清水研と、他の研究室の違い

清水研は東京医科歯科大学の学部とは直接繋がっていないので、大学院受験はみなさん「外部受験」になります。それにも関わらず、大学院見学は2023年には20名もの方が外部からいらっしゃいました。そして最近は「清水研か、〇〇研かで迷っています」という声をよく聞くようになりました。うちのようなできたてほやほやの、30代の若輩者が運営している新参研究室が、〇〇先生のような大御所の先生と比較対象に出てくること自体とても光栄なことです。そういったときには、迷わず〇〇先生のもとで修行した方がいいのではないでしょうか、と答えています。なぜなら、大御所の〇〇先生の研究室に行くというのが「普通」の考えだから。そこはきちんと教えてあげないといけません。ただ私は「チャンスは逆張り」だと思っていますし、これまでずっとそうやって人とは違う道を歩んで来ました。大御所の先生ではなく、清水研を本気で考えている方は全力で応援します。私が考える、大御所の先生と清水研の違いや向き・不向きは次のとおりです。

もうすでにやりたいことがハッキリ決まっている場合、その道の第一人者の〇〇先生の教室に行くのが最善です。単にその領域をやっている人ではなく、その領域では日本一を探すのです。例えばですが、シングルセルの技術開発だと二階堂先生、遺伝統計学だと岡田先生、細菌のメタゲノム解析だと岩崎先生、アプタマー設計だと浜田先生など、すごいご高名な先生方がいらっしゃいますよね。ここで挙げたのは関東の先生方ですが、関西にももちろん素晴らしい先生がいらっしゃるわけです。一生をかけて追いかけたい特定のテーマがあるならば、その分野のトップの先生のところ一択です。

もう1つのアドバイスとして、研究者としての自分の才能に自信がある人はビッグラボに行ったほうがいいというものです。ビッグラボというのはそれだけ人数がいるわけですからボスの目が届きにくくなって結果的に個人の裁量が全てということになりがちです (よくいえば自由、悪く言えば放置型ということです)。放置されても、なんせ自分自身に力があるわけですので何も困りませんし、人数が多いので圧倒的にできる自分が周りをアシストすることで共同研究を次々にできることでしょう。こういう点でも、名のしれた〇〇先生の研究室の方がよいと思います。

あとは、大御所の先生は東大や京大などにいることが多いと思いますが、大学名を気にするなら東京科学大学にある清水研よりも東大・京大のラボを選ぶとよいでしょう。昨今は事情が違うとはいえ、それでも出身大学名は企業に就職する場合は特に見られています。東京科学大学はそういうときに不利に働くはずのない大学ですが、日本のトップネームではないのも残念ながら事実です。逆に研究者になる上では出身大学・大学院の名前は無関係です。私の大学院時代の師匠である中山敬一先生は東京医科歯科大の医学部を卒業し順天堂大学医学部の大学院に行きました (一般的には国立の医科歯科の方が私立の順天堂より上かと思います)し、iPS細胞の山中先生は神戸大学医学部を卒業し大阪市立大学の大学院に進学しました (一般的には神戸大の方が大阪市立大より上かと思います)。大学院は大学名ではなく研究室次第だという好例ですが、それでも日本でトップの大学名がほしい方は清水研ではなく東大にある研究室に行くとよいでしょう。

反対に、〇〇先生の研究室よりも清水研が向く人は、将来的にPIになった後も活躍したい人です。正直なところ、PIになった後にこれまでの活躍は嘘のように何もできなくなる人っていますよね。その最大の原因は、PIの研究力が落ちたからではなく、PIがラボをしっかり運営できていないからなのです。わかりやすく言えば経営センスがないということです。大御所の先生の教室というのはもう出来上がったラボですから、大学院生のレベルでPIの苦悩をうかがい知ることはできません。しかし清水研はできたてほやほやのラボで、いろいろなことを試行錯誤している段階にあります。ラボのセットアップに近いところから参加しているというのは、君たちがいずれPIになったときに大きな財産となるでしょう。すでにプラトーに達したラボに行っても、そういった面で得られるものはないと思います。

あとは、〇〇先生をおすすめする理由と反対なのですが、まだ特定の領域を決めかねている人は専門分野特化型のラボは向かないかもしれません。なぜなら、専門特化ラボはその分野は非常に詳しくなりますが、その他の分野を学ぶことがほぼないからです。変化の激しい今の時代だからこそ、大学院の頃と同じ領域を卒業後40年にわたるライフワークにしてトップジャーナルに成果を出し続けるというのは難しいのではないかとも思います。大学院で少し広い領域のサイエンスを学び、そしてポスドク以降でより専門特化する先生、結構多いですよ。例えばですが、iPS細胞でノーベル賞をとった山中先生は大学院時代は薬理学、特に降圧薬の研究をしていました。再生医療に分野替えしたのはポスドクになってからです。もし専門特化した研究室に行ったとしても、その間他の領域のサイエンスを自分で勉強していないとしかるべき時にテーマをガラッと変えることはできないでしょう。

清水自身はもともと医師であり、さらには生命科学実験系の筆頭著者論文も複数持っています。したがって、情報科学はもちろんのこと、医学・生命科学 (実験を含む) についても厳しく教育します。また、近年は創薬に関することをやっており、物理化学・量子化学等についても大学学部課程以上のことを学んでいただくことになるでしょう。清水研は日本で最もラボ内教育が充実している研究室であると自負しています。あふれるばかりの才能がある人にとっては無用の長物でしょうが、そうでない方にとっては高い倍率を勝ち抜いてアカデミア研究者になれる日本に2つとないラボだと思っています。学生さんにとって日本で一番成長できるラボを目指しています。

これはあまり書くと悪口になってしまいかねないのですが、大御所の〇〇先生がとてもすごすぎて、そこの院生はただの作業員に成り下がっているケースも少なくないです。つまり〇〇先生がテーマを決め、具体的な研究計画を指示し、ほぼ毎日のようにslackとかで院生はやったことと結果を報告し、そうすると〇〇先生 (やその部下の先生) が明日はこれをやれとか指示してくるラボ、実はそれなりにあります。確かにその方がいい論文を効率よく発表できるでしょう。だから卒業したあとは企業 (や病院) に就職して研究ではないことに取り組む予定の方は自分の履歴書を飾る「よい論文」が短い期間にかける可能性が高いでしょう。しかしもし研究者になりたいということだと、大学院時代にそのような「作業員」生活をしていると全然ダメだというのは想像に難くないですね。実際、そういうラボで博士号をとっても、自分の次のテーマすら満足に決められないという、全く立案力のない「博士」がいっぱいいます。君たちが博士号をもった「研究支援員」「技術補佐員」などを目指している (アメリカにはPhD持ちのテクニシャンは一定数います) ならそういう教育でよいと思いますが、ポスドクからまず助教になって、ゆくゆくはどこかで自分の研究室を持ちたいのであれば、「作業員」教育ではいけません

また、研究者としてより長く活躍したい人は清水研の方がいいかもしれません。なぜなら〇〇先生と清水は少なくとも10才は違うと思いますので、みなさんが博士号をとって研究者になった後も〇〇先生より10年以上長く現役でやっているわけです。何か力になってあげられる機会もその分多いでしょう。

いくつか書きましたが、自分と相性のよい先生・研究室メンバーだという要素も大事ですよね。こればかりは実際に見学に行ってみないと分かりません。清水研では年中受付していますし、open labといったイベントも随時開催しています。Biomedical Data Science Clubに参加してみるのもいいですね。いずれにせよ、早いうちからいろいろリサーチをして、みなさんにとっての最適解を見つけてください。応援しています。