Pacifichem2025 参加報告
2025年12月15日から19日にかけて、米国ハワイ州ホノルルで開催された国際化学会議Pacifichem(International Chemical Congress of Pacific Basin Societies)に参加いたしました。本学会は環太平洋地域の化学系学会が5年に一度共催する大規模な国際会議であり、今回は化学、生命科学、材料科学など幅広い分野から世界中の研究者が集結していました。国際学会への参加は初めての経験であり、最先端の研究動向に触れるとともに、英語でのコミュニケーションの難しさと重要性を実感する貴重な機会となりました。以下に、私が参加したシンポジウム等の感想を記させていただきます。
私自身の研究テーマであるアプタマーに関する複数の講演に参加しました。まず、バイオセンサーとしてアプタマーを利用する講演が多くありました。構造変化型アプタマーと光ファイバープローブを組み合わせた光学バイオセンサーの開発(Adv. Mater. 2024)に関する講演では、従来の電気化学的アプローチとは異なり、一光子検出器を用いた光学測定によりバックグラウンド蛍光を最小化し、ドーパミンやグルコースをナノモル濃度でサブ秒の時間分解能で検出可能にしたという成果が報告されました。特に、抗精神病薬による副作用(2型糖尿病)のメカニズム解明を目指し、ドーパミンとグルコースを同時にリアルタイムモニタリングするという応用例は、基礎研究と臨床課題を直結させる優れた研究デザインであると感じました。電気化学アプタマーセンサーを用いた脳内薬物動態のリアルタイム・空間分解測定に関する講演では(PNAS 2017; ACS Sens. 2022)、バンコマイシンをモデル薬物として、脳損傷部位により薬物分布が大きく異なることが実証され、従来の脳組織ホモジネート法(ELISA)では見えなかった空間的不均一性が明らかにされました(ACS Pharmacol. Transl. Sci. 2025)。このように薬物のセンシングが可能になっていることに、大きな驚きを感じました。DNAアプタマー修飾ナノピペットの講演(Science 2018; ACS Meas. Au 2024)では、デバイ長の物理的限界を克服するため、構造変化型アプタマーをナノピペット内部に修飾し、イオン電流変化によりドーパミンやセロトニンをシナプス近傍でナノスケール検出する技術が紹介されました。脳組織スライス内での実測が可能な二重孔ナノピペットの開発も進んでおり、神経伝達物質の時空間動態解明への応用が目前に迫っていることを痛感しました。また、杉本先生の講演では、核酸の安定性が細胞内環境(分子クラウディング、イオン濃度、水の活量)により劇的に変化することが示され、希薄溶液で得られた従来の熱力学パラメータでは細胞内挙動を正確に予測できないという問題提起がなされました。細胞内環境を反映した新しいNearest-Neighborパラメータの確立(PNAS 2020; Nucleic Acids Res. 2023 等)により、アプタマーやアンチセンス核酸の設計精度が向上するという知見は、核酸医薬開発において極めて実用的であり、自身の研究にも直接応用できると感じました。また、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を標的として、段階的にアプタマーの親和性を向上させるという講演では、初期のナノモル親和性から、変異株対応の再選択、in vitro進化によるオミクロン株への100倍以上の親和性向上、さらに二量体ライブラリ設計によるサブナノモル親和性の達成まで、SELEXの進化形としてのアプローチが示されました(Nucleic Acids Res. 2021; Chem. Eur. J. 2022; Angew. Chem. Int. Ed. 2024; Small Methods 2025)。特に、単なる親和性向上だけでなく、変異耐性や協調的ドメイン挙動の獲得を目指す設計思想は、将来のパンデミック対応技術としての汎用性を示唆しており、非常に興味深い内容でした。共有結合型アプタマーを1ラウンドで取得できる画期的スクリーニング法「ARCaDia」(Chem. Commun. 