開されていた。
まず、研究室同期の大谷悠喜さんによる「創薬AI『AMP-Atlas』による中分子抗菌ペプチドの網羅的探索と進化的最適化」の発表は、研究内容だけでなく、プレゼンテーションの構成を含めて素晴らしかった。特に、スライドがシンプルで分かりやすく、最後に「Atlasを作りたい」と研究のAmbitionを語るスタイルは個人的にとても印象的で、周りの聴衆の反応も明らかに良かった。彼の研究内容の素晴らしさはもちろん、それを「伝える」技術の高さに感銘を受け、非常にいい刺激を頂いた。
また、大阪大学の岡田欣晃先生らのグループによる「血液脳関門(BBB)を一過的にゆるめ脳内に薬物を送達する低分子化合物の開発」は、本学会で最も衝撃を受けた研究の一つである。脳内への薬物送達は創薬における最大の障壁の一つであるが、彼らはCLDN5(クローディン5)に結合する低分子化合物(CL5B)を見出し、BBBを一過的に開口させることに成功していた。in vitroでのメカニズム解明から、in vivoでの低分子・中分子薬物の送達実証、さらにはてんかん治療効果の劇的な改善まで示されており、その完成度の高さに驚嘆した。基礎研究から臨床応用への道筋が明確に見える、まさにアカデミア創薬の理想形だと感じた。
最終日である3日目に印象に残った講演は、東京大学の越後谷健太先生・胡桃坂仁志先生らのグループによる「パイオニア転写因子SOX2によるゲノム配列を含むヌクレオソームへの結合機構」の研究である。この講演内容は、個人的な構造生物学の面白さや魅力を詰め込んだ内容であった。これまでSOX2は特定のDNA配列に結合すると考えられてきたが、クライオ電子顕微鏡を用いた詳細な構造解析により、実際にはこれまで知られていなかった配列に結合し、DNAを大きく折り曲げるような構造変化を引き起こしていることが明らかにされた。教科書的な定説に対し、クライオ電顕を駆使して徹底的な構造解析で構造の本質を探ろうとする姿勢に、非常に感銘を受けるとともに、このようなことまでわかってしまうのかという構造生物学の面白さを感じた。
今回の第48回日本分子生物学会年会への参加を通じ、AIやデータサイエンスのみならず、多様な研究に深く触れることができたからこそ、自身の研究の課題点や強みを再確認した。また、本会に参加して強く感じたのは、AIが多くの分野の研究を席巻している現在とはいえ、「Wet」な研究の重要性は変わるどころか、AIという新たなトレンドと交わって、さらに重要性が高まっていると感じた。本会に刺激を受け、私もDryだけで自身の研究を終わらせるのではなく、Wetな検証も含めてさらに研究をブラッシュアップしていこうと決意し、本会が大きな研究のモチベーションとなった。
最後になりますが、このように大変貴重な学会参加の機会を与えて頂きましたことに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
今回の参加で分生は3回目となり、私の中で最も連続して参加している学会になっている。改めて簡単に分生を説明すると、分子生物学に関する幅広い研究が発表される学会であり、基礎研究から応用研究まで多岐にわたる内容が取り扱われている。対象はヒトから植物、最近では生き物であればなんでもOKといった感じである。そのため、非常に参加者のバックグラウンドが多様であり、普段自分が関わっていない分野の研究に触れることができるのが魅力でありつつも、発表する側としてはそれを意識した内容作りが必要になる学会でもある。今回は17のシンポジウムが同時並列で開催されており、ポスターは毎日900件以上が発表されるという大規模な学会である。学会参加を通じてもちろん様々な知見を得ることができるのだが、それだけではなく大量の演題を見ることができるので、良い発表、良いポスターはなんなのかということが自分の中で少しずつ見えてくるようになったのも大きな収穫である。以下、参加したシンポジウムの内容を中心に報告する。
まず参加したのが、「ケミカルホメオスタシス:化学パラメーターで紐解く細胞内恒常性」というシンポジウムである。ここでは、化学的な観点から細胞内の恒常性を理解しようという試みが紹介された。例えば、細胞内外のカルシウムイオンとナトリウムイオンの濃度勾配の維持などがわかりやすい例だろう。このシンポジウムで個人的に非常に興味深かったのが、東京大学の平林先生と沖縄科学技術大学院大学の河野先生の2つの演題である。細胞内オルガネラにおける物質のやり取りについての発表である。これまで教科書的にはオルガネラは別々の独立したものとして扱われている。しかしながら近年、それらのオルガネラは空間的にかなり近接していることが、顕微鏡技術などの進展により明らかになってきた。しかし、分子的なメカニズムはいまだに不明であり、それを明らかにし、さらにどのような生体内イベントでこれが惹起されるのかを示したという報告である。エンドサイトーシス、エキソサイトーシスなどの文脈で細胞内のオルガネラが接触するという話は聞いたことがあるが、先生方の発表では、より大きなオルガネラ同士が接触していることが報告されていた。しかもそれがシグナル伝達という目的を持った機能的なメカニズムであるという点は驚きであった。さらに興味深かったのは、その実験手法である。接触しているオルガネラ近傍のタンパク質を標識することで、局所的に存在しているタンパク質を検出するという手法である。これにより、オルガネラの接触に関わる分子を同定し、解析を行うという。このように目的志向で得られたデータを解析することで得られる洞察は非常に興味深く、ぜひ私自身もデータ取得から解析まで一貫して行えるような研究をしてみたいと感じた。そんなことを思わせてくれるシンポジウムであった。
