生命科学あるいは医療系と、情報科学のダブルメジャーを目指しませんか?

東京医科歯科大学M&Dデータ科学センターAIシステム医科学分野では、全国さまざまな機関に所属する学部生・修士課程学生を対象にしたBiomedical Data Science Clubオンライン研究チャレンジ制度、そしてデータ解析はじめてコースによって生命科学系、医療系の学生さんに数理情報科学の基礎的な知識を提供してきました。また「実験医学別冊・Pythonで実践 生命科学データの機械学習」を羊土社から出版し、生命科学・医療領域のデータサイエンスについて知見の普及に務めてきました。

これをさらに拡大かつ高度化し、博士課程の大学院生を対象にしたダブルメンター制度を2023年1月より開始しました。現在の研究室 (や医局) に所属したまま、オンラインで非常に高度な数理情報科学を習得することができます。また、学位のためにまさに今取り組んでいる研究プロジェクトをサポートするので、学位取得を早めることもできるでしょう。

アメリカのHarvard Medical Schoolに留学していた頃によく目にしていたのは、学部生が全く異なる2つの専攻 (例えば生物と数学など) を同時に勉強しているということでした。これはdouble majorと呼ばれ、Harvardではわりと一般的なことです。また、日本の博士課程に相当するgraduate schoolでは、そもそも研究領域の異なる複数の教員がmentorとして共同で指導し、学生は1つのラボにメインでは所属しつつもそれ以外のmentorと頻繁に討論するという制度になっています。こうした複数領域に早くから習熟するからこそ、その卒業生は学術界にせよ他の業界にせよ世界中でハイインパクトな成果を出し続けているわけですし、またメンターが複数いることでさまざまな人脈が広がっていき多様性が生まれています

私たちは日本の大学のシステムを変えるほどの政治力は持ち合わせていませんが、こうしたマインドに共感していただける方だけにでもHarvardやMITの標準的な考え方・制度を提供したいと考えています。

ダブルメンター制のメリット

ダブルメンター制により提供可能なベネフィットは次の9個です。このうち3,4以外はオンラインなので全国どこの研究機関にご所属でも大丈夫です。

  1. スーパーコンピューターSHIROKANE最上級モード(D9モード) およびデータストレージサーバーSHIRAUMEアクセス権 (家からでも利用可)
  2. 配属前に学習するオンライン予習教材 (200時間分の演習教材) + 事前勉強会
  3. 希望者のみ: 米国マサチューセッツ工科大 (MIT) ・人工知能研究所 (CSAIL) で使われているのと同じ教材を使ったML特論 (2年コース)
  4. 希望者のみ: システム生物学, 数理生物学, 合成生物学, 量子情報科学等の多様な周辺領域を学ぶCS (convergence science) 特論 (2年コース)
  5. バイオメディカルデータサイエンスとその関連領域における人脈ネットワーク (清水研は30年続くので今後同門の方がたくさん輩出されるでしょう)
  6. ラボメンバーからの建設的な批判によるプロジェクトの軌道修正
  7. 毎月or隔月にある研究に関する個別ミーティングを通じた論理的思考回路の構築
  8. 希望者のみ: 最先端の学術論文やテクノロジーを隔週で学ぶ機会
  9. 2年に1本以上の頻度で筆頭著者として英語学術論文を国際誌に発表できる可能性

正直なところ、正規の清水研大学院生にはより多くのベネフィットを提供しているので全く同じというわけではありませんが、それでも副指導や共同研究ベースでは他のラボの先生にここまでたくさんのことを学べることはありません。ダブルメンター制だからこそ可能なのです。

ご専門とする医療あるいは生命科学に加えて、博士課程の間に高度な数理情報科学も習得してダブルメジャーの稀有な人材になりませんか? ご参考までに、すでにダブルメンター制度で学んでいる方達の生の声はこちらに原文のまま掲載しています。

