Science Tokyo (MD) SPRINGリトリート2025 参加レポート

2025年11月5日から3日間の日程で静岡県浜松市にて開催されたScience Tokyo SPRINT (MD) Retreat 2025研究成果報告会(以下、リトリート)に参加し、その内容を報告する。本リトリートは、医歯学系のScience Tokyo SPRINGに採択されている学生が集まって行われるもので、本年は医歯学系SPRING生106名に加え、理工学系のSPRING生10名、自治医科大学のSPRING生2名も参加し、分野を超えた広範な交流の場となった。プログラムは意外とぎっしりと組まれ、朝9時から夕方までは複数の先生方の講演やポスター発表などが行われた。夜は懇親会やナイトセッションと称される、開けっぱなしの会場で自由に交流する時間が設けられ、こちらは終了時間がなく、日付が変わる前後まで色んな研究室の学生と交流することができた。
 
リトリートを通して触れることができた医歯学系の研究の守備範囲は非常に広く、我々が参加している中で一番大きい学会である分子生物学会よりも広い。実際、参加者の半分は歯学に関わる内容であり、その中でも細かい分類がなされている。さらには、看護学など私個人としては普段触れることのない研究内容も含まれた。さらに今回は理工系の参加者もいたため、その広がりは一層顕著である。理工系の学生が発表していたのは、必ずしも医歯学系の学生がやっているような生命科学系の研究ではなく、半導体の素材に関する研究や、日本刀の作成方法に関する技術継承がどのように行われてきたかを定量的に調べる研究などがあった。正直、ほとんど理解することはできなかったが、異分野の視点やアプローチを知る上で大きな刺激となった。研究内容だけではなく、ポスターの作り方についても議論する機会があった。というのも、理工系のある分野ではほとんど文字を書かずに絵でポスターを作成するのが一般的であり、彼らにとっては医歯学系のポスターは文字が多すぎるとのことだ。改めて自分のポスターを見ると確かに文字が多く、おかげで全体的にポスターが黒い。異分野の視点は必ずしも研究や知識そのものだけではなく、スライドやポスターの見せ方についても勉強になる機会であると感じた。
 
今回のリトリートは参加者同志の交流だけではなく、先生をお呼びして1時間程度の講演が複数回プログラムされていた。これらの講演は学会などで聞く先生方の研究自体の話というよりかは、どうして研究の道に入ってきたのか、研究の心構えや描くビジョンについてお話しいただいた。総合研究院ヒト生物学研究ユニットの教授である武部貴則先生が講演者の先生の1人として講演いただいた。印象に残っているお話としては、行っている研究の性質とそれに基づいた研究体制や姿勢に関する内容だ。その際にアメリカの実業家である久能祐子先生の「Leap to Invent, Crawl to Innovate」という言葉を借りて、研究に対する姿勢のお話をしてくださった。同じ研究でもその性質が異なればそれに対する姿勢を変える必要があるということを改めて認識した。さらに、「Small teams disrupt, whereas large teams develop」という話もしていただいた。この言葉の良い例としてiPS細胞研究の話をあげていた。iPS細胞の発見自体は非常に少人数で行われている一方で、網膜への応用に関する研究は30人以上の大規模なチームで行われている。というのも革新的発見は小回りのきく少人数で行う方が研究が遂行しやすい。一方で、医療応用などでは研究や技術に見落としがあってはならない。そこで様々な専門家による大規模なチームを編成することで、それぞれの視点を持って多角的に事象を検討し合うことで抜け目のない研究を行うことで技術の普及につながる。チーム編成自体も研究の性質によって変えていく必要があるというこれまで全く持ち合わせていなかった視点を得ることができた。
 
