修士課程を検討されている方へ2つのお願い
清水は学生さんの長期的なキャリアパスを考えており、ぜひ大学院を卒業後に社会で活躍してほしいと願っています。そのためには他の人では代わりができない、希少価値の高いスキルや経験を身につける必要があります。そこで、これまで大学で生命科学か情報科学のいずれか一方のみ(あるいは両者とも異なる分野)を学んできたという方には2つのお願いをしています。生命科学も情報科学も両方ともに専門的な知識を持っているという方には以下のお願いは当てはまりませんが、そうでない方はお読みください。
お願い1: 新たな領域に飛び込むのに実質1年しかないと中途半端になりますので、博士課程への進学を選択肢に入れて下さい
清水研で修士をとって、その後は製薬企業に就職して研究したいという方からしばしば連絡をいただきます。率直に申し上げてそれはかなり難しいですので、私は受け入れをお断りすることも多いです (修士卒で製薬の研究開発とは関係ない部門に行くことは可能です)。「石の上にも三年」というように、学部~修士で丸3年以上所属していれば修士卒で製薬企業の研究開発職も可能だと思いますが、修士から来たらトレーニングの時間が圧倒的に足りないのが現実でしょう。就活は1年生の秋とか冬とかに始めるものですから、新しく清水研に来て半年ちょっとでもう就活して製薬の研究開発職にというのはさすがに無理があります。
それに、バイオ・製薬・AI界隈においては大企業の研究部門は博士号取得者を欲しており、修士卒で研究職として就職できたとしても今のみなさんがご存知でない企業になるでしょう。中小の企業は体力的な問題で、入社時は研究部門でも人事異動で研究とは関係ない部署に配置換えになることもあるでしょうし、むしろ修士卒の人にはそういう働き方を企業側は望んでいます。みなさんがご存知のCMとかをよくやっている大企業はそもそも博士号をもった人たちがたくさん応募してきますからなかなか修士のみで対等に渡り合うのは難しいのではないかと思います。
今は製薬企業の例を出しましたが、他の業種でも修士卒で就職をする場合には1年目の早い時期から就職活動をスタートするのが一般的ですが、就活と並行して修士課程の2年間で新たな分野を一から学び、研究を行い、専門家としての経験を積むことは簡単ではありません。学部時代に専攻してきた学問の延長 (卒研と同じ研究室等) なら修士課程の間に専門性を高めキャリアアップにつなげることができますが、新たな分野を0から勉強したいのですよね? 医科学と情報学のダブルメジャー の稀有な人材となるには就活を差し引いて実質1年では短すぎます (たった50週しかありません)。長期的なキャリア形成を考える上では、短い期間で中途半端に学んでもそれほど大きな自己投資効果はありません。「1万時間の法則」というのがあるように、何事もプロになるにはそのくらいの時間をさく必要がありますが、修士課程の2年 (実質1年) では時間の観点からもまずこの水準に届かないことは明白でしょう。
文部科学省が実施する令和4年の学校基本調査によれば、修士卒で就職した54,687人のうち「研究者」になったのは2,914人 (6.7%、ただし大学の研究者は441人なので、多くはベンチャー企業も含む中小の企業研究者)です。一方で同じ調査の博士号取得者を見ると、10,977人の修了者のうちおよそ半数が研究者になっています (かつその半数はアカデミア研究者)し、90%の方は何らかの「専門的・技術的職業従事者」として活躍しています。博士進学を迷う必要はない理由(パスワードはphd) も合わせてご覧ください。
このような考え・データから、私たちのもとで修士号をとろうと考えている方にはぜひ博士課程への進学を視野に入れることをオススメしています。修士2年 + 博士4年 (早期修了の場合は3年)の実質5年あれば1万時間の到達は容易であり、情報科学 x 医療 x 生命科学の複合領域において卓越した見識とスキルを兼ね備えることができます。高度な技術を持つデータサイエンティストは各方面から引く手あまたであり、更にその上で医療やライフサイエンスにも明るい方はほとんどいません。博士号をとれば、ポスドクとして来てほしい、あるいは製薬会社などから研究職で来てほしいという声は遠からずかかるでしょう。実際、私のところにもみなさんが知っているであろう大手製薬会社やIT企業さんから学生を紹介してほしいという問い合わせが来ていますが、それは修士ではなく博士人材の問い合わせです。大企業の研究職は博士号取得者を求めているのです。
誤解していただきたくないのは、視野に入れることをオススメしているだけですので修士課程を卒業して就職することもできます (研究開発ではない職種だと思います)。しかしQ2とも関係しますが少なくともM1の一定の期間は博士課程に行くつもりで猛烈に学業に専念していただきたいと思っています。アカデミア研究者を目指して本気で取り組まなければ中途半端な専門性しかもたない代わりが効く大衆人材になってしまいます。
もちろん、博士課程にいくと金銭的な面が心配というのはとても理解できますので、私たちの研究室では、最初の2年強で筆頭著者として複数の学会発表および論文発表ができるよう指導しています。これらの業績があれば博士課程学生向けに奨励金と研究費を支援する日本学術振興会特別研究員(DC)にかなり高い確率で採択され、金銭的な面をあまり心配せず博士課程において研究活動に専念し業績を量産して次の海外留学等につなげることができます。
そのために、私たちの研究室では学部生のプロジェクトセメスターやオンライン研究制度など、とても意欲的な外部の学部生さんが集まる仕掛けをしています。設立わずか1年で10人程度の学生さんが来たので、単純計算では修士の2年の間に20名の新たな学生さんがやってくるでしょう。そうした優秀で論文を書きたい外部の学部生さんとも一緒に取り組むことで、修士の2年間にも多くの共著論文を投稿することができ、それは次のキャリアに向けた大きな実績となるでしょう。