2024)に関する講演では、従来の多ラウンドSELEXとは異なり、配列と共有結合位置を同時に1ラウンドで選抜できる点が革新的であり、ヒト血清存在下でも高い標的特異性を維持できるという実証結果は、創薬応用への実用性を強く感じさせるものでした。共有結合による滞留性および実効濃度の向上は、アプタマー医薬の発展において非常に重要であると感じました。今回のアプタマーに関する講演を通じて、アプタマー技術が単なる「分子認識ツール」を超え、センシング、治療、イメージングといった多様な応用領域で実用化段階に入りつつあることを実感しました。特に、光学センサー、電気化学センサー、ナノピペット、共有結合型アプタマーなど、それぞれの応用に最適化された技術開発が進んでおり、課題に対して適したアプローチを選択することが重要であることを学びました。自身の研究においても、標的やアプリケーションに応じて研究計画を柔軟に変えていく必要があると感じました。
また、学術変革Aの潜在空間分子設計に関わるシンポジウムの講演にも複数参加しました。まず、触媒設計と抗体最適化に関する同年代研究者による英語での口頭発表を拝聴し、非常に刺激を受けました。自分自身もこのように国際シンポジウムで発表できる研究成果と発表力を身につけたいと、改めて感じました。天然物ベースの複雑化合物設計に関する講演では、約1200種の天然物をライブラリとして用意し、グラム陰性菌の膜透過性や血液脳関門透過の化学的特性(eNTRy rules など)を解明することで、新規抗がん剤・抗菌薬の発見を目指す取り組みが紹介されました。製薬企業がこれまで失敗してきたグラム陰性菌への化合物透過・蓄積の問題に対し、機械学習を用いた大規模スクリーニングと実験検証を組み合わせることで解決を図るという点は、非常に画期的であると感じました。低体温誘導分子P57の発表では、PDXK(ピリドキサールキナーゼ)阻害を介したビタミンB6代謝調節により、マウスで低体温が誘導されるというメカニズムが示されました(Wang et al., Nat. Commun. 2023)。P57を体温調節神経回路解明のケミカルプローブとして用いる視点は、小分子創薬と神経科学を結びつける興味深いアプローチであると感じました。さらに、AI駆動型キナーゼ阻害剤開発に関する講演では、生成AIで新規骨格を設計し、仮想スクリーニングで候補を絞り込み、実際の合成と活性評価で有効性を実証するという一連の流れが紹介されました。生物活性とキナーゼ選択性予測機能をAIシステムに組み込んでいく方向性は、創薬プロセスの効率化におけるAIの役割の重要性を示していました。
また、今回はMDシュミレーションなどの計算科学に関する講演も複数拝聴しました。核膜孔複合体(NPC)の粗視化分子動力学シミュレーションに関する講演では、核輸送受容体であるKap中心モデル(Kap-centric model)について紹介されました(Nat. Commun. 2025)。従来モデルに対し、Kap自身が孔内で構造を形成し、他の受容体(NTF2 など)の輸送を制御するという仮説を、アミノ酸レベルの解像度を有する計算により検証する試みでした。イオン占有分布や輸送フラックスを定量化し、運び屋自身が「渋滞」や「道」を作るという物理的な仮説を提示した点は非常に印象的でした。脂質ラフトと全身麻酔に関する講演では、麻酔薬(キセノン)が脂質の整列ドメイン(IOD)を破壊し、PLD2酵素を放出するという物理化学的メカニズムがシミュレーションにより示されました(PNAS 2020)。また、自由エネルギー計算の精度向上に関する講演では、Bennett Acceptance Ratio(BAR)法を改良し、GPCRのような膜タンパク質系でも効率的なサンプリングを実現する手法が紹介されました。QM/MMドッキングで溶媒効果と配位子分極を考慮することで、従来の古典力場では不十分であった結合自由エネルギー計算と実験データとの相関を改善できることが示され、計算創薬の精度向上が着実に進んでいることを実感しました。今回、初めて計算科学に関する講演に多く参加し、これらの研究は単なる「実験の補完」ではなく、実験では得られない物理的洞察を与えるものであると感じました。同時に、今後の創薬研究において計算科学の役割がますます拡大していくこと、そして非常に奥が深い分野であることを強く実感しました。自身の研究においても、核酸の構造予測や分子間相互作用の理解に計算科学的アプローチを積極的に取り入れていく必要性を感じました。
