潜在空間分子設計2026領域会議 参加報告

この度、2026年5月28日・29日に九州大学・西新プラザで開催された「潜在空間分子設計・第4回公開シンポジウム」に参加しました。清水先生が学術変革領域研究(A)の公募班で採択されていたご縁もあり、(公開シンポジウムとしての参加は初めてであるものの)自分にとっては2度目の領域会議への参加となりました。今回のシンポジウム参加を通して得られた学びを共有させていただきます。

本シンポジウムでは「化合物潜在空間」をキーワードに、分野横断的な3つの研究班(生物活性評価班・情報科学班・有機合成班)がそれぞれの最新の研究成果を共有し、議論を行いました。1日目の午後に各班の発表と懇親会、2日目の午前にはポスターセッションが行われました。

昨年のリトリートに参加した際には、自身の専門領域とは異なる生物活性評価班や有機合成班の高度な研究内容に圧倒される部分も多くありました。しかし2回目となる今回の参加では、各班の役割や領域全体の目指す方向性への理解が深まっていたこともあり、「化合物潜在空間の構築」という共通目標に向けて、それぞれの研究成果がどのように結びついているのかをより俯瞰的な視点から拝聴することができたと感じています。

本シンポジウムでも秘密保持契約が結ばれていたため、未発表データを含む個別の研究内容についての詳細な言及は差し控えますが、特別講演の砂塚敏明先生(北里大学学長)のご講演で、ご出身の大村研究室でのエピソードやそこで見出されてきたイベルメクチンをはじめとする天然物化学と有機化学をつなぐお話を伺うことができたことは大変印象に残っています。

最後に自分のポスター発表について述べたいと思います。昨年のリトリートでは複数のモダリティを組み合わせた知識グラフの構築について発表いたしましたが、今回のシンポジウムはその知識グラフを組み込んだAIエージェントの構築まで発展させた内容を発表いたしました。

AIエージェントという近年のトレンド技術を用いていることもあり、情報科学班のみならず生物活性評価班や有機合成班の方々にも興味を持ってポスターを見ていただけたと感じています。特に、情報科学班の方からはローカルLLMへの発展や展開について多くのご意見やアドバイスをいただき、今後の研究を進めていく上で大変参考になりました。

また今後への展開として、AIエージェントで見出された化合物と標的タンパク質が結合するのかどうかについての実証試験を行いたいと考えていた折、北海道大学の野村先生からカイネティクス測定に関する貴重なアドバイスをいただくことができました。現在、タンパク質を精製していてうまくいかない点もあったのですが、第一線で相互作用解析を行っておられる先生から直接コメントいただけたことは非常に有意義な経験となりました。

ポスターセッション全体を通して見ると、この1年間で領域全体、特に情報科学と実験科学の連携が着実に進んでいる様子を目の当たりにすることができ、大変刺激を受けました。

この度は、このような貴重な機会とご支援をいただきまして、改めて感謝申し上げます。

博士課程2年・鈴木 崇英

2026年5月28, 29日に福岡・博多で行われた「潜在空間分子設計」第4回公開シンポジウムに参加させていただいた。本学術変革領域は、ケミカルバイオロジー・情報科学・有機化学合成からなる3つの班が互いに共同して、「天然物が織りなす化合物潜在空間」を効果的に探索し、創薬などに活用していくことを目標としている。ケミカルバイオロジー班の発表では、機械学習に利用可能なデータの取得を目指して、高品質かつハイスループットなデータを取得することを目指した研究が多く、情報科学との融合を念頭に置いたアッセイ系の確立が潮流となっていることを身をもって感じた。また、有機合成班の研究は天然物空間をいかに拡張していくかという取り組みが多く、困難な合成に挑まれているのを見て純粋に驚くとともに、いかに複雑な構造の化合物およびその合成経路を情報科学的に捉えるかを考えさせられる良い機会となった。ポスターセッションでは、天然物の合成や探索からAI創薬、計算化学、スクリーニングまで、幅広い分野の研究について多様な話を聞くことができ、大変良い機会となった。