このシンポジウムのテーマであるケミカルアトラスについて簡単に紹介したい。これまで、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームといったomics解析が盛んに行われており、現在は空間情報を保持したomicsとして空間オミクスが注目されている。実際、今回の分生でも幾度となく空間オミクスの話を伺った。これらのomicsの次のモダリティとして、ケミカルアトラスが提唱されている。例えば、疾患と補酵素の関係について発表された愛知がんセンターの小島先生の講演では、細胞内に存在する補酵素の濃度を定量することで、疾患(に関わる酵素)との関連を見出したという報告がなされた。このように、従来のomicsでは捉えきれない化学物質の情報を取得することで、新たな生物学的知見を得ることができる可能性がある。まさにケミカルアトラスの意義を示すものであった。ただし、演者の先生方も言及されていたが、ケミカルアトラスの最大の課題は計測手法である。というのも、局在している化合物やイオンの勾配は簡単に破綻してしまうためである。細胞やオルガネラにストレスがかかり、膜に穴が空いてしまえば、たちまちその勾配は失われてしまう。そのため、いかにして正確に計測するかが、今後のケミカルアトラスの発展において重要なポイントになると感じた。将来的には、データベースとして整理し、ユーザーが知りたい化合物の局在情報を簡単に取得できるような仕組みの開発を目指すとのことであった。現在、様々な階層のomicsデータが集積されているため、これらのデータとケミカルアトラスのデータを組み合わせることで、より深い生物学的知見が得られることが期待される。
続いて報告したいのが、ゲノム医療に関するミニシンポジウムである。今年の分生から、通常のシンポジウムよりもやや短いミニシンポジウムが導入された。実際には、内容としては他のシンポジウムと大きな違いはなく、発表時間や演題数が異なるという点が主な違いである。話を戻すと、ゲノム医療に関するミニシンポジウムでは、ゲノム医療の最前線で活躍されている先生方が登壇され、最新の知見を紹介してくださった。私自身、ゲノム医療という言葉は知っており、論文等でも度々目にしてきたが、実際の臨床現場でどの程度まで進んでいるのか、またどのような課題があるのかについては、十分に理解できていなかった。今回のミニシンポジウムは、まさにそのような疑問に答えてくれる内容であった。特に印象的だったのが、神戸大学の辻元先生による「色素性乾皮症の診断と現状」という演題である。色素性乾皮症は、DNA修復に関わる遺伝子の異常により、皮膚障害に加えて聴覚障害などの神経症状を呈する疾患である。非常に稀な疾患であり、これまで診断が難しいとされてきた。しかし、次世代シーケンシング技術の発展により、患者由来の全ゲノムシーケンスを取得し、そのデータをもとに診断を行うことが可能になってきたという報告であった。実際、先生方のグループでは多くの患者の全ゲノムシーケンスデータを取得し、それをもとに診断を行うとともに、新たな治療法の開発にも取り組んでいるとのことであった。まさにゲノム医療の最前線を垣間見ることができ、大変興味深かった。また、先生方も言及されていたが、色素性乾皮症は診断が難しい疾患である(というのも、「光線過敏」は様々な文脈で使われる用語であり、色素性乾皮症を強く疑う所見を得ることが難しい)一方で、遺伝学的検査を行うことで確定診断が可能となる。しかし、色素性乾皮症ではできるだけ早期に遮光を行うことが重要であるため、遺伝学的検査に辿り着くまでの時間をいかに短縮するかという仕組みづくりが必要であるとのことであった。この演題以外にも、臨床現場でのゲノム医療の提供を目指した報告に加えて、より基礎的な研究も併せて紹介されていた。私自身、現在は低分子・中分子創薬を中心に研究を進めているが、ゲノム医療や遺伝子治療の分野にも関心があるため、当該分野の現状を俯瞰できた点で大変有意義な時間であった。
次に報告したいのが、糖鎖に関するシンポジウムである。今回で3回目の分子生物学会年会であるが、糖鎖に関するシンポジウムにはこれまでも何度か参加してきた。というのも、現在進めているいくつかの研究において、タンパク質を言語モデルで扱っているが、その中で十分に扱えていない要素の一つが糖鎖であると考えているからである。もちろん、ESM-2などの言語モデルには糖鎖に関する情報が内包されている可能性はあるが、少なくとも明示的に扱える情報ではない。例えば、今回紹介された研究の一つに、膜タンパク質の流動性と糖鎖に関する報告があったが、これは結合する糖鎖の種類によって変動するという。これは、タンパク質の配列以外の要素によって機能が変化する一例であると考えられる。もし、タンパク質言語モデルをはじめとするタンパク質の表現方法をさらに拡張するのであれば、その一つの要素が糖鎖であると考えている。また、糖鎖のデータサイエンスはまだ十分に進んでいる印象はないものの、技術革新が起これば一気に発展するモダリティであると考えている。そのような技術や潮流をいち早く察知できるのが、このような学会の魅力なのだろう。以上の理由から、定期的にこの分野の演題を聴講している。特に印象に残ったのは、糖鎖の空間オミクスである。RNAの空間オミクスでは多数の配列を同時に認識できるようになっているが、糖鎖の場合は現状では数種類に限られるとのことであった。数は少ないものの、そのような技術が既に存在していること自体に驚かされた。生物学的観点からも、ここ数年で疾患を含む様々な生命現象との関係が明らかになりつつある印象を受けた。代謝や一部のがんでは、糖鎖に関わるタンパク質の異常と相関があるとのことである。そう遠くない将来に、多数の糖鎖を検出できる技術が登場し、さらに多くの知見が明らかになるに違いないと感じさせられるセッションであった。