制度の概要および私たちからの希望事項

  • 特定のプロジェクトのための手法にとらわれない広範な知見を伝授しますが、表向きは学生さんのテーマに対する共同研究という形をとらせていただきます。具体的には、私たちのメンバーのうち清水と他の1~2名のメンバーが一緒に取り組ませていただきます。また、ダブルメンター制度は名前の通り共同で指導をさせていただくものですので、博士論文を発表する際には清水をco-corresponding author (の1人) にしていただけますと幸いです。さらに、プロジェクトの内容が実験よりもデータ解析に重きをおいたものである場合には、主で取り組むことになる当分野の教員 (講師 or 特任助教) 1名もco-correspondingに最初から加えていただけると若手教員がみなさんに指導する際の熱の入り方が変わってくると思います。
  • 広範な数理情報科学を武器として身につけていただくために、ダブルメンター期間は2年以上必要です (3年, 4年なども可能です)。
  • ダブルメンター制度の意図は「人を育てる」ことにあります。皆さん方の研究室のトップの先生が、次に行う実験を詳細に指示することはありませんよね (試薬AとBを5 ul入れて、55℃で10分加熱して、なんて全ての手順を言われているのはきっと研究をはじめた最初の1ヶ月くらいだけでしょう)。同じように、私たちも具体的なデータ解析の手順を示したりみなさんの代わりにコードを作成するということは行いません。情報科学に関する教育は行いますが、先行研究を調べ自分で考えたデータ解析を行うのはあくまでみなさんです。私たちが「釣った魚」を与えても「人を育てる」ことにつながりません。ダブルメンターの名前にあるように、「メンター」としての立場から助言しますが、選手はみなさんです。
  • 研究室のslackに招待します。そこでは毎日のように論文やリソースが紹介されている他、個別のチャンネルを作るので随時テキストベースでdiscussionが可能です。
  • 月曜日の午後に2時間ほど私たちの研究室の論文抄読会およびテクノロジーセミナーにオンライン参加していただけます (希望者のみ)。
  • 最初は月に1回 (そのうち隔月に1回)、水曜日の午前または金曜日の午後 (日程は相談可) にzoomで進捗を報告し、グループで一緒に討論する時間をいただきます。
  • 年に2回 (9月と3月) の土曜日に、清水研在籍者合同のオンライン研究会に出席していただきます。そこでは国際学会に準じて半年間の研究成果を英語で発表・討論していただき、また他の発表者に対して英語で積極的な質問をお願いいたします。
  • もしご希望であれば、火曜・金曜の午前に非常に高度な大学院生向けの勉強会を東京医科歯科大学 神田駿河台キャンパスで開催しておりますが、それにご参加いただくことが可能です。

いただいたご質問とその回答

これまでいただいたよくあるご質問についてまとめています。下記質問をクリック/タップすることで回答が表示されます。

いいえ、本学とは何の関係も発生しません。今のご所属のまま、私達と共同研究することになります。

いいえ、発生する費用はありません。指導料は無料です。

今のご研究にかかる費用をボスの先生が出してくださっているのと同じく、情報系の教育研究にかかる費用 (スーパーコンピューター利用料も含む) は全額私たちのグラントから支払います。その点、ある程度の費用が発生することも多い普通の共同研究とは違うものです。

当研究室はさまざまな学びの機会を提供しておりますが、その中で絶対に参加しないといけないものは、いずれもオンラインの

  • 火曜日 (プロジェクトの内容によっては水曜日になる可能性あり) の午後に月1ないし隔週で行われる進捗報告会 (1時間~1時間半程度)
  • 年に2回, 土曜日に行われる学会形式の研究室内セミナーでの半年間の成果報告

になります。

「ダブルメンター」とはいえ、こちらに籍が移るわけではありませんので主の指導者はもちろん今の先生です。その先生は、この方なら社会人をしながら博士号を目指せるし、自分も責任を持って学位指導できると判断したからこそ社会人大学院生として受け入れしているのでしょう。当分野は「主」ではない以上、まさに今ご指導いただいている先生のご判断に従います。ですので社会人大学院生であっても問題ありません。ただし、もともと社会人をしながら研究をするのは時間的にも大変だと思います。そこに加えて、さらに違う領域も学びたいというのは、どれも中途半端になってしまうのではないかと危惧はします。お仕事と本当に一緒にできるのか、指導教官の先生とよ〜く検討されてください。私の学生だったら、社会人として働きながらというのはお勧めしないと思います。ご本人と学位取得に責任を持つ主の指導教官の先生がご希望されるなら構いませんが、オーバーワークになりすぎないよう自己管理が必要です。