アッセイにより取得したデータから、情報科学的に化合物空間を探索して新たな候補を生み出し、新規化合物を合成して再びアッセイに繋げるというサイクルを確立する試みのなかで、各領域の融合が進むさまを見聞きするとともに、領域融合の難しさも体感する機会となった。課題として感じたことは、まず、「情報科学的に提案された化合物の合成が困難・不可能なことが往々にしてある」ということである。特に天然物様の構造となると複雑な修飾が多く、少しの構造の違いで合成困難性が大きく変動するということはよくあると思われる。もう一つは、「天然物合成が完全に純粋な有機合成化学となってしまい、共同研究になかなか繋がりづらい」という点である。たしかに、天然物合成は一つの化合物の合成に数十ステップを要し、なかなかそれ以外の手段がないようにも思うので難しいところではあると思われる。これらの課題については、それぞれの領域間の歩み寄りがより一層求められている部分であると強く感じた。お互いに聞きなれない専門用語が多くある中であっても、丁寧に対話を重ねる中で共通の目的を持って共同研究を推進することができるかもしれない。また、シンポジウムの中では若手人材の育成についても強く強調されており、化学と情報の両方がわかる人材が今後ますます必要になることは間違いないと思われる。

個人的な話にはなるが、これまでケミカルバイオロジーの分野で研究を進めてきたなかで、直接お話ししたことはなかったものの、オンラインで講演をお聞きしたり、名前をお聞きしたりした先生がたと、今回直接お話しできる機会が多かったことは非常に刺激的であった。また、本学術変革領域が目指すところは自身の興味の方向性ととても近く、この分野に少しでも貢献できるような研究を推進していきたいというモチベーションがとても強くなった。化学をバックグラウンドに情報の分野に移ってきた身として、自分だからこそできることを求めてより一層研究に邁進していく所存である。特に、昨今は天然物の価値が再度見直されているような風潮を感じており、情報科学の観点から天然物化学領域における新たな発見を加速していくようなツール作りに取り組んでいきたい。今回、自身の発表はなかったが、次回以降は研究内容を発表し、領域研究者の方々と色々議論できることをモチベーションに普段の研究を進めていきたい。

最後になりますが、このような貴重な機会を頂きましたことを、関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

プロジェクト研究員・阿部 篤生

2026年5月28日から29日にかけて開催された学術変革領域研究(A)「天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン」の第4回シンポジウムに参加させていただきました。
本シンポジウムでは有機化学、生化学、情報科学などさまざまな分野の研究者が一堂に集まり、分野を超えた活発な議論が行われました。情報科学・計算化学の最先端の研究に触れるとともに、ケミカルバイオロジーやメディシナルケミストリー、有機合成化学など、普段の研究だけでは十分に触れられない分野についても学ぶことができました。この機会は情報科学の研究を行う私にとって、自分の研究の位置づけや応用可能性を改めて考える貴重な経験となりました。

口頭発表のセッションでは、各分野の最新の研究発表を聞くことができ、大変勉強になりました。A班・C班の先生方の発表では、実験系における課題設定から化合物の設計・合成・評価に至るまで、一連の研究の流れについて学ぶことができました。特に分野が異なる有機系のお話もわかりやすくご説明いただいたため、内容を理解することができました。また、B班の先生方の発表では、自身の研究分野と近い話題も多く、新たに学ぶことが多くありました。加えて、大学院生の方が有機合成を専門としつつ、計算機シミュレーションや実験による活性評価にも取り組まれている事例もあり、大変刺激を受けました。さらに、特別講演では、北里大学 学長の砂塚 敏明先生のお話を拝聴することができました。天然物研究が基礎研究から医薬品開発へとつながっていく過程について学び、天然物がリード化合物として持つ価値を改めて感じました。

ポスターセッションでは私自身も発表させていただきました。情報科学を専門とする先生からは、モデルの改良や評価の観点について有益なご意見をいただきました。また、実験系の先生方からは、実際の研究課題においてどのような情報や予測が求められるのかについてご意見を伺うことができ、大変貴重な機会となりました。分野の異なる先生方に対して自分の研究をわかりやすく説明することの難しさを改めて感じましたが、同時に、実際に使っていただけるモデルにするためにはどのような情報を出力し、どのように説明すべきかを考える良い機会となりました。

以上、本シンポジウムに参加させていただき、化合物潜在空間の構築・活用に関する情報科学的な研究だけでなく、その基盤となる化合物の創出や、生物活性評価の重要性についても多くのことを学ぶことができました。特に今回は異分野の共同研究事例を多く拝聴することができ、情報科学がより実際の研究課題に即した化合物生成・評価に貢献できるようになってきていると感じました。今回得られた知見と議論を活かし、異分野の研究者にも実際に使っていただけるようなモデルの開発・研究に取り組んでいきたいと考えています。このようなシンポジウムを開催していただいた先生方・関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