また、各種大学院教育プログラム・人材育成プロジェクトへの応募を積極的に推奨していますし当研究室独自のTA/RA制度もあります。さらに、博士課程への進学時には大学院入試の筆記試験や入学金が免除になるという特典もあります。多領域に精通するスペシャリストを養成する清水研の博士課程プログラムは学術界・産業界から大いに注目されています。
もちろん修士で就職する場合に比べて博士課程は学生なのでDCをとっても20代後半のうちは収入が少なくなりますが、今は人生100年時代です。今のうちに自分の可能性にしっかり投資をすることで、中長期スパンでは投資を十二分に回収できるでしょう。
お願い2: 学会デビューする修士1年の12月までに不在にするかもしれないならば、大学院出願前に申告してください
当分野の受け入れ条件の1は「将来的に博士号取得・ポスドク等を経て学術/産業/医療界でのPrincipal Investigator (教授・研究部長等)を本気で目指している方」です。みなさんの学会デビューは1年目の12月を予定していますし、デビューをお祝いして参加費や旅費の全額を研究室予算から出しますが、入学から12月までの間は特に集中的な自己投資が必要です。この期間に、例えばアルバイトをしたいとか、インターンに行きたいとか理由を問わず不在にする可能性がある場合には (大学院面談の前に)あらかじめ申告してください 。
そういうところにいかずに「Principal Investigator (教授・研究部長等)を本気で目指している」他の修士課程の大学院生と同等のレベルに到達できるのかをこれまでの専門領域や実績等から判断させていただき、新しい領域を0から勉強する最初の1年足らずでちらほら休んでいては明らかに力不足だと思われる場合には当研究室での受け入れはできません。学部生時代に研究論文を書いたとかデータサイエンスの大会であるKaggleで好成績を残したとかなどの実績がある方、日本のトップ大学出身で人よりも学問を速く修得できる可能性がある等の方はアドバンテージがあるわけですが、そうでない方の場合にはご期待に沿いかねる場合もあります。このように受け入れを許可できない方もいらっしゃるわけですので、出願前に申告していなかったのに入学後の12月までの期間にそういうところに行くというのは公平性の観点から認められません。予めご了承ください。
清水研のホームページを熟読している方にはまずいらっしゃらないと思いますが、単に修士号が就活に有利だから通うという学生さんが読んでいるとしたらぜひ1年目の4月から就活をさせてもらえるラボに行ってください。わざわざ清水研を選ぶメリットは何もありません。とてもありがたいことに東京医科歯科大学は人気国立大学の1つですが、その中で清水研は最も成長率が大きいラボになっていますし清水は大学の重点研究者として指名されていますので、私のマインドはアカデミアで活躍する研究者を育てることにフォーカスされています。こちらにも書きましたが大学院においてボスと違う価値観だと学生であるみなさんが苦労します。もちろんいろいろやり切ってそのうえで自分の適正を考えて研究者を目指すのではなく修士で卒業して就職したいというのは1つの選択肢だと思いますが、基本は研究職を目指すという以上、修士で入学する方は博士にも進学するものだと我々は思っていますし、そのつもりで少し挑戦的なテーマ (成功すれば大きいが、時間もかかるテーマ) にも取り組んでいただく予定です。こちらに書いたようにサイエンス以外のことで大学院生にunhappyになってほしくありませんので、修士をとって就職するつもりで1年目の早期から就活をしたいという学生さんは、死ぬ気でアカデミア研究者を目指して自分の可能性に挑戦したいという他の学生さんに席をお譲りいただけると幸いです。
修士出願前に知っておいていただきたいこと
これはお願いではなく、当研究室の研究テーマ設定についての方針についてです。博士課程に最初から進学する、就活はしないという方が当研究室では多く、彼らにはマイプロジェクトも含めやりたいことに近い内容の研究テーマに修士の最初から取り組んでもらっています。しかしそうではない場合 (=修士卒で就職をするつもり、あるいは迷っている)、我々はみなさんが修士卒までの期間にまとめあげることができそうな研究テーマを用意します。裏を返せば、その内容は必ずしも皆さんの希望に沿ったものではないかもしれません。
修士1年で入学した時点で残り2年です。就活は1年秋くらいから2年の夏前くらいまで、1年近くかかるわけですから、実質の研究期間は1年です。入学時点から卓越した生命医科学や情報科学に関する専門性をお持ちでない限り、入門から1年で何か新しいプロジェクトを始動してかつ成果を出して論文発表というのは難しいのは想像に難くないでしょう。やりたいことを研究していただいても、成果としてまとめられず、かつそのテーマに興味を持つ後輩がいないので引き継ぐ人がいないままお蔵入りというのはみなさんにとっても損失です。ですから、研究期間が2年以上ある方 (=博士課程へ進学するので就活はしない方) を除いて、修士課程の方にはもちろん希望はお聞きしますがそれとは全く異なる研究テーマを担当していただく可能性もあります。つまり1年でまとめられそうな小テーマ、or 先輩の修士学生の引き継ぎテーマ or 新規テーマだがラボとして今後力を入れていきたいテーマなので引き継ぐ人は心配しなくていいものということです。清水研では研究に携わった証として修士で在籍していた方みなさんがそれぞれ英文学術論文の著者の1人として後世に名を残せるよう戦略的にテーマ決めを行っていますので、2年で卒業する可能性のある (=研究期間が短い) 方については希望に沿いかねることもあること予めご了承ください。
もちろん、入学してから博士へ進学することにしたという方についてはその時点で博士課程の期間も見据えてよりご希望に近い、そしてより大きなテーマにも取り組んでいただくことになります。