SPRING事業は、SPRING生同士の共同研究を重要視しており、今回の報告会でも、何年か前のリトリートに端を発した共同研究に関する報告が複数行われた。また、今回は急遽、自身の研究を全員の前で発表する「研究・技術発表」の時間が設けられた。事前登録者数が少なく、その場で飛び込みの参加を募集していたため、ちょうど学会発表用のスライドを準備していた私は発表に参加した。原稿を作ったりしていたわけではないので、かなり辿々しい発表ではあったが、このような機会が設けられているのもSPRINGリトリートの良いところだと感じた。この発表のおかげですぐさま共同研究につながるとは思えないが、これが将来的に何かしらの連携や新たな研究のきっかけになればと考える。
 
リトリートのプログラムは、一部の講義を除いてポスター発表も含め、ほとんど英語で行われた。懇親会の際に聞いた運営の先生の話によると、去年までは日本語で活動を行うグループと英語で活動を行うグループに完全に分かれていたが、今年は各グループに日本語をほとんど話すことのできない留学生が入っており、強制的に公用語が英語になる仕様になっている。そのため研究の話以外の事務的な会話も英語で行う必要がある。その際に、ちょっと何かを言いたい時に、スッと適した英語が出てこないのは今後の大きな課題だと痛感した。一方でそのようなグループ分けのおかげで、中国からの留学生ともじっくり話す機会を得ることができた。中国と日本の研究の違いや中国における臨床 (その方は歯医者さん) の実態、研究以外のことなど実際に体験している学生から聞くことができた。話の流れで「ストレスってどう?」という議題になった時、意外にも (その方だけかもしれないが) 留学先である日本の方が言語の壁があるのにも関わらず、はるかにストレスが少ないそうだ。私自身勝手に留学はものすごい負荷がかかることだと思っていたのだが、実はそうではないのかもしれないと感じた。
 
総じて、本リトリートは非常に有意義な会であった。というのも、基本的にほとんどの参加者は知り合いがいないため、皆がどうにかして知り合いを作ろうとする意識を持っており、お互いに積極的に話しかけに行っても全く不自然ではなかった。すでにグループが出来上がっていて入りづらいといったことも少なかったため、密度の濃い交流が可能であった。
また、幅広い分野の研究に触れることができたが、広く浅くは知っていても、込み入った内容になるとぼんやりとしか話しができなくなるという現状も認識した。もっと勉強が必要だと感じるなど、研究者としての更なる成長に向けた強い刺激を受けることができた。今回の経験を活かし、自身の研究を深化させるとともに、異分野との連携にも積極的に取り組んでいく。
博士課程1年・大谷 悠喜

この度、2025年11月5日から7日まで静岡県浜松市で開催されたScience Tokyo SPRING (MD) リトリート2025に参加してきたので、その感想を共有する。本イベントは、科学技術振興機構Invention (JST)の次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)の支援を受けている本学の医歯学系学生が集まるイベントであり、今回が初めての参加であった。

諸事情により初日の到着が遅れ、実質的に2日、正味1日半という限られた時間での参加であった。その中で最も印象に残っているのが、2日目の朝一番に行われた武部貴則先生の講演である。武部先生は横浜市立大学を卒業後、31歳の若さで本学を含む複数の機関の教授を務め、現在もアメリカと日本に拠点を持ちながらオルガノイド研究の最前線で活躍する研究者である。また、「腸呼吸」の研究で2021年にイグノーベル賞を受賞されたことでも広く知られている。講演のタイトルは「跳ぶように発見、這うように証明」であった。先生は、iPS細胞から肝臓の機能的多層構造(Zonation)を再現した「多層肝臓オルガノイド」の開発や、それらのオルガノイドを人工いくらに着想を得て作られた膜で包んだ用いた体外循環治療システム「人工肝臓装置(UTOpiA)」といったオルガノイド研究の最新の知見を紹介しつつ、我々博士課程の学生に向けたキャリアに関する多様なアドバイスを織り交ぜて紹介してくださった。アカデミックな最先端の研究内容と、学生を鼓舞する哲学的なメッセージ、その両者のバランス感覚と聴衆を引き込む発表の構成力に、冒頭から圧倒された。講演タイトルは、実業家の久能祐子氏との対話の中で得た「Leap to Invent, Crawl to Innovate」という言葉に由来するという。先生は、この「Invention(発見・発明)」と「Innovation(革新・革命)」の違いを、自身の経験を交えながら解説された。Inventionとは、”curiosity” や “seeds-driven” で行われるartisticな営みであり、一方innovationは、それを「社会に役にたつ」形にまで昇華させるプロセスである。先生はinventionは少人数で一気呵成に取り組み、innovationは大人数で強調して取り組むことが成功の秘訣であると述べられていた。武部先生は、ご自身のスタンスとして「研究者としてinventを大事にしている」と強調しており、社会に広く認知される以上の喜びを、自分の中に見出せるようにしてほしいというメッセージが印象に残っている。

