Asia & Pacific Bioinformatics Joint Conference (APBJC2024) 参加報告
10/23~25の日程で沖縄にて開催された国際学会 Asia & Pacific Bioinformatics Joint Conference (APBJC) に参加してきたのでその報告をする。
APBJCはバイオインフォマティクス学会を含むいくつかの学会 (JSBi, GIW, InCoB, APBC, ISCB-Asia) の合同国際学会である。バイオインフォマティクス学会に関してはこの国際学会が今年度の年会の代わりの学会であった。国際学会とは言え、日本国内で開催された学会なので参加者の国籍は8割から9割がアジア系でそのうち半分ちょっとが日本人といった内訳である。運営側の発表では他のアジアの国々で参加者が多かったのは韓国・台湾・インドの順番とのことであった (所感としては中国人が結構参加していた気がしたのだが)。オーラル/ポスターの発表者に絞れば海外の方の割合がもう少し多かった印象だ。規模感としてはオーラルが3会場、ポスターが1日あたり200枚強 (2日分なので450枚程度) という感じで想定していたよりもコンパクトな会になっており、人が溢れて会場に入れないみたいなことはなかった。ただしポスター会場はポスターの枚数の割にこじんまりしたスペースで行われたので、結果通路が狭くなり中々にカオスな状態になっていた。会場 (沖縄文化芸術劇場 なはーと) は国際通りすぐ近くの会議場でお昼ご飯などは沖縄料理等を楽しませてもらった。
初日はまずKeynote Talkということで韓国のKorea Advanced Institute of Science and Technology (KAIST) のKim先生の講演から始まった。タイトルは”Prediction of cancer associated metabolites and their application for drug targeting”。内容を簡単にまとめるとがん細胞特異的に蓄積する代謝物 (これをoncometabolitesという) が存在しておりTCAサイクルに限ればフマル酸やコハク酸などが該当する。Oncometabolitesががん細胞においてどのように蓄積するのかはもちろん気になるところである。そもそもがんとは遺伝子にさまざまな変異が入ることで生じる疾患であるのでその変異とoncometabolitesの関係を明らかにしたいというのがKim先生の研究室のストーリーである。この考え方をMetabolite gene pathway (MGPs) といい、代謝物のflaxと遺伝子に入っている変異情報から推定されるMGPsはがん種ごとに異なってくるので、これを予測できればがん種ごとに新たな治療標的を見つけることができるとのことだった。この研究は我々の分野での大野先生と伊東さんの研究に非常に近い内容であった。日頃の進捗報告を聞いていたおかげでこの研究領域の最先端の一部分を垣間見ることができ、ラボの中で全く違うことをやっている仲間がいると自分の知識・興味の幅が気付かぬうちに広がっていることに気がついた。自分の研究も同じように誰かの興味の幅を広げていてほしいところだ。以上の内容をまとめた報告はSharma et al., Metabolic Engineering 2024にあるので興味があればチェックしてほしい。またKim先生のグループは論文情報から代謝物の経路等の情報を集める研究もしていると紹介してくれた。Extraction of Biological Pathway Information (EBPI) と名付けられた手法でその方法が非常にユニークであった。代謝物の反応経路は図として表現されることが多いと思うのだが、これをうまくとってくる手法を紹介してくれた。詳しくはぜひ論文を読んでほしい (Kwon et al., Metabolic Engineering 2024)。
Keynote talkの後、初日はsingle cellとspatial omicsに関するセッションが複数あったので、この機会に最新の情報を色々収集しようと思い連続で参加していた。なんとそのセッションの登壇者の1人に名古屋大学の水越さん (BDSC OB) の名前があった。卓越した研究内容もさることながら先をいく知り合いの研究者の発表する姿は私にとって非常に刺激的なセッションになった。
さて、今回の個人的一大イベントであるポスター発表に関して報告をしたいと思う。1時間弱の発表時間で、ありがたいことに途切れることなく様々な国の方とディスカッションをすることができた。日本人3割、海外の方7割 (中国、台湾、インドなどなど) といった印象である。今回尋ねられた質問のほとんどはmethodsに関する内容であり、resultsに関してはそんなに聞かれなかった。特によく聞かれた質問が、「データどうやって集めているの?」である。具体的にはpositive dataに関してはどこから集めてきたのか、negative dataに関してはどうやって作ったのか。という質問内容である。特にpositive dataに関しては、具体的なデータベース名を何度か尋ねられた。確かに後から落ち着いて考えてみれば、どうやってデータ集めたのかは気になるところであることであり、自分のポスターはそれを省略していた。客観的な視点が欠けたポスターであったと反省している。一方でresultsのデータは一貫したストーリーで見せるべきところを今回はデータを盛り込みすぎてしまったと感じている。