最後に、私自身の発表について振り返りたい。昨年に続き、今年も「アカデミア創薬会議2025」に採択いただいた。昨年度は低分子抗菌薬について発表したが、今回はペプチド抗菌薬についての発表を行った。これまでの反省点として、発表に自信がなさそうに見える点があったため、今回はその克服を意識して発表に臨んだ。その結果、発表自体は概ね満足のいくものとなった。一方で、課題も残った。一つは質疑応答であり、端的に言えば話しすぎてしまった点である。シンポジウムは2日目であったため、その後の演題を聴講する中で振り返ってみると、上手な質疑応答ではクリティカルな点を端的かつ明瞭に答えていることに気づいた。今回は、想定していなかった質問が来たこともあり、着地点を十分に定めないまま話し始めてしまい、考えながら話すうちに冗長になってしまったことが原因であると反省している。もう一つの課題は、データの見せ方である。今回の発表において最もインパクトのある部分の強調が不十分であったと感じている。与えられた10分という時間の中で、各パートに割り当てた時間配分のバランスが悪く、最後の部分でやや駆け足になってしまった。普段の研究進捗報告では時間をあまり意識せずに資料を作成してしまっていたが、今後はこのような点についてもより意識していきたい。また、ポスター発表については多くの方に足を運んでいただいた。本年度は口頭発表の後にポスターセッションが設定されていたため、シンポジウムで興味を持ってくださった方々が多く来てくださった。これまでのポスター発表と異なる点は、研究の全体像についてはほとんど説明しなかった点である。例えば、口頭発表ではAIに関する部分をかなり簡略化していたため、その具体的な内容についてポスター発表の場でピンポイントに質問されることが多かった。その結果、これまで以上に踏み込んだディスカッションを行うことができた。
本年の分子生物学会年会への参加を通じて、自身の研究分野に対する理解を深めると同時に、これまで十分に触れてこなかった分野や新しい技術動向についても多くの刺激を受けた。今回得られた知見や反省点を今後の研究活動および発表に活かし、より質の高い研究を目指していきたい。
2025年の12月3日から5日にかけてパシフィコ横浜にて開催された日本分子生物学会年会(分生)に参加させていただいたので、その報告をする。修士課程修了後に就職をする私にとって、今回の分生は、最後の学会参加であった。これまでの分生は生命科学x機械学習やオミクス解析など比較的、自分の研究内容に関連するセッションを中心に聴講していた。今年は最後の参加となることもあり、普段では学ばないような分野のセッションも含めて幅広く勉強することを決めた上での参加であった。
初日に足を運んだのは「数理データ科学が拓く生命医科学研究の未来」というシンポジウムだ。特に印象に残ったのは、オーストラリア国立大学のVanessa Robins氏による、パーシステントホモロジーという純粋数学の手法を用いた画像解析の講演である。 病理組織画像やCT画像など、生物学的データは複雑な「形」を持つ。従来の機械学習がピクセル単位の情報処理に留まりがちなのに対し、トポロジー(位相幾何学)の概念を導入することで、データの持つ「穴」や「連結性」といった大局的な構造情報を、染色などのテクニカルな差異に影響されずに定量化できるという内容であった。
二日目は「細胞間相互作用が駆動する多細胞ダイナミクス」と題したセッションを聴講した。本セッションは発生過程などにおける多細胞のダイナミクスに関連する分子メカニズムなどに焦点を当てており、私にとってはあまり馴染みのない分野であったが、予想以上に楽しむことができた。熊本大学の淺井先生はニワトリ胚の初期発生において、左右決定のオーガナイザーとされるヘンゼン結節形成よりも前の段階で、すでに細胞集団運動に左右非対称性(右側優位)が存在することが報告された。原条形成期のエピブラストに見られる、正中線を挟んで対になって回転する細胞集団運動すなわち「ポロネーズ運動」に着目し、高解像度ライブイメージングと流体力学的手法を用いた定量解析により、従来の「遺伝子発現による左右決定モデル」より早期に、物理的な左右性の破れが生じていることを示された。
学会二日目に参加した「幹細胞合成生物学」は、本学会の個人的ハイライトと言える内容であった。ここでは「生命現象の時間をどう捉えるか」という難題に対し、さまざまな演者による研究成果・アプローチが示された。その中でも特に印象に残った2人の先生による発表について報告する。
一人目はカリフォルニア大学サンタバーバラ校のSebastian Streichan先生による発表であった。彼は胚発生における形態形成を「幾何学」と「力学」の観点から解き明かした。羊膜腔内の圧力が風船のように組織を押し広げ、その張力が基質への牽引力となって神経管の折り畳みを駆動するというモデルを紹介された。遺伝子発現だけでなく、初期条件としての幾何学と、その場に働く物理的な力が揃って初めて正常な器官ができるという”Trifecta(三要素)”の概念は、生物学を「物質の物理現象」として捉えるという、これまでは馴染みがなかった視点を得ることができた。
そして二人目は、大阪大学の神本健児氏によるデータ駆動 in silico 発生学の講演であった。前半では既知のツールであるCellOracleによる遺伝子制御ネットワーク(モデリングについて、後半の内容は未発表データのため、詳細は割愛するがライブイメージング技術、オミクスデータ、機械学習を統合した新しいマルチモーダル解析技術について発表された。講演ではPost Cell Oracleと話されており、非破壊のまま、単一細胞の未来を予測するための構想が語られた。
二日目のナイトセッションでは、国立遺伝学研究所の近藤滋先生らがオーガナイザーを務めた「ゲノム言語モデルの現在と未来」に参加した。 ChatGPTなどの大規模言語モデルが自然言語を学習するように、DNAの塩基配列を「言語」として学習させるゲノム言語モデル。アメリカのArc Instituteにより開発されたEvoをはじめとするこれらのモデルは研究室のJournal Clubでも度々取り上げられており、技術的な背景には馴染みがあった。しかし、本セッションで議論されたのは、既存モデルの単なる紹介や応用ではなく、より根本的な国産ゲノム言語モデル開発の動機であった。
印象に残ったのは、「なぜEvoという優れたモデルがすでに存在する中で、日本独自の基盤モデルをゼロから作る必要があるのか」という問いに対する答えだ。Evoなどは素晴らしい性能を示す一方で、Hyena Operatorのハイパーパラメータ設定など、設計意図が不明瞭なブラックボックス的な側面も残されている。「一度自分たちで作ってみることでしか分からないことがあるのではないか」という遺伝研の先生方の言葉には、エンジニアリングの本質を突く重みがあった。 また、ゲノム言語モデルの魅力の一つして「やってはいけないこと」を理解する」という視点も興味深かった。自然言語で文脈上あり得ない言葉が続かないのと同様に、生命として成立し得ない「禁忌」の配列をモデルが学習しているとすれば、それは、単なるアライメントなどでは検出できない生命の設計にというルール、すなわち文法を記述していることになる。現状ではまだ国産ゲノム言語モデルプロジェクトは始まったばかりではあるが、今後の展開を非常に楽しみにさせるセッションであった。