実は、私が医学科1年生の時の授業で武部先生の講義を聴き、その内容と熱意に深く感銘を受け、講義後に個別にお話を聞かせていただいたという経緯があった。当時の私は、臨床医を志し医学科に進学したが、入学後に基礎研究医の存在や研究の面白さを知り、その両者の間でキャリアを模索し始めたばかりであった。それらの経験を通じて博士課程へ進学した今、再び武部先生の話を、今度は博士学生という立場で聴くことができたのは、大変感慨深いものであった。今回の講演の中で武部先生は、ご自身も元々臨床医を志して医学科へ進学した経緯と、現在臨床を行なっていないことに少し後悔しているという気持ちを語られていた。私は、まさにその点について伺いたいと思い、講演後に質問する機会を得た。先生は臨床現場にはいつでも戻りたいと思ってくるくらいだと述べつつも、そうしていないのは、それ以上に今の研究が面白いと考えているからであるとおっしゃっていた。また、キャリア選択に関して、周りの人に影響されるようなキャリアじゃなければうまくいかないというアドバイスや、学部時代は周囲とは違うことをしたいという反骨心から研究を続けていた経緯に触れつつも、最終的にはcuriosity-drivenでなければ続かないという話をしてくださった。これらの言葉は、武部先生と同じように医学部進学後に研究の魅力に惹かれた自分にとって、大いに参考になるものであった。臨床と研究、その両者をやりがいのある素晴らしい仕事と捉えた上で、自らのキャリアを選択されている武部先生は、私にとっての重要なメンターの一人であると改めて実感した。

今回のリトリートでは、武部先生の講演以外にも、多くの貴重な経験があった。本イベントは医歯学系の学生の集まりであり、臨床的な研究を行う大学院生も多かったが、一方で医学や歯学ではない学科出身で、基礎的な研究を行なっている学生も多く参加していた。幸いにも、そうした基礎系の学生何人かと仲良くなることができた。彼らと話す中で痛感したのは、細胞や実験動物を扱うウェット実験の経験に関する、自身との大きなギャップである。私自身、所属する研究室の勉強会を通じてウェット実験の知識は学んできたし、これまでの研究室活動・研究プロジェクトでも、一通りの実験操作は体験してきた。それでもなお、研究時間の多くをウェット実験に割き、それを専門とする彼らとは、同じデータを見てもその解釈や、背景の実験の労力を見積る能力が決定的に違うと感じた。今後、自分もウェット実験をメインにするテーマに取り組みたいと強く考えている。次の機会には、彼らと同じような感覚を少しでも身につけた上で再びディスカッションしたいと考えている。

今回のリトリートは、自分の博士課程における研究とその後のキャリアについて、武部先生というメンターの言葉と、同世代のウェット研究者たちという仲間からの刺激という二つの側面から、深く考える上で大変有意義な回であった。また、懇親会やナイトセッションでは多くの学生と大変楽しく交流することができた。このような貴重な機会を提供してくださった先生方、並びに本学学務の方々に、この場を借りて深く感謝申し上げる。

博士課程1年・伊東 巧