博士課程を希望する方へのエールに代えて

非常に高度な専門性を身につけ、博士号をとってキャリアアップにつなげたいと思ってこのページを見てくださっているのでしょう。興味を持っていただきありがとうございます。また、もしかしたら現在修士課程の学生さんで、博士課程として別の研究室に飛び込むのが不安な方もいらっしゃるでしょう。それはそうですが、アカデミア研究者のキャリア形成の鉄則にも書いた通り、博士号取得までに2つの研究室で過ごすのが大事なことです。勇気を持ってチャレンジしてほしいと思っています。

私たちは自由にサイエンスや研究に向き合うことができるアカデミア研究者に進んでほしいと願っていますが、もちろん医療にも企業研究者にも良いところがたくさんあることも知っています。それに正直なところアカデミア研究者を目指すよりも、医療現場で働いたり企業にサラリーマンとして勤めて研究開発の仕事をする方が特に若いうちは経済的に安定した生活を送れると思います。人生いろいろ、博士号取得後の進路は自由に進んでください

ただし、あえてエールに代えて厳しいことも言いますが、絶対に代わりが効く人材になってはいけません。正直なところ、昨今は学部生ですら優れた研究をし論文発表したりデータサイエンスの国際的な大会 (competition) でメダルをとっています。何を隠そう、私が主催するBiomedical Data Science Clubや学部生のオンライン研究チームにはそういった非常に優秀でレベルの高い学生がゴロゴロいます。すでに本学の博士号に値する研究業績をあげている人も複数いますし、有名企業から私宛にその会の学部生さんを紹介してほしいと連絡が来たことも何度もあります。

博士をとるということはそれだけ年を重ねるということであり、例えば企業で研究職を目指すということであれば私が主催する会で勉強し修士卒ですでに何年も経験を積んでいる人を相手にさらに研究実績や専門性で上回る必要があります。非常に卓越した専門性と圧倒的な研究実績を出さなければ、企業にとってわざわざ博士号を持つ30歳の人を採用するメリットはありません。

代わりが効かない博士人材になるためには、博士課程の4年間は非常にストイックに研究と勉学に打ち込む必要があります。博士号をとった後の理想のキャリアパスがどのようなものであっても、当研究室では研究実績が一番求められるアカデミア研究者を目指しているものとして厳しく (=熱心に、という意味でもあります) 教育します。世の大多数のラボは学生にしかるべき教育を施していませんし、「才能なきものは消え去るのみの社会だから自力で上がれないなら仕方ない」と考えているPIはゴロゴロいます。しかし当研究室では本気で学生を育てますアカデミア研究者を目指していないので、という言い訳は一切認めません。「人生で一番勉強したのは大学受験のときでした」なんていうのもありえません。当研究室の博士課程に入れば「受験勉強なんて今考えれば全然大したことなかった。人生で一番勉強したのは、間違いなく博士課程の4年間だった」となるはずです。我々は若いみなさんを受け入れる以上、その後の長い人生において各自が理想のキャリアを歩めるよう責任を持って教育をしますので、学生であるみなさんもそれに死ぬ気で応える責務があります。でも大丈夫、博士進学を迷う必要はない理由にも書いた通り、しっかり取り組み博士号をとったあとは前途洋々です。

私たちの研究室では学部生のプロジェクトセメスターオンライン研究制度、他大学の大学院生に向けたダブルメンター制度など、とても意欲的な外部の学生さんが集まる仕掛けをしています。設立わずか1年で10人程度の学生さんが来たので、単純計算では博士課程で在籍する4年の間に40名の新たな学生さんがやってくるでしょう。そうした優秀で論文を書きたい外部の学生さんとも一緒に取り組むことで、博士課程の間に共著論文量産体制を築くことができ、それは次のキャリアに向けた大きな実績となるでしょう

正しい方向を向いた厳しい教育付きの博士課程はエレベーターのようなものです。エレベーターの扉が閉まって動き出すと自分が今どこにいるのか分からなくなることもあるでしょうが、4年たって再び扉が開いたとき、もといた場所が全く見えないほどはるか上空に来ていることが分かるでしょう。

博士課程の学生として過ごすのはたった200週に過ぎません。その期間を必死に自己投資し、残る数十年の長い人生で理想のキャリアパスを送るのか、それともほとんど何も指導がない実力主義&放置系の他のラボで漫然と博士課程を過ごすのか、それとも今、何も挑戦しない人生を選択するのか。現在と未来はつながっています。未来の自分は、今の自分の選択がつくるのです。

ちょうど今、タイミングよくエレベーターが地上に到着したようです。もう答えは出ている気がしますが、どうしましょうか?