博士課程3年・佐久間 智也
2026年5月28日、29日の日程で九州大学西新プラザにおいて開催された学術変革領域A「潜在空間分子設計」(以下、「潜在空間」)の第4回シンポジウムに参加したので、その報告を行う。当該領域の具体的な説明については、過去に執筆した私の参加レポートや、ほかの参加者によるレポートに譲ることとする。清水研がこの領域に参加してから3年目となり、顔見知りの方もだいぶ増えてきた印象である。一方で、今回から新たに参加された方もおり、今後さらなるつながりの形成を目指したい。
 
最も印象に残ったのは、北里大学の砂塚先生による、天然化合物を起点とした創薬研究を概観する壮大な講演である。北里大学は、伝統的に天然化合物を中心とする創薬研究が盛んな大学である。近年では、大村智先生らによるアベルメクチンの発見と、その誘導体であるイベルメクチンの世界的な貢献が、ノーベル生理学・医学賞の受賞につながっている。大村先生は砂塚先生の師に当たり、そのような経緯のもと、「無尽蔵に可能性を秘めた大村天然物」と題してご講演いただいた。
 
天然化合物とは、微生物をはじめとする生物が産生する物質である。そのため、一般的な合成化合物ライブラリーに比べ、生物活性を示す分子が豊富に含まれている。また、複雑な構造を持つ天然化合物が、多様な生物活性を示すことも経験的に知られている。例えば、アベルメクチンと、その誘導体であるイベルメクチンは、寄生虫症の治療に大きく貢献してきた。さらに、抗腫瘍効果や抗ウイルス活性など、新たな作用の可能性についても研究が進められている。講演では、現在利用されている薬、すなわち医薬品、農薬、殺虫剤などの広義の意味での「薬」の約65%が、天然化合物をヒントとして作られていることが紹介された。
 
前述のとおり、これらの天然化合物の主な供給源は微生物である。しかし、講演によれば、地球上に存在する真菌や細菌のうち、人類が同定できているものはわずか7~8%にすぎないという。つまり、有用な天然化合物を産生する微生物の多くが、いまだ活用されないまま眠っている可能性がある。このような状況に対し、北里大学では現在も日本各地のさまざまな環境から微生物を収集・単離し、新たな天然化合物の探索を続けている。
 
また、天然化合物を臨床や産業で利用するための、壮大な化合物展開についても多くの事例をご紹介いただいた。その中で、活性分子を発見する基礎研究とは異なる観点から、研究を進める必要があることを改めて認識させられた。
 
特に印象に残ったのは、「活性をあと2倍強くできれば、製造コストを大幅に抑えられるため、より高い活性を持つ分子を粘り強く探索した」という事例である。私自身、コストや実用性という観点から創薬を捉えたことがなかったため、新たな視点を与えていただいたと感じている。
 
潜在空間のシンポジウムやリトリートでは、積極的にC班の先生方の研究を勉強させていただいている。というのも、私にとって最も理解が及んでいない領域だからである。これまで、多くの先生方にご教示いただきながら勉強してきた。その甲斐もあってか、今回のシンポジウムでは、これまでで最も抵抗なくC班の方々のお話を聞くことができたように感じる。前述した砂塚先生のご講演も、本領域の区分でいえばC班に属する内容だろう。
 
今回のポスター発表でご紹介いただいた研究内容についても、以前より理解できる部分が増えたと感じている。もちろん、かなり丁寧に教えていただいた部分もあるが、自分の中で研究の規模感や、具体的な数値が持つ意味をつかめるようになってきたからではないかと振り返っている。例えば、合成した化合物の収率がどの程度であれば望ましいのか、といった感覚である。そのような感覚をある程度持てるようになったことで、個々の研究のすごさや、研究者が抱えている課題を以前より理解できるようになったのではないかと考えている。研究現場の感覚や、同年代の学生が進めている研究について、一般的な学会よりも近い距離で話を聞くことができる点は、領域会議の魅力の一つではないだろうか。
 
最後に、自身のポスター発表について簡単に振り返りたい。今回のポスター発表は2日目に行われた。前日の講演ですでに清水先生が私の研究を紹介してくださっていたこともあり、今回は私の研究を目的として話を聞きに来てくださった先生方が多かったように感じる。そのため、普段よりも核心を突いた質問を数多くいただくことができた。このような場での質疑応答を一つひとつ振り返り、改善点を整理することが、より規模の大きな学会などでのスムーズな受け答えにつながると感じた。
 