Methods以外でよく尋ねられたのは「これはpublishしているの?もしくはその予定はあるの?であればどこの雑誌に出す予定?GitHubある?」という内容であった。色々質疑応答した人が実はJournalの営業マンだったということもあったのだが、それを差し引いても何回か尋ねられた初めて受けるタイプの質問であった。やはりドライ系の人は実際モデルが使えるのか、詳細はどうなっているのかということが気になるのだろう。Resultsに関してはストーリーに関しては反省点が残るのだが、内容に関してはそこまで複雑なことをやっていないことに加え、適切な図を入れることができたのであまり質問されなかったと思っている (そんな興味なかっただけかもしれないが)。また、今回国際学会ということで当然英語によるやりとりだった。何度か質問を聞き返してしまったりしたが、相手のリアクションを見る限り辿々しい英語ながらも概ね適切なQ&Aができたと思っている。ポスターを見にきてくれた人の中で最も印象に残っているのは撤収間際 (発表時間はすでに終了しておりポスターを回収しにきたタイミング) に現れて”Is this your poster?”と話しかけてきたインド人の研究者である。結論から言うと、トラウマ一歩手前になる程何を言っているかわからなかった。話す速度とか使っている単語がわからないとかではなくて、独特の訛りで何を言っているのかがさっぱりわからなかった。何度”I can’t understand what you want to say.”と言ったかわからない。普通なら、ちょっと話した時点で話が通じてないと思って去るところだが、ありがたいことに何度も根気よくやり取りに付き合ってくれて、このインドの方が唯一ポスターの頭からお尻まで隅々まで聞いてくれた。おこがましい話だが、見ず知らずの研究者に育てていただいた気分である。今まで (もっというならこのインド人と出会う直前まで) 単語の断片とかでなんとなく言いたいことや話の流れを掴める程度のことはできていたと思っていたのだが、その自信は完璧に砕かれた。今後もし研究者として生きていくのであれば改めて精進していく必要をひしひしと感じた。おそらく、この出来事は一生忘れることがないだろう。
今回の学会は内容によって日程が分かれていた。例えば自分が投稿していたdrug discovery領域やsingle cell, spatial omics関連の内容は一日目で、二日目に関しては伊東さんの代謝omics的な内容やタンパク質や核酸の立体構造などの内容で、個人的に惹かれた内容の発表やポスターは二日目に集中していた。複数の学会による合同学会で、それぞれがどの所属から来ているのかはわからないのだが全体として内容は基礎系が多い印象であった。基礎系の中でも若干臨床に近いdrug discoveryに関する発表もそれほど多いわけではなく、むしろsingle cellの解析手法の開発などに関する発表が思っていた以上に多かった。今回ポスターや口頭発表でよくみたワードで個人的に気になったのが”糖鎖”である。これまであまりみたことがなかったが、今回の学会では目についた。現状データベースを作っているというような内容や特定の糖鎖ペプチドについて調べました。という内容が中心であり、まだまだ大規模なデータベースとして用いることができるものではなさそうだが、今後盛り上がっていきそうな気配を感じた。また、single cell RNA-seqなどのデータからノイズを除去するという発表も複数聞いた。RNA-seqのバッチ補正に関する研究は今も盛んに行われており、個人的には色々話を聞いて「結局どれがいいのか」ということが余計わからなくなってしまった気がしたのだが、たまに情報を仕入れておく必要があると感じた領域である。最後に、逆にあまり聞かなかった内容について共有する。昨年度参加したバイオインフォマティクス学会ではgenome-wide association study (GWAS) の話をよく聞いた (GWASに関するセッションも組まれていたと記憶している)。しかし、今回の学会はほとんどGWASの話を聞かなかった。本学会はいくつかの学会が合同で開催しているためGWAS関連の研究者を惹くような内容でなかったのか、GWAS界隈の研究者の主戦場が移動したのか、どう理由なのかわからないがとにかくGWASというワードを見かけなかった。GWAS自体は創薬と結び付きつつあり盛り上がりを見せている領域なので不思議な話である。
毎度のことだが、学会に参加すると何かと収穫がある。今回の学会に関してはいくつか横のつながりを得ることもできた。次回は約1ヶ月後の分子生物学会である。今回の反省を踏まえポスター及び口頭発表の準備をしていきたい。
この度、2024年10月22〜24日に、沖縄で開催された1st Asia & Pacific Bioinformatics Joint Conference (APBJC) に参加してきたのでその報告をさせていただきます。
本会は日本バイオインフォマティクス学会含む5つの学会が合同で開催した国際学会であり、体感としては日本に次いで台湾・インド・韓国・中国の方が多く、そのほかアジア各国やヨーロッパなどからも参加者が来ていた。
