情報処理学会 第88回全国大会 参加報告

2026年3月6日から8日までの3日間の日程で行われた情報処理学会第88回全国大会に参加したので報告をしたいと思う。今回、バイオ情報学分野やアルゴリズム、物体検出、数理モデリングなど幅広い領域の内容について聴講した。また、今回初めて情報処理学会で口頭発表を行ったので、そちらについての感想等も簡単に述べたいと思う。

まず、全体的な所感を述べたい。情報処理学会ではポスター発表はなく発表は全て口頭発表になる。口頭発表には招待講演などを除いて一般セッションと学生セッションがあり、その約4分の3が程度を学生セッション (修士課程の学生まで) が占める。この比率と実際に参加した雰囲気からこの学会は学生がメインであると感じた。また、発表内容についてはprimitiveな段階の研究内容が多いと感じた。普段参加する他の学会のほとんどはポスター発表があるのに加え、発表者のほとんどが修士課程の学生までという点を踏まえるとそのような形式になるのも自然であると思われる。ただし、こちらに関しては非常に良い形式だと感じた。というのも、聴衆が議論に積極的に参加し、シンポジウムが「一緒に考える場」として機能しているように思えた。生物系の学会で見るのは学生ではなくPIクラスの著名な先生方による膨大なデータ量と練り込まれ完成度の高いストーリーで圧倒される。ということが少なくない。そのためそれらの学会は「勉強しに行く」という感覚が強いが、情報処理学会は寧ろ発表者がいろんな人の意見をもらう場としての性格が強い学会であると感じた。

今回私はバイオ・スポーツ情報学のセッションで発表した。私はバイオ情報学側での参加であったのだが、スポーツ情報学側で伺った北海道大学の野口孝文先生による位置情報の取得・送信を効率化するために、二次元空間を六角形の区画で表現し、位置データを圧縮して扱う手法に関する発表を報告したい。発表では、通常の座標表現をそのまま用いるのではなく、空間を規則的な区画に分割して位置を離散化することで、少ない情報量で移動履歴を表現する考え方が示された。また、移動速度や必要な精度に応じて表現の細かさを切り替えることで、歩行から高速移動まで幅広い条件に対応できる点が印象的であった。限られた通信容量の中でも複数地点の位置情報を扱えるように設計されており、長距離通信や低消費電力が求められる用途に適した構成であると理解した。応用例としては、屋外での移動体追跡を想定した実証が紹介されており、取得した位置情報を地図上で可視化し、複数対象の同時表示や過去データの再生も可能であることが示された。これにより、単なる位置送信にとどまらず、行動の把握や比較分析にもつながる実用性の高い技術であると感じた。一方で、実装上の課題としては、機器構成に起因する誤作動への対応や、位置測定そのものの誤差を踏まえた解像度設計の重要性も示されていた。全体として、通信制約の大きい環境でも位置情報を効率よく扱うための実践的な工夫が多く、情報の専門の先生による研究面・実装面の両方で学びの多い発表であった。

今回の情報処理学会ではオンサイトとオンラインで同時に発表を行なっている。初めての本格的な参加であり、学会全体の雰囲気をつかみたいと思いオンラインではあるが様々なセッションに足を運んだ。その中でも特に活気のあるセッションはアルゴリズムやデータ通信に関する基礎研究であった。私の参加したセッションを含め応用的なセッションよりも参加者も多く議論も活発であった。残念なことに私自身それらの発表の多くについてその内容をフォローできていないが、基本的な構成としては開発した新しい手法・技術についてかなり詳しく説明したのちに、1、2例の簡単な応用例を示すという流れである。このように、理論的な新規性を中心に据えつつ、応用可能性を簡潔に提示する発表スタイルが好まれる学会であると感じた。

今回行った口頭発表について報告したい。これまで何回か口頭での発表を経験してきたが、情報系の学会で発表したのはこれが初めてである。これを踏まえて、今回の発表では生物学的観点から面白いと思う内容は最小限にとどめて情報学的観点で興味深い内容に選定して発表を行った。今までは、手持ちのデータを全て使わないと時間が余ることが多かったが、ここにきて漸く、手元のデータを組み合わせて資料を作ることができる状態にあることに気がついた。またその中で、自分が行なっている研究が生物学的にも情報学的にも一定のメッセージ性を持ちうる点を認識した。半年に一度程度、発表用にデータをまとめるのはこれまでの内容を振り返りストーリー構成を考えるのにも非常に役に立っている。さて、話を戻すが、私の研究は生命科学と情報科学の両方を取り扱っているが、研究のベースとなる問いは生命科学側にあり、情報科学はツールとして利用している。研究発表ではそのモチベーションや背景を伝える必要があるが、私の研究においてここは生命科学になっている。そのため、発表の導入についてこれまで以上に綿密に準備した。その中で特に意識した点はその研究が解決すべき重要な問題に取り組んでいることが伝わる発表内容にすることである。なぜその研究に取り組んでいるのか、という点がぼやけてしまうと最後まで発表を聞いても全体的にぼやけた状態で終わってしまうという経験に加え、取り組んでいる課題が学会の趣旨とはずれているため導入を手厚く作成した。実際、研究室内で行なった予行練習では導入部分についてたくさんのコメントをいただいた。その結果 (ではないかもしれないが)、情報系の学会でフロアおよびセッション終了後に何人かの先生方にお声がけいただき、ある程度は私の研究が伝わったと振り返っている。

また、今回の学会では初めてセッションの座長を務めさせていただけた。これまで参加した学会で座長の先生がどのような進行をしていたのかを思い出し、見様見真似で臨んだ。ありがたいことに、情報処理学会においては生物系の学会とは異なり発表するには論文 (word 2ページ分) を提出する必要がある。そのため、ある程度予習をしてから臨むことができた。それでもなお、反省点も多々あり発表者の先生方には申し訳ないという思いである。一方で、座長という司会進行役からセッション全体を眺めることができ、新たな視点で発表を見聞きすることができた。これまでは個人として発表するという視点しかなかったが、今回の経験でセッション全体の中で自分がどのような立場で壇上に立っているのかというより俯瞰的な視点を意識するべきであると感じた。

以上のように、今回の情報処理学会への参加を通して、研究発表のあり方や学会の性質について多くの学びを得ることができた。特に、学生を中心とした活発な議論の場としての雰囲気や、口頭発表において積極的に意見交換が行われる文化は非常に印象的であった。また、自身の発表や座長の経験を通して、研究内容の伝え方やセッション全体の中での立ち位置についても新たな視点を得ることができた。今後は、今回得られた知見や反省点を活かし、より明確なメッセージ性を持った研究発表を行うとともに、基礎的な理解を深めることで他分野の発表内容についてもより積極的に議論に参加できるよう努めていきたい。また、生命科学と情報科学の両分野を横断する研究を進める中で、それぞれの分野における適切な伝え方や位置づけを意識しながら、自身の研究を発展させていきたい。本学会での経験は、今後の研究活動において非常に有意義なものであり、今後も継続的にこのような場に参加し、自身の研究を発信していくとともに、多様な分野の知見を取り入れていきたいと考えている。

博士1年・大谷 悠喜