また、企業が主導するAI駆動型研究についても拝聴することができました。Montai Therapeuticsの講演では、人類が慢性的に摂取してきた生物活性分子「Anthromolecules」を学習データとしてAIモデルを構築し、10億超の仮想ライブラリから経口投与可能な分子を探索するCONECTA™プラットフォームが紹介されました。転写因子など従来の創薬困難標的(undruggable targets)や、高価な生物製剤の代替となる経口薬開発を目指すという戦略は、慢性炎症性疾患・自己免疫疾患における治療アクセス改善という社会的課題解決を強く意識したものでした。天然物・食品由来化合物の化学空間を体系的に探索し、合成可能性・薬物動態・標的活性を同時に最適化するというアプローチは、潜在空間分子設計の思想と非常に近く、AI創薬の新しい方向性を示していると感じました。XtalPi社の講演では、ソフトウェア・ハードウェア・計算能力を統合した自動化プラットフォームが紹介されました。上海に数百台規模のロボットアームを有する施設を構築し、成功例・失敗例の両方を含む大量の反応データでAIモデルを訓練することで、反応成否予測と分子骨格に基づく最適条件推奨を実現し、従来法より高い成功率を達成しているとのことでした。文献データは成功例に偏りがちですが、ロボットセンターで負例データも系統的に収集することでAIモデルの性能が向上するという戦略は、「データ×AI×ロボット」の三位一体による化学合成の産業化を象徴するものでした。固体粉末ハンドリングの課題に対し、ビジョンモデルを用いた「人間のように分注するロボット」の開発や、HPLCまで含めた完全自動化により、月に数千件規模の反応を実行できる体制が整っていることには大きな驚きを覚えました。本学のロボットセンターが目指すような大規模実験センターがすでに構築され、実際に稼働していることに衝撃を受けるとともに、AIエージェントがサイエンティストの代わりに実験をセットアップする未来が、すでに現実のものとなりつつあることを、実例を通して実感しました。これにより、研究者の役割が「実験の実行」から「問いの設定と結果の解釈」へとシフトしていく流れを強く感じました。
今回、初めて国際学会に参加し、ポスター発表をさせていただきました。有機系のポスターが並ぶ中でAI創薬に関する発表を行いましたが、非常に多くの方にご覧いただきました。ポスター自体は図表があるため説明しやすかった一方で、質疑応答やその他のコミュニケーションにおいて、自身の英語力の不足を強く認識しました。研究者としての共通言語である英語について、専門的な議論を不自由なく行えるレベルに到達させなければならないと、改めて決意するきっかけとなりました。また、研究者とのディスカッションを通じて、AIモデルの開発だけでなく、実験による検証も併せて示していく重要性を再認識しました。
Pacifichem 2025への参加は、最先端の研究動向に触れるだけでなく、自身の研究の位置づけを国際的な文脈で捉え直し、今後のキャリアや研究の進め方について深く考える貴重な機会となりました。アプタマー技術の多様な展開、AI/ML創薬の急速な進展、計算科学の重要性の拡大、自動化ラボの実用化といった大きな潮流を肌で感じることができました。一方で、英語力や周辺分野の知識不足といった自身の課題も明確になりました。今回得られた刺激と反省を今後の研究活動に活かし、次に国際学会に参加する際には、より積極的に議論に加わり、自身の研究成果を世界に発信できるよう準備していきたいと考えています。最後になりましたが、このような貴重な国際学会参加の機会を与えてくださった先生方、研究室の皆様、ならびに学会運営に携わられた関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
2025年12月15日から20日の期間で、アメリカ・ハワイ州ホノルルにて開催された環太平洋国際化学会議2025 (The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2025、以降Pacifichem) に参加してきたのでその報告を行う (開催日時は現地時間)。