2回のポスター発表を含め、駆け抜けた修士課程の研究生活であったが、今年の分生を通して感じたのは「境界の消失」である。ウェットとドライ、生物学と数学、実験とシミュレーション。かつて存在した境界線はもはや意味をなさず、すべてがデータという共通言語の上で統合されつつある。
学会の二日目にポスター発表を行った。今年の分生ではモデルの性能だけでなく、より臨床応用を意識した内容を中心にポスターを作成した。今年もウェットの研究を専門とされる方を中心に、アカデミア・企業・学生など幅広いバックグラウンドを持つ方に発表を聞いていただくことができた。いただいた主な質問の内容は、アルゴリズムの簡単な詳細や、入力情報などに関する基礎的な質問が多く、修士論文の審査を控えている私にとっては、自分の研究の基礎的な部分を見直す非常に有意義なディスカッションをすることができた。
来春からは学生という立場を離れ、都内の企業でデータサイエンティストとして就職する。扱うデータはライフサイエンスとはまた違うモダリティのものになるが、清水研での日々や分生をはじめとする学会への参加で培った幅広い視野、伝える能力、最新の技術を積極的に取り入れる姿勢などは社会人になっても大きな武器になると考えている。就職して分野を離れても、定期的に最新の論文などに目を通して、今後さらに発展する生命科学・情報科学の最先端に触れ続けたい。
2025年12月3日から5日までの3日間にわたり、パシフィコ横浜で開催された第48回日本分子生物学会年会に参加したため、その報告を行う。
本学会において、私は2日目の12月4日にポスター発表を行う機会を得た。今回の参加にあたり、自身の専門領域であるAIやバイオインフォマティクスに関連するセッションのみならず、多様な生物学領域のシンポジウムを意識的に聴講するよう務めた。これは、所属研究室での活動を通じ、Dry解析はあくまでツールであり、解決すべき生物学的問いやアプローチの妥当性は、ドメイン知識の深い理解に立脚しなければ得られないことを痛感していたためである。自身の発表テーマとも関連するnon-coding RNAやRNA修飾の最新動向、あるいは日頃のジャーナルクラブを通じて得ていた注目領域など、この一年間で学んできた知識を、生命科学という広大なマップの中に改めて位置づけることで、今後の研究指針を得る貴重な機会となった。
学会一日目の報告を行う。「分子修飾が生み出す生命の制御と疾患」と題したシンポジウムを聴講し、RNA修飾が担う多様な分子機能と疾患との関係について理解を深めた。特に、産業技術総合研究所の今野雅允氏らによる、がん組織におけるRNA修飾率変化に関する研究は、自身の研究テーマとも密接に関連しており、強い関心を抱いた。現在、約200種類が知られているRNA修飾のうち、m6Aなど一部の修飾に研究が集中しているが、本講演では、複数の修飾変化がmRNAの安定性やスプライシング制御に影響し、がんの悪性化に寄与する可能性が示された。この知見は、配列情報のみに依拠した解析の限界を改めて認識させるものであり、修飾情報を含めたマルチレイヤー・マルチモーダルなAIモデル構築の必要性を強く感じさせた。また、RNA修飾を新規バイオマーカーとして活用する臨床応用の可能性についても、具体的なデータに基づいて議論されており、基礎研究と医療応用の接続点を意識する貴重な機会となった。 また、同日のポスターセッションでは、理化学研究所・脳神経科学研究センターの宮武秀行氏らによる、アミロイド脱凝集を促す低分子化合物の探索に関する発表が印象に残った。MDシミュレーションとWet実験を組み合わせたスクリーニング手法は、今後、古典計算機および量子コンピュータの発展に伴い、飛躍的な進歩が期待される領域である。現時点ではシミュレーションの時間スケールや計算精度に課題が残るものの、実験値と計算値の乖離をどのように解釈し、モデルにフィードバックさせるかという地道なプロセスについて、 計算結果の信頼性や適用範囲について直接議論を交わせたことは、門外漢の私にとって極めて有益であった。
学会二日目の報告を行う。この日は私自身のポスター発表を行い、塩基配列情報を利用したnon-coding RNAの安定性予測について報告した。AIや計算機科学を専門としない聴衆に対しても、要点を絞り簡潔に伝えることを意識し、良い議論が行えたと一定の手応えを感じている。一方で、関心を示してくださった研究者の多くがRNA言語モデルやDNAオリガミといった近接分野の研究者であった点は、今後の課題として認識している。分子生物学会のような異分野融合の場において、専門外の研究者に直感的に研究コンセプトを伝えるためには、Figure構成、とりわけ研究全体像を示す一枚絵の設計力をさらに高める必要があると感じた。
同日のポスターセッションにて、私は量子科学技術研究開発機構(QST)による、ナノダイヤモンドを量子センサーとして活用する研究に注目した。窒素-空孔中心(NVC)を有するナノダイヤモンドが、温度やpHといった微小環境を高感度に検出可能であり、かつ細胞毒性が低い点は非常に魅力的である。本研究では、従来問題となっていた微細化に伴う感度低下を克服し、高いコントラストと優れたODMR特性を維持した新規ナノダイヤモンド作成法が示されており、これが将来的にどのようなデータリソースを生み得るのかについて、自身の研究分野との接合点を探るべく詳細な議論を行うことができた。また、シンポジウム「未来を創る遺伝子改変技術」では、国立循環器病研究センター研究所の大西諭一郎氏らによる、ミトコンドリア移植を用いた中枢神経疾患治療の研究に感銘を受けた。ラボのジャーナルクラブでもがん細胞と正常細胞間でのミトコンドリア伝播を取り扱っており、私は不勉強ながらその時にこの研究分野自体を知った。近年特に注目が集まっており、ミトコンドリア伝播に関しては他のシンポジウムでも複数扱われていた。本研究は伝播ではなく人為的な「移植」に焦点を当てたものであり、治療応用への新たな視座を得ることができた。