ダブルメンター制度の生の声

沖田 大和 (徳島大学大学院 創成科学研究科 博士課程2年)

ダブルメンター制度で日々お世話になっております。
徳島大学大学院創成科学研究科博士後期課程の沖田 大和と申します。

2024年3月現在、ダブルメンター期間は1年3か月となり、計8回(約8時間)清水先生と大野先生にオンライン面談をさせて頂きました。当初の3か月は月に1回のペースで私の研究分野の先行文献をシンプルにまとめて紹介をさせて頂き、文献への理解度や機械学習の基礎知識についての確認を行って頂きました。またその期間中にスーパーコンピュータSHIROKANEを操作するのに必要なシェルスクリプトの学習教材と清水先生のご著書の拝読(Pythonコードの写経)を通じてバイオインフォマティクスの世界を垣間見させて頂きました。

私は現在、鬼塚正義先生のご指導の下に二重特異性抗体の安定製剤化に関する研究に着手をさせて頂いております。この5年程でスタンダードとなったAlphaFold2を積極的に活用して自分達で設計した抗体のアミノ酸配列から3次元構造データを生成し、そのデータから抗体分子特性や抗原との相互作用を詳細に解析しています。その進捗状況を2か月に1回のペースでご確認頂き、ご助言を頂いております。もし先生方との出会いがなければ、本格的なin silico解析には着手していなかったと思います。

所属する大学院プログラムの中でも複数の副指導教員と接する機会があります。清水先生と大野先生との出会いは所属する大学院とは全く関係はないですが、圧倒的に私に向き合って頂き、比較にならないほどの教育の機会と研究へのご助言を頂きました。8回のご指導の中でこの密度ですから、実はまだ先生方とあまり雑談をしたことがございません(笑)。東京に行く機会がありましたら、一度ご挨拶に伺わせてください。その際は少しだけ雑談のお時間を頂けると嬉しいです。

HPをみてダブルメンター制度に興味がある方がおられましたら、是非思い切ってチャレンジしてみてください。もしご要望があれば、私にご連絡を頂ければ、より詳細なダブルメンター制度の実態をお話しさせて頂きます。

2024.03.11掲載

ダブルメンターを希望される方へ

まず最初に、このダブルメンター制度が本当にご自身のニーズに合っているかを今一度ご確認ください。私たちはデータ解析はじめてコースという3ヶ月以内にベーシックな解析ができるようになることを目指すコースも提供しています。

ダブルメンター制度は、当然ですがすでにメンターをされている先生に許可をいただく必要があります。ダブルメンター制度に強い興味を持っていただいた博士課程の学生さんは、現在の研究室のトップの先生にご相談ください。先生方向けのページはこちらです。

ただし、当研究室では正規の大学院生として所属を希望する人であってもさまざまな理由から全員を受け入れているわけではありませんので、ダブルメンターをご希望されても当分野での受け入れが難しいケースもあることはあらかじめご了承ください。その判断のためには資料をいただく必要があります。CV (curriculum vitae, 日本でいうところの履歴書・自己PR・もしあればこれまでの研究実績などを合わせたもの、形式自由)および志望理由・研究プロジェクトの概要を1つのPDFとして用意し、それを添付した状態で指導教員の先生から清水宛に依頼のメールを送っていただいてください (学生さんからの依頼メールにはお返事しません)。日本語よりも英語の方が得意な方は資料は英語でお書きいただいても構いませんが、当研究室が提供する教材は日本語になりますので留学生の方はあらかじめご了承ください (discussionは英語で対応できます)。

添付資料の内容を拝見するために数日お時間をいただいた後にダブルメンターとしての受け入れが可能かお返事します。