本年度のPacifichemはカナダ化学会、アメリカ化学会、韓国化学会、中国化学会、オーストラリア化学会、ニュージーランド化学会そして日本化学会の7学会合同で開催される大規模な国際会議であり、化学に関する幅広い分野の研究者が一堂に会する貴重な機会である。Pacifichemは5年に一度開催される学会で、現地開催は10年ぶりとなる (5年前の2020年度はオンライン開催だったとのこと)。全てのセッションおよびポスターはAnalytical, Biological, Chemistry and Engineering for Sustainability, Chemistry for Life Science and Health Care, Computational and Theoretical, Educate, Communicate and Translate, Inorganic, Macromolecular, Materials, Organic, Physicalの11ジャンルのいずれかに分けられている。各ジャンルに関して少ないところでは約10のシンポジウム、多いところではおおよそ30のシンポジウムが登録されており、さらにそのシンポジウムが半日から1日半の時間枠の口頭発表のセッションを持っている。そして、各シンポジウムがポスターを用意しており、おおよそ500演題のポスターが8回分 (4日間で午前午後各1回) に分けて掲示されている。これだけでも非常に大規模な学会であることが想像できるだろう。さらに会場はワイキキの複数のホテルを跨いでおり、その会場間を絶え間なくシャトルバスが運行している。街を歩けば至る所に参加証をつけた参加者が歩いている。そんな学会であった。
私は今回学術変革領域A (潜在空間分子設計) がオーガナイザーの一部を務めるシンポジウムの1ポスター発表者として参加した。そのため割り振られたジャンルはOrganicで、周りのポスター発表は天然化合物をはじめとする有機合成に関する研究が中心であり、私の研究ポスターはやや浮いていたような気がする。他ジャンルの内容は把握しきれていないが、たとえばInorganicやMaterialは種々の材料開発や、Computational and Theoreticalは (我々に近い領域では) 分子動力学シミュレーション, NMR関連などである。扱っている対象も非常に多様で、発電用の材料開発やプラスチック、生体分子を含む広い分子、ヒト、微生物、ウイルス、植物、エコロジー、何かを検出するためのセンサーなど化学っぽい内容はなんでもあった。全体を通して太陽光発電用のパネルに関する研究は特に多かった印象である。せっかくなので、ここからはいくつか印象に残った演題について報告したいと思う。
一つ目は機械学習を用いて生物のシステムを理解しようといった趣旨のセッションについて報告する。このセッションの研究のモチベーションは生体システムを理解だけではなく、システムを理解するための手法開発も含まれていた。そのうちの一つが油滴に関する演題である。細胞内ではリン脂質をはじめとする両親媒性の物質がさまざまな膜を形成してシグナルの伝達などに働いている。油滴はその両親媒性物質によって作成される。本講演ではこの油滴をどのようにして取り出すか、そしてその解析を行なった研究である。詳しい技術的な内容はunpublishな情報かつ私自身十分に理解していないので控えさせていただくが、特殊な溶媒を用いることで構造を維持したまま取り出すことができるようだ。簡単に崩れて破壊されてしまいそうなものであるが、これを安定的に取り出すことができる。壊れた瞬間に化学的な勾配は崩れてしまい、正しく評価するのが困難であった油滴を安定的に取り出すことができるようになれば、細胞内の局所の化学情報を読み出すことが可能になる。同月の上旬に参加した分子生物学会で聴講したChemical Atlasに通ずる話だと感じた。この内容に関しての詳細は分子生物学会の参加報告にまとめているのでそちらを参照していただきたい。話を戻す。さらにこのグループでは液滴について様々な解析を行っていた。具体的には、塊になっている油滴の数やその大きさの不均一性などの解析やイメージング技術と合わせて油滴のトラッキングなどもできると言う。この技術を用いて油滴を取り出すための溶媒の条件によって液滴の挙動がどのように変化するのかを解析している。油滴は生体内で物質の輸送に使われている。これを薬剤のデリバリーなどに応用することも考えられる。しかしながらこのような技術開発のためには、油滴自体の性質を正しく理解することが不可欠であり、今回聴講した研究はその理解につながる研究であると感じた。