学会三日目の報告を行う。シンポジウムにて、愛知県医療療育総合センターの増田章男氏らによるスプライシング機構の空間構造理解に関する研究を聴講した。核内で液-液相分離(LLPS)を起こしている複数のRNA結合タンパク質群が、新生RNA鎖を巡り競合するという空間的メカニズムが明らかにされ、動的かつ空間的な制御機構理解の重要性を強く認識した。LLPSに関与するタンパク質の多くは天然変性領域(IDR)を有しており、AlphaFold 3等の最新の構造予測技術を用いても、その相互作用や機能を完全に解明することは困難である。LLPSのシミュレーションやAIによる設計は、静的な構造予測から動的かつ不定形な相互作用の予測へという今後の計算生物学における大きな挑戦的課題であり、その領域の知見をキャッチアップできたことは大きな収穫であった。
本学会への参加は、最先端の研究成果を学ぶ場であったと同時に、研究成果をいかに効果的に伝えるかという「表現技術」の重要性を学ぶ場でもあった。口頭発表の場では、こみ入った図をポインターで指し示して説明していくよりも複数枚のスライドを使ってアニメーションにした方が明らかに注意を引きやすい上に前を向いて話し続けられることや、ミニシンポジウムなどの短い発表では研究の試行錯誤の経緯を話す時間はなく結論の提示に限定した方がかえって内容がよく伝わることなど、様々な登壇者の発表を比較することで実感できた点も多かった。今回はほとんどが実地開催でありzoomによる配信は行われなかったが、ハイブリッド型の場合にどう発表すべきかといった違いもこれから技術を盗み自身の糧としたい。一年に一度の分子生物学会という場を自身の研究活動のマイルストーンと位置づけ、時代の要請に応えうる成果を発信できるよう、引き続き研究に邁進する所存である。
2025年12月3日から5日にかけて、パシフィコ横浜にて開催された「第48回日本分子生物学会年会」に参加しました。本学会は国内最大規模の生物学の祭典であり、例年多くのWet研究者が集う場ですが、本年度はAIや数理科学といったDry領域の浸透が著しく、私が研究しているAI創薬や計算化学と、伝統的な生物学が融合する最前線を確認することができました。以下、3日間の聴講および発表を通じて得られた知見と所感を報告します。
学会初日、まず参加したシンポジウム「異分野融合が拓くマルチオミクス生命科学の新機軸:生命システム理解から分子デザインまで」では、先端技術が生命現象を記述する新たな言語として定着しつつある現状を目の当たりにしました。特に印象に残ったのは、島村徹平先生による「深層生成モデルが織りなす生命ダイナミクスと分子創成」です。空間トランスクリプトーム解析は位置情報を保持したまま遺伝子発現を解析できる強力な手法ですが、実験操作に伴い組織を破壊するため「ある一瞬のスナップショット」しか得られないという課題がありました。これに対し、紹介された手法「STODE (Spatiotemporal Deep Generative Model)」は、不連続な時間点のSTデータから、連続的な組織形成のダイナミクスを「動画」として再構成する画期的な技術でした(Majima et al., arXiv, 2025)。STODEは、VAEとNeural ODEを組み合わせることで、細胞の移動だけでなく増殖や消失といった非線形な変化をモデル化しており、発生生物学における「モルフォゲン」の濃度勾配による細胞運命決定プロセスを数理的に逆算・シミュレーションできていました。これは、私の研究分野である創薬においても、薬剤投与後の細胞応答を時系列で予測する「仮想実験系」として応用可能なアプローチであると強く感じました。
同シンポジウムでは、二階堂愛先生が「DNA言語モデル」による転写応答予測を紹介されました。その中で発せられた「人類だけで研究をしていた最後の世代になるかもしれない」という言葉は非常に衝撃的であり、今後は大規模な事前学習モデルを自身のタスクに特化させる「AI協働型」の研究スタイルが標準になることを確信させるものでした。
続いて参加した「数理データ科学が拓く生命医科学研究の未来」というシンポジウムでは、病理画像診断における「基盤モデル」の進化について多くの知見を得ました。病理AIの分野では、従来のようなラベル学習から、自然言語の診断レポートを教師データとする「Text Supervision」への転換が進んでいます。講演で紹介された「CONCH」やその進化版である「TITAN」は、画像とテキストを対照学習させることで、未知の症例に対しても高い汎化性能を示していました。さらに、ブラックボックスになりがちなAIの判断根拠を可視化する「PAGET」のようなセグメンテーション技術も紹介され、臨床現場での受容性を高めるためには、精度の高さだけでなく「説明可能性」が不可欠であることを再認識しました。
これらのシンポジウム終了後、「キャリアパス委員会主催ランチタイムセミナー」に参加し、井元佑介先生(京都大学)らによる研究者のキャリアに関する講演を聴講しました。「博士号や研究スキルこそが、不確実な時代における最強のリスクヘッジである」というメッセージは、私にとって強く響くものでした。特に「利他的な研究者は生き残る」という言葉は、アカデミアと企業の境界を越えて協業するこれからの時代において、個人のスキル以上に「信頼」や「人脈のネットワーク」が資産になることを示唆しており、技術と人間性の両面を磨く必要性を痛感した初日となりました。