今年度から2年間でさらにつながりを作れるよう継続的な参加をしていきたい。
博士課程2年・大谷 悠喜

この度、福岡で行われた学術変革領域「潜在空間分子設計」の領域会議に参加し、有機化学・分子生物学・情報科学が互いに接続しながら、新しい分子設計の枠組みを有機的に形作っていく過程を学ぶことができた。本領域では、AI による分子設計、有機合成化学による創薬、分子生物学実験検証という異なる専門性が一つの循環として機能しており、単一の分野だけでは到達しにくい研究を、領域全体として推進している点が非常に印象的であった。

1日目は各領域の先生方によるご講演が行われた。ここでは、特に印象的であった講演を2つ紹介する。

八代田先生のご講演では、酵母を用いたケミカルバイオロジー研究について、標的同定と阻害剤探索という二つの方向性から紹介された。詳細な手法には立ち入らないが、化合物が細胞に与える影響を多面的に捉え、その応答のパターンから作用機序や標的候補へと迫っていく考え方は、表現型を起点とした創薬研究の面白さやある種の粘り強さを感じさせるものであった。また、得られた知見をもとに、抗菌活性を示す化合物や、特定タンパク質に対する阻害剤の探索・展開へとつなげていく流れから、基礎的な解析と実用的な化合物創出が自然に結び付いていることを実感した。また、その過程で領域内の他の班の先生方と密に連携をとり、それぞれの専門分野を十二分に活かし、新たな研究課題に挑戦していく姿を感じられ、本会議における有機的なつながりを感じられた。

榊原先生のご講演では、AI によって生成される分子群を、天然物や合成ライブラリと同様、次世代の創薬リソースとして捉え直す視点が提示された。特に、化合物とタンパク質を別々に扱うのではなく、両者の関係性を含んだ共通の潜在表現空間の中で設計を進めるという発想は、まさに「潜在空間分子設計」という本領域の中心的な思想を体現しているように感じた。分子を単に生成するだけでなく、標的選択性や結合性、薬物らしさといった複数の条件を同時に考慮しながら探索していく方向性は、今後の分子設計において極めて重要になると考えられる。また、榊原先生の凄さを改めて感じたところは、in silicoの設計で留まらず、領域内の先生方と手を組んで実際に設計した分子を創薬して実験検証を行っていたところである。AI がどれほど高度な候補分子を提示しても、それを実際に合成し、評価可能な形にする技術がなければ研究は前に進まない。その意味で、情報科学と合成化学の密接な連携は、本領域の大きな強みであると感じた。

今回の領域会議1日目を通じて、分子設計研究は、既存データを用いた予測や生成にとどまらず、実験による検証、得られた結果の再学習、そして次の設計へとつなげる循環型の研究へ進化していることを強く実感した。私自身も、普段は AI を用いた生体高分子設計に取り組んでいるが、今回の講演を通じて、設計した分子をどのように実空間で評価し、どのように次の設計へ反映させるかという視点の重要性を再認識した。

2日目は領域内でポスター発表させていただく機会を得た。とてもありがたいことに、私のポスター発表は多くの人に聞いていただき、様々な議論を交わすことができた。特に、抗原-抗体の結合予測モデルの性能の高さやそのモデル設計について多くの方々からお褒めの言葉を頂けた。この経験は私の励みになり、もっと研究を洗練させ、日本の科学技術の進展により貢献したいという思いを強くすることができた。今回のポスター発表では、私の研究や得られた知見をもとに領域内の方々の専門領域とどうやって組み合わせてシナジーを発揮していくことができるかについて議論をすることは非常に楽しく、80分ほどもある発表時間だったが、あっという間に過ぎていった。また、様々な領域のポスターを拝聴する機会も頂け、私が現在進めているプロジェクトに関して共同研究をさせて頂けそうな人脈にも恵まれ、とても有意義で刺激的な時間となった。

本領域会議は大学院生である私にとっても、非常に学びと刺激のある素晴らしい場であった。本会議で得た知見と刺激を今後の研究に活かし、Wet と Dry の双方を意識した、より実効性のある分子設計研究を進めていきたい。最後になりますが、このような貴重な学びの機会を頂きましたことに、心より感謝申し上げます。

博士課程2年・藤原 嵩士