次に報告したいのが、MOF (Metal-Organic Framework) に関する演題である。MOFとは金属イオンと有機分子が規則正しく配置された多孔性の材料である。MOFは2025年のノーベル化学賞の対象となった領域ということもあり、せっかくの機会なので最新情報をキャッチアップしに行った。MOFに関しては我々の研究室でも論文を取り扱ったことがあるが、当時はそんな技術があるのか、と思っていた程度で応用に関する解像度が低かった。今回報告する内容はMOFで酵素の様に振る舞う物質を作るという発表である。酵素は特定の反応を触媒するタンパク質であるのだが、これは酵素の活性部位において局所的な塩基性領域と酸性領域を両方持つことによって酸塩基の反応が効率的に起こることで達成されている。これと同様な仕組みをMOFで再現するというのがメインのストーリーであった。骨格は有機物を主に使って構築し、局所的な酸・塩基領域を金属で作ることによって達成するという。実際に作成した触媒は環の中に含まれるC二重結合を切断できるという。このような触媒は金属触媒による活性化エネルギーの変動を大幅に超える効率を達成するだろう。普段参加するバイオロジーや情報学が中心の学会や研究会ではなかなか聞くことのできない内容であり、今話題のMOFについて良い具体例を拝聴できたのはPacifichemだからこそであると振り返っている。
もう一つ、Pacifichemだから聞くことができた内容だと考えているDNAに関する技術開発の講演について共有したいと思う。DNAそのものを理解するというよりも、DNAを計測する技術やDNAをツールとして使うという内容が近い。例えば、DNAを観察する手法の一つであるナノポアシークエンサーの技術開発などである。こちらの技術開発について、あまりにも専門的で私自身理解できていないので技術の詳細をお伝えすることはできないが、現在、塩基配列に加えて様々な情報を同時に取得することができるようになっている。メチル化などを同時に計測することができるという話は聞いたことがあるが、現在はDNAの半径などといった物理的な情報を同時に取れるという。現時点で、私自身これをどのように使えるのか、そして今後発展し残っていく技術なのかは不明だが、生命の制御の中でDNAの半径が変動する現象があるかもしれないとも思う。このような技術の登場で生命の理解が進むのだろう、という期待を感じる講演であった。さて、このセッションで最も報告したい内容はDNAzymeに関する演題である。RibozymeのDNAバージョンで、触媒活性を持つDNAのことである。Ribozymeは生命活動に利用されているが、DNAzymeは人工配列である。DNAzymeの研究としては特定のmRNAを切断や、特定のDNAを検出するバイオセンサーなどが勧められてきた。この講演では、DNAzymeによる配列認識を極限まで高めたという内容であった。詳しくは書けないが、DNAのループ構造などの3次元的な構造の操作により1塩基レベルの感度をもつ触媒としてのDNAzymeを作成したという。この技術で驚嘆したのが、実験的に1塩基だけ欠落している配列に対して”反応しない”DNAzymeを作ったという点である。特定の配列のみに反応する配列を作るのはまだしも、反応しないシステムをDNAで作るというのは驚きである。この研究はそのような技術としても非常に面白いし、DNA computerの新しいモジュールとして利用するなど幅広い応用を期待させるものであった。