学会2日目は、特に興味を抱いていたシンポジウム「アカデミア創薬会議 2025」への参加から始まりました。本セッションの中では「血液脳関門(BBB)制御」が主題となり、脳疾患治療薬開発の最大の障壁であるBBBをいかに攻略するかが議論されました。特に画期的だったのが、大阪大学のグループによる「Claudin-5(CLDN5)結合性低分子化合物によるBBBの一過性開口」に関する報告です(Inoue et al., J Control Release, 2025)。従来、抗体やsiRNAを用いたCLDN5制御は、作用が強力かつ持続的であるために、脳浮腫などの副作用を伴うリスクがありました。しかし、今回報告された新規化合物「CL5B」は、9600化合物のスクリーニングから同定され、CLDN5の発現量を変えずに局在のみを変化させることで、30分以内という極めて短時間かつ可逆的にBBBを開口させることに成功しています。特に目が留まったのは、この研究プロセスにおいてIn silico解析が重要な役割を果たしている点です。研究チームはAlphaFoldによって予測されたCLDN5の構造に対し、MolSite法で結合ポケットを探索し、MDシミュレーションを通じてCL5Bが細胞外ループ(ECL2)近傍のポケット(P2)に安定して結合することを予測していました。Wetの実験データと、ドッキングシミュレーション等のDry解析が見事に噛み合い、メカニズムの解明に貢献している事例であり、計算科学が実際の創薬ターゲット探索において強力な武器となることを再確認できた非常に意義深い講演でした。
シンポジウムの後は、自身の研究成果についてのポスター発表を行いました。発表会場には、アステラス製薬や大塚製薬といった製薬企業の研究員の方々も多数来訪され、活発な議論を交わすことができました。昨年の分子生物学会に参加した際と比較し、質疑応答における瞬発力や、議論をリードする力が確実についていることを実感し、自身の成長を感じる瞬間でもありました。特に印象的だったのは、機械学習の専門外であるWetの研究者の方々が、AI解析に対して非常に高い関心を寄せてくださったことです。例えば、「MLPで次元を削減するとはどういうイメージなのか?」という本質的な質問をいただいた際、私はとっさに「長い文章の要点を抽出し、短い要約を作成するプロセス」に例えて説明を行いました。相手のバックグラウンドに合わせて専門用語を噛み砕き、直感的な理解を促す説明ができたのは、2年間清水研究室で多様な専門性を持つメンバーと議論を重ねてきた経験があったからこそだと感じています。
発表終了後も、足を運んでくださった製薬企業の方々と、実際の研究開発現場におけるAI活用の実情について深く話をすることができました。話題はDXの推進状況や量子コンピュータの活用、さらにはAIを実務で回すためのデータプラットフォームやインフラ構築の重要性と難しさにまで及びました。「モデルの精度だけでなく、それを支える泥臭いインフラこそが重要」という現場の声を通じ、最先端のモデル研究を実社会で運用するための基盤作りもまた、創薬DXを成功させる上で不可欠な要素であることを学びました。アカデミアで培った技術を、将来どのように社会実装へと繋げていくべきか、その具体的な道筋を考える上で極めて有意義な一日となりました。
学会最終日は、「実験モデルの多様化」と「データ統合技術」という2つの観点から、創薬研究を考える一日となりました。まず参加したシンポジウム「大規模バイオバンクを基盤とするヒト疾患研究の最前線」および関連セッションでは、基礎研究の成果をヒトの治療へと橋渡しするトランスレーショナルリサーチの進化を目の当たりにしました。特に、ヒト剖検脳リソースを活用した研究報告(Nature Immunology 2025等)では、snRNA-seqや空間トランスクリプトーム解析を駆使することで、マウスモデルではなくヒト組織そのものから直接的に病態メカニズムを解明し、ハイインパクトな成果に繋げている点に圧倒されました。病理専門医の先生による「バイオバンク検体の品質管理」の話も興味深く、AI解析やオミクス解析の精度は、結局のところ元となる検体の質に依存するという「Garbage in, Garbage out」の原則を、Wetの現場視点から再確認する機会となりました。
午後は視点を変え、「新規モデル生物とバイオDX」のシンポジウムに参加しました。ここで特に興味を惹かれたのは、「ネコ」を疾患モデルとして活用する研究です。マウスのような人為的な疾患誘導モデルとは異なり、ネコはヒトと同様に認知症や多発性嚢胞腎などを「自然発症」するため、よりヒトに近い病態解明が期待できます。被毛のパターンと疾患リスク(難聴など)の相関解析など、身近な動物を対象としたデータ駆動型研究は、創薬研究におけるモデル生物の多様性の重要性を教えてくれました。
3日間の分子生物学会への参加を通じ、私は「WetとDryの境界消失」を強く実感しました。初日の深層生成モデル(STODE)による生命ダイナミクスの再構成、2日目の計算科学(MD/ドッキング)を駆使したBBB制御化合物の創出、そして最終日の多様な生物種情報を統合するバイオDX。これら全ての発表において、AIや数理モデルはもはや「補助ツール」ではなく、生命現象を理解し制御するための「中核技術」として機能していました。一方で、製薬企業の方々との対話や病理検体のセッションを通じ、高精度なモデルを支えるのは、高品質な実験データと堅牢なインフラであることも痛感しました。本学会は、単なる最新技術の収集にとどまらず、こうした「データと計算の有機的な連携」こそが次世代の研究に不可欠であるという本質を学ぶ場となりました。この多角的な視座を得られたことは、一人の研究者として大きな成長であり、今後の研究活動における重要な指針になると確信しています。
2025年9月3日~4日に横浜にて開催された日本分子生物学会年会に参加した。本学会では、普段なら触れないような発表を中心に聴講した。以下では本学会を通して特に印象に残った発表や印象に残った事項を報告する。
数多くの発表の中で特に印象深かったものは、理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)の北島智也先生による「卵子の染色体数異常の理解と抑止」、農研機構の横井翔先生による「昆虫BioDXについて」、大阪大学の森田梨津子先生による「毛包発生と幹細胞誘導を支える時空間的な細胞間相互作用の理解」に関する講演である。