医学部の実習の都合で初日は参加できなかったのだが、2日目の冒頭のセッションで今回の学会参加で一番と言って良いほどの刺激を受けた。所謂基調講演であるKeynote talkでのKorea Advanced Institute of Science and TechnologyのDr. Hyun Uk Kimのお話である。” Prediction of cancer-associated metabolites and their application for drug targeting” という題で、代謝のモデリングを通じてがん細胞における代謝異常に関わる代謝物の候補を発見したという内容であった。自分が現在取り組んでいる研究テーマが代謝についてであり、それとかなり近いモチベーションを異なるアプローチで達成しようとする研究であった。イントロダクションの構成や将来の展望など研究を発表する際の話の構成を考える上で大変参考となり、Dr. Kimらの優れた研究と比べた際の自分たちの研究の優位性を批判的に考える機会を頂けた。Dr. Kimのグループの研究は他にもいくつかポスター発表として目にする機会がありそちらにも大変刺激を受けた。また、彼ら以外にも代謝解析の手法開発の研究についてのポスター発表があり、今回の学会参加は現在の研究テーマをブラッシュアップするという意味で大変実りあるものであった。
ランチョンセミナーではMEGAZONEというクラウドサービスを提供する企業のセッションを聴講し、サービスの提供事例としてさまざまな企業や研究機関でのクラウドを活用した大規模なプロジェクトについて知ることができた。機械学習を用いて個別化医療を行なっている海外の病院の事例や臨床現場における書類作成のためのAI活用事例、発展途上国におけるAIを用いたがん治療など、未来の話だろうと自分が思っていたようなAIの活用を当たり前にやっていることを知り大変驚いた。研究に関しては世界中のグループの研究成果を目にすることが当たり前であったが、臨床現場におけるテクノロジーの活用に関しては自分の関心が国内に留まっていたことに気づかされ、世界の先進的な取り組みを知るきっかけとなった。国によってバックグラウンドやニーズ、活用のためのハードルなどは様々であるだろうが、先行事例の存在は日本における医療現場でのAI活用を考える上で大変参考になるので今後は海外の臨床現場についてもアンテナを張ろうと考えた。
今回のAPBJCでは約400枚のポスターがあり、バイオインフォマティクスの様々な領域の研究が並んでいた。ちょうど1年ほど前に柏で開催されたバイオインフォマティクス学会年会にも参加させていただいたが、その際のポスターの内容を振り返って今回の内容と比較すると、今年は空間トランスクリプトーム解析の研究の数が非常に多く感じた。しかも、データを取得して解析をしたという研究のみならず、研究のメインは他の部分にあり、その応用先として空間トランスクリプトームデータが用いられている研究が少なくなかった。それだけデータの数が増え、皆当たり前に使えるようにパイプラインが整備されたのだから、自分だけそれができないという訳にはいかない。多くの研究者が現在盛んに研究している領域であるからそこに今すぐ参入するつもりはないが、少なくとも、空間データを使うとどんなことができるかといった活用事例に関してはキャッチアップして自らの研究に必要に応じて盛り込むことができるようにするべきだと感じた。
今来ている波が空間トランスクリプトームだとすると、次に来る波はロングリードシークエンサーを用いたオミクス解析であるように感じる。既に計測技術は開発されてある程度の時間が経過しているもののまだ改善の余地があり、今回の学会でも手法解析などのポスターが一定数あった。ロングリードシークエンサーによって解析可能になる情報が少なくない一方で多くの研究者が扱えるという状況ではまだない。波としては既に到達しているがこれからもっと大きくなることは間違いない技術であるから今のうちにこの技術を使った面白いテーマを思いつけば是非取り組みたい。
自分も今回ポスター発表者として参加しており、ありがたいことに様々な方とディスカッションすることができた。ポスターに関してはこれまで自分が様々な学会で目にしてきた目をひくポスターを参考に作成したが、いざ実際に貼ってみると様々な反省点が浮かんできた。自分の研究分野に強く興味を持つ方とディスカッションすることも大変貴重な機会である一方、少し違う興味の人との話では分かりにくい箇所に対する率直な疑問や自分では思いつかないようなapplicationの可能性をいただける。故にポスター発表ではなるべく多くの方とディスカッションしたい訳であるが、1日に数百枚のポスターが掲載され実際に発表者と話を聞く時間はわずかしかない。限られた時間の中でより多くの人に興味を持って自分のポスターを訪れてもらうには手法や結果をわかりやすく説明するのみならず、研究分野の重要性をいかに伝えるかだと感じた。今回は研究手法の説明に力を入れた構成であったが、これから研究について発表する際には研究のモチベーションの説明に力を入れようと思う。
今回初めての国際学会への参加であったが、英語によるコミュニケーション自体にはそこまで大きな障壁は感じなかった。一方、手法について深く理解しようと質問した際に伝えたいことをうまく表現できず言い淀んでしまった。英語の言い回しはある種の型を覚えることが大事なので、今後英語の講演動画などを通じてその型を身につけていきたい。
研究内容について糧になったのみならず、学年が下の医学生が面白いポスターを出していたり海外の医学生が口頭発表をしていたりなど同年代の医学研究者の活躍に刺激を受けることもできた。このような素晴らしい機会を与えていただいた清水研に感謝しながら今後も研究を続けていきたい。