シンポジウムに参加した報告として、最後に少しだけ私の研究に直接関係しそうな内容を簡単に報告する。ペプチドを含めたタンパク質の分子動力学 (MD) 計算に関するシンポジウムである。自身の研究でも使用しているMD計算であるが、そのプロのお話を聞くことができた。例えば、MD計算をベースとした分子モーターの設計に関する報告では、MD計算により加水分解のエネルギーを見積もり高効率のATPaseを作成するという研究のお話を伺った。今の自分のMD計算と比べると遥かに高いレベルの研究を垣間見たのは非常に良い経験であった。使い方次第で、非常に多くのことができる技術だと感じたので、改めて勉強し直してみようと思った。また、このシンポジウムに参加してMD計算に関する幾つかの”感覚”を得ることができた。プロの感覚を得る機会は学会などに参加しないと得られないと感じている。というのも、このような感覚の話は論文中や講演の資料などには現れずに (想像だが、発表原稿の中にも出てこないだろう)、その場の雰囲気で話している言葉に現れてくると考えている。例えば今回も「この値としては構造があまり安定していませんね」という趣旨の発言が講演中にあったのだが、スライド中には登場しておらず、グラフの値と聴衆の様子を見て”つぶやいた”に近い発言であった。このような、情報をキャッチアップできるのは対面学会の良いところだろう。
最後にポスター発表に関して報告したいと思う。今回は、低分子抗生物質の探索の研究の内容を発表した。まず一つ目に、海外学会であるので横長のポスターを作成した。一般に日本を含めたアジアやヨーロッパでは縦長サイズであるが、今回の学会はアメリカで行われたので、横長のポスターになる。初めて横長のポスターを作成したのだが、かなり視認性が高いと感じた。というのも視線の上下が遥かに少なくて済むのに加えて、パッと見たときに見るべきデータの順番がわかりやすい印象であった。ポスターの作成に関して、我々の研究室では普段からポスターは英語で作成しているので縦と横が違うという点のみで、特段意識したことはなかった。ただ、会場で他の参加者のポスターをざっと見ていたところ、日本人のポスターは文字が多い印象である。今回作成したポスターも文字の分量を減らす意識は持っていたのだが、それでも他の国々特にアジア圏以外の参加者のポスターと比べると文字で全体がうっすら黒い。どっちが良いか悪いかはさておき、このような国のカラーが垣間見えるのも国際学会の面白いところだろう。発表に関しては、大盛況とまでは言えないが、ほとんど人が途切れることはなかった。国籍は約4割程度が日本人、残りが海外の方であった。足りない英語ではあったが、最低限伝えたいことは伝えられた。ただ、端的かつ明瞭に答えられるようになる必要があると感じている。というのも、日本国内の学会でのポスター発表ではほとんど感じたことがないが、今回興味を失っている雰囲気を露骨に感じた。ある方は二人組で足を止めてくれた参加者で最初は二人ともこちらの話を聞いてくれている様子であったのだが、途中でうち一人が完全に興味を失っており、無難な質問を一個して去っていった。ガチガチの発表原稿を作っていたわけではないのだが、時間として3~5分程度の内容で発表を構成していた。聴衆の様子を見てもっと柔軟に発表を調整できるようにするべきだったと反省している。日本人は優しいのであまり興味はなくてもある程度真面目に聞いてくれていたので、見過ごしていた点であったと反省している。質疑応答に関しては、多少化学寄りではあるものの雰囲気は分子生物学会で尋ねられる内容とほぼ一緒であった。こういった点は、国際学会等での発表の心理的ハードルを下げてくれたと感じている。
今回初めて海外開催の国際学会に参加してきた。学会の雰囲気など言語化できていない部分も多々あるが、それらも自分にとっては非常に貴重な経験であった。また、化学中心の学会に参加するのは初めてであったので、バックグラウンドが化学の研究者がどこに興味があるのかについても少し把握できたと感じている。というのも、2026年度の分子生物学会は生化学会との合同開催である。ベースは生物であるが、chemistよりのお話も盛り込みたいと考えている。学会そのものではないが初めて一人で海外に行くという経験を積むこともできた。行く前はかなり不安であったのだが、その辺りの種々の無知から生じていた不安も今回の出張でだいぶ低減されたのも個人的には大きな成果である。ただ、12月のハワイは雨季ということで、天候に関してはイマイチだったのが残念な部分である。また、呼んでいただけるよう今後も精進していく。