北島先生は流産やダウン症などの先天性疾患の主要因となる卵子の染色体数異常(異数性)のメカニズム解明とその抑止に取り組んでいる。卵子は他の細胞に比べて染色体分配のエラーを起こしやすく、特に母体年齢の上昇に伴いその頻度が増加することが知られている。北島先生はマウス卵子を用いたライブイメージング解析により、老化卵子では染色体同士を繋ぎ止める接着因子(コヒーシン)が減少し、紡錘体が染色体を引く力(微小管による牽引力)に耐えられずに早期分離(Premature Separation)を起こしてしまうことが異数性の主因であることを突き止めた。そこで北島先生は、「接着力が弱まっているなら、引く力を弱めればよい」という逆転の発想に基づき、合成生物学的なアプローチを用いて「人工キネトコア(Artificial Kinetochores)」を開発した。これは自己組織化するナノ粒子上にキネトコアタンパク質(Ndc80等)を発現させたもので、卵子内に導入すると微小管と結合し、本来の染色体にかかる微小管の結合量(牽引力)を競合的に減少させる「デコイ(おとり)」として機能する。実際にこの人工キネトコアを老化マウス卵子に導入したところ、染色体の早期分離が抑制され、異数性の発生率が有意に低下することが実証された。人工キネトコアの導入量には至適な範囲があり精密な制御が必要であることや、接着力そのものを強化するアプローチが難しいなどの課題もあると述べられた。人工的なツールを用いて老化により劣化した卵子の機能を補完・修復する「Oocyte Renovation」という新たな概念を提示するものであり、生殖医療への応用も期待される画期的なアプローチであると感じた。
横井先生は農業や食品産業に資する昆虫研究の最前線とデータ駆動型研究「昆虫BioDX」の展望について講演された。まず導入として、昆虫は地球上の生物種の半数以上を占める多様性を持ち、古くから基礎研究に利用されてきた歴史が語られた。かつてはキイロショウジョウバエがモデル生物として分子生物学を牽引しゲノム情報も早期に公開されていたが、それ以外の非モデル昆虫のゲノム情報を得ることは困難であり、演者自身も学生時代に研究を進める上で苦労した経験があった。しかし、DNAシーケンサー技術の進歩により、現在では誰でも手軽にゲノムやトランスクリプトームデータを取得・構築できる時代となり、さらにRNAiやゲノム編集などの機能解析ツールや大量のRNA-Seqデータを用いた解析が可能になったことで、あらゆる昆虫が研究対象となる「昆虫BioDX」の時代が幕を開けたと強調されました。本講演では横井先生が取り組んできた農業昆虫のデータ解析事例として、農業害虫、カイコ、ミツバチの3点が紹介されました。一つ目の事例は農業害虫であるトビイロウンカの薬剤抵抗性に関する研究であった。平成25年には抵抗性ウンカの大発生により「坪枯れ」と呼ばれる被害が多発し、損害額は100億円を超えると試算された。そこで横井先生はイミダクロプリド抵抗性系統を用いたRNA-Seq解析を行い、発現変動遺伝子解析を実施した結果、チトクロームP450遺伝子であるCYP6ER1を同定した。さらにRNA干渉によるノックダウン実験でイミダクロプリドの感受性が回復したことから、これが抵抗性の原因遺伝子であることを証明した。この成果は薬剤抵抗性農業害虫管理のためのガイドライン案作成や、遺伝子診断マーカーを用いた抵抗性発達度の判定といった現場での対策に応用されている。二つ目の事例はカイコであった。カイコは大量飼育が可能であり、遺伝子組換え技術を用いて有用なタンパク質を合成させるバイオリアクターとして、医薬品原体の産生など養蚕業のみならず新産業への利用が期待されている。横井先生は絹糸腺というシルク合成に関わる器官に注目し、ゲノムやトランスクリプトームデータを再構築して公開することで、誰でも利用可能な環境を整えた。現在はこれらのデータを活用し、シルク合成に関わる遺伝子の探索や社会実装へ向けた研究が進められている。三つ目の事例はミツバチであった。養蜂業における問題を解決するため、有用な形質を持つミツバチの創出が求められている。そのために必要な基盤となるトランスクリプトームデータを取得して発現データを作成し、有用形質に関連する遺伝子を探索した上で、ゲノム編集技術を用いて実際に問題を克服する形質を付与する研究が行われている。横井先生はサンプルの取得が困難な昆虫種においても誰もが使える基盤データを整備・公開することの重要性を説いており、公共データベースへのデータ蓄積がメタ解析などの新たな研究を加速させるという視点は、バイオインフォマティクスの重要性が増す現代において非常に示唆に富むものであった。
森田先生は成体組織の恒常性を担う幹細胞が胎児期の器官形成過程でどのように生じるのか、その起源と形成機構について講演された。皮膚や毛包は再生能力が高く、幹細胞による恒常性維持システムのモデルとして優れているが、これまで幹細胞がいつ、どこから、どのように生じるのか、そして器官の形作り(Morphogenesis)と幹細胞の運命決定がどのように協調しているのかは未解明であった。森田先生は長期3Dライブイメージングと1細胞トランスクリプトミクス(scRNA-seq)を組み合わせたデータ駆動型の手法により、マウス毛包上皮の発生過程を解析した。その結果、毛包の原基であるプラコードの段階において、将来異なる運命をたどる細胞群が同心円状に配置されており、将来の幹細胞となる細胞はプラコードの辺縁部(外側)に位置していることを突き止めた。毛包が成長して陥入していく過程で、この同心円状のパターンがちょうど望遠鏡が伸びるように筒状の区画へと発展し、外側の細胞が筒の外周(幹細胞領域)へ、内側の細胞が内部へと配置されるという「テレスコープモデル」を提唱した。現在はこのモデルを支える分子機構、特に上皮細胞と周囲の間充織細胞との相互作用(Epithelial-Mesenchymal Interaction)の時空間的な実態を解明するために、胎児期から出生後までの10段階にわたる全皮膚細胞のscRNA-seqと、空間的遺伝子発現解析(Xenium)を統合したマルチオミクス解析を進めている。これにより、上皮基底層と隣接する間充織の間で交わされるシグナル(FGF9など)を同定し、幹細胞領域特異的なコミュニケーションの存在を明らかにした。ライブイメージングにおける細胞の追跡と擬似カラー表示の手法や、出生後の皮膚は不透明化するためイメージングは胎児期に限られるという技術的制約、さらにはXenium解析において既存のパネルだけでは不十分であり、scRNA-seqデータに基づいて独自に約100遺伝子を追加したカスタムパネルを作成することが解析の鍵であったことなどが議論された。
今回は、これまでの研究とは異なる新たなテーマで初めてポスター発表を行った。テーマの変更に伴い聴衆の層も大きく変化し、従来は企業関係者が多かったのに対し、今回はアカデミアの学生・研究者が大半を占めた。その中で、海外からの参加者がポスターを訪れてくださる場面があったが、英語での発表準備が不足していたため、十分にディスカッションを深めることができなかったことが悔やまれる。研究テーマの転換だけでなく、国際的な発信力も課題であると痛感したため、今後は英語での質疑応答も想定した準備とトレーニングを日頃から積み重ねていきたい。
この度、2025年12月3日から5日まで神奈川県横浜市で開催された第48回日本分子生物学会年会に参加してきたので、その感想を共有する。分子生物学会への参加は、2年前に神戸で開催された年会に学部4年生として参加して以来、2回目となる。当時の私は、分子生物学という学問領域の広範さと深さに圧倒され、「何がわからないのかがわからない」という状態であったことを覚えている。しかし、学部5年の1年を経て博士課程に進学し、研究室での勉強会や日々の論文抄読を通じて基礎知識を蓄積してきたこと、そして何より今年に入ってからは自ら細胞を用いたウェット実験を行うようになったことで、今回は以前とは全く異なる理解度・俯瞰度で学会に参加することができた。
例えば、自身が研究対象としているクマムシに関する研究発表については、背景知識が増したことで、単なる聴講にとどまらず、演者と深いディスカッションを行うことができた。また、その他の分野においても、各領域の存在意義や概要を朧げながらも体系的に理解できるようになっており、自身の成長を実感する機会ともなった。今回の学会では、特定の分子やシグナル伝達をはじめとして、物理的な刺激がいかにして遺伝子発現を制御するかという「メカノバイオロジー」や、現在の遺伝子改変技術のゴールドスタンダードであるCRISPR/Casシステムの最新動向に関するセッションにおいて個人的に興味深い発表を聴講し、多くの知見を得ることができた。
現在、私は細胞実験を主軸に据えた新たな研究テーマの立ち上げを模索している段階である。そのため、今回の学会参加の目的は、従来の純粋なサイエンスの楽しみや発表技術の習得に加え、「自分の研究に直結する知見やヒントを持ち帰る」という点も重視していた。これまでの学会参加では、自分の専門外の分野であっても面白そうな話を広く浅く聞くというスタイルが主であったが、今回はそれに加え明確な目的意識を持って関連するセッションやポスターを回った。その結果、自分が知らなかった実験手法や最新の知見に触れることで、自身の研究に対する新たな仮説を立てることができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。
また、学会の醍醐味の一つであるポスターセッションにおいても、大きな収穫があった。分子生物学会は1日に約1000枚、3日間で合計3000枚近くのポスターが掲示される巨大な学会であり、多様なデザインやレイアウトを一度に比較検討できる絶好の機会である。私はいつも、どの学会でも可能な限り多く(全て)のポスターを短時間で眺めるようにしているが、今回、数多くのポスターを巡る中で、自分なりに納得のいくポスターデザインの一つの解に辿り着いたような感覚を得た。もちろん、研究テーマやデータの性質によって最適な配置は異なるため、絶対的な正解が存在するわけではない。しかし、立ち止まって読みたくなるポスター、短い時間で要点が伝わるポスターには共通した法則があることに気づいた。例えば、遠くからでも結論が一目でわかるようなタイトルの大きさや配色、イントロダクションと結果のサマリーのイラストと簡潔な説明文、そして聴衆の視線の動きを計算した情報の強弱などである。膨大な数のポスターという「実例」を浴びるように見ることで得られたこの感覚を次回のポスター発表で実践することが楽しみである。
また、私自身も今回の学会でポスター発表を行う機会をいただいた。発表内容は学部時代から継続してきた研究テーマに関するものであり、このテーマに関してはこれまで5回以上の発表を重ねてきた。今回はその集大成のつもりでポスターを作成して臨んだが、実際に掲示して発表してみると、デザインの面でも、また口頭での説明の面でも、まだまだ改善の余地があることを痛感させられた。それでも、発表時間中は絶え間なく聴講者が訪れてくださり、かなり深い議論を交わすことができたことは大変ありがたい経験であった。特に印象的だったのは、自分が解析に使用していたデータの先行研究の筆頭著者の方がポスターを見に来てくださったことである。論文の向こう側の存在であった研究者と直接議論できたことは非常に感慨深く、学会発表してよかったと思える瞬間であった。また、余談ではあるが、本学の歯学科の2年生は全員が分子生物学会に参加しているとのことで、後輩が熱心にメモを取りながら聞きに来てくれたことにも驚かされると同時に、大きな刺激を受けた。このテーマでの数多くの発表経験を踏まえ、相手に伝わるプレゼンテーションとは何かを深く考えることができた。この経験を糧に、次以降のテーマについても、より多くの人に研究の面白さが伝わる発表を心がけていきたい。
今年に入り、数多くの学会や研究会に参加させていただいたが、その中でも分子生物学会は、開催時期や規模、そして私自身の所属する研究室における位置付けという意味でも、一年の締めくくりとなる「総本山」のような感覚がある。特に今回は幅広いサイエンスに触れる場であると同時に、普段はオンライン上でディスカッションしている共同研究者や他大学の学生と対面で交流を深める貴重な場でもあった。来年の分子生物学会を一つの目標として、今年度及び来年度も研究活動により一層邁進していく所存である。
