研究内容

ミッション / Our Mission

【要約】「データサイエンスで未来の医療を創る」を合言葉にドライ (生命科学や医療データの解析) に主軸を置きつつもウェット (実験) と融合して今の医学では分からないことを解き明かし、病気の予防・診断・治療法を創出することを目指しています。特に、ヒト体内精密情報の成り立ちを解明するため、生命医科学的に深淵でインパクトフルな基礎研究及びそれらを未来医療へ還元するための応用研究を志向しています。この目標のため、多岐にわたるバイオメディカル情報を「測る」、最新の数理・情報科学手法で「モデル化する」「予測する」、そして共同研究者らとともに合成生物学的アプローチにより「制御する」ことで実現します。

【詳細】当研究室は数理モデルとバイオインフォマティクス、それに国内最高峰の計算リソースに基づく人工知能 (AI) を駆使し、異分野にまたがる医学研究を進めています。特に、大規模データ取得とそのデータを使ったデータ科学による仮説形成や真理の類推、および生命科学実験や診療現場における観察を通じた検証実験・臨床研究の3者を統合した三位一体研究を重視しており、実験系や臨床系の先生方とともに未来の医療を創ることを本気で目指しています。

最先端計測機器の登場により、生命現象や病気の原因にかつてないほど大規模にかつミクロなレベルで迫ることができるようになりました。その生命現象は本質的に高次元で非線形であることを考えれば、数理科学、情報学、物理学など、異なる分野で開発されてきた理論や蓄積されてきた知見を利活用することでデータを制することが期待できます。つまり、疾患とその背景にある生命現象の理解のために適切な分野を融合することで、定量的な観点から疾患に迫る次世代の医科学研究を創出できるのです。例えば多階層のオミクスデータと臨床データを組み合わせて難治性の小細胞肺がんの治療標的分子を見つけ (Nature Communications 2020), 開発した創薬AIを使って世界で初めてその分子の阻害剤を見出し、またAIは他の様々な病気の治療薬開発にも有効であることを示しました (朝日新聞, NHK)。その薬をAIも使ってさらに最適化することで、ヒトの臨床検体にも顕著に有効であることを示し、診断から5年後に生存している確率 (5年生存率) が5%しかない非常に予後不良の難病である小細胞肺がんの治療を塗り替えようとしています (論文投稿中)。従来の「薬」の範疇にとどまらず、貧血や脳梗塞等の治療に有用である全く新しい形の分子をAIに設計させることにも成功しました (米国特許出願中)。

このように、私たちの究極の目標は正常の生命現象の破綻としての疾患のシステム的な理解とそれをふまえた上での予防・診断・治療法の開発といった次世代の医療への貢献です。特に、遺伝子の破綻が引き起こすがんや自己免疫疾患、そして最近は環境要因が複雑に絡み合う生活習慣病や病原体による感染症の克服に注力しています。さらに、生体のシステムを理解できればそれを工学的に応用して疾患の診断や治療薬開発に有用な人工遺伝子回路・人工タンパク・人工細胞等が作れるはずです。Biology by Designを合言葉に最新の技術を駆使したAIを開発し医療を志向した生命現象の設計法則の解明と、エンジニアリング (合成生物学) 的な医療への応用に挑んでいます。

異分野にまたがる次世代の医学研究を進めるために、従来の分野の枠にとらわれないスタイルで研究しています。ともに研究を進めていく研究室のメンバーや共同研究者との連携を最大限に活かし、生命医科学分野に極限まで切り込んでいきます。そのために、「人材の多様性」が私たちの研究室の揺らぐことのない基本理念です。他学部や他大学の異なったバックグラウンドを持つ学生さんやポスドクの方が加わってくださるのは特に大歓迎です。さらに、自らフェローシップや一定規模のグラントを獲得して参加される方の研究テーマについては、私たちの研究室が持つ様々なアプローチを活用した幅広いテーマを積極的に受け入れています大学院生については私達の研究領域とも重なる自ら考案したマイプロジェクトにエフォートの一部を割くことを奨励しています。これらはいずれも研究テーマの多様性の中からこそ生まれるチーム型の融合研究やその独創性を重視しているためです。

私たちは、長期的に見ている場所がブレてなければ短期的に見たブレは研究の広がりになると信じています。本学の理念である「世代を超えた人類のトータル・ヘルスケアの実現」および当研究室の究極の目標である「データサイエンスで未来の医療を創る」に向け、短期的には変化し続けるチームでありたいと考えています。変化をすることはチャレンジングですが、その分新しいテクノロジーや知見をいち早く取り入れ革新的な医科学研究に取り組むチャンスが得られます

我々は常に貪欲に学び続け、今の医学では解決できないとても難しい問題に前向きにチャレンジしていきます。

A dream you dream alone is only a dream. A dream you dream together is reality.
by John Lennon

現在の研究内容 / Current Projects

現在の研究はこちらにお示しする種々のグラントからのご支援のもと、遂行させていただいております。

また、当研究室の研究内容 (のごく一部)について、その概要動画ができました。動画は英語ですが、大学からの依頼で英語圏ではない方も容易に理解できるよう1語ずつはっきりとかつ非常にゆったりと話している上に、字幕も付いています。もし少しお時間があれば、部局 (東京医科歯科大学M&Dデータ科学センター) の紹介動画と一緒にご覧ください (センターの紹介動画が撮られたのはAIシステム医科学分野ができる前のことなので私達は出ていませんが)。

以下の研究内容を、次世代医療Group, システム医科学Group, メディカルオミクスGroupの3つに分かれて遂行しています。

Project 1: Bioinformatics for Healthcare

医師としての専門的な知見をベースにして、健康・疾患データならではの課題に対処するための解析手法・ツールの開発や、患者さんの層別化に関する研究を行っています。

バイオインフォマティクスと呼ばれる領域と医療の応用研究により、一例を挙げればTNMステージ分類以上にがん患者さんの予後を層別化する方法を開発し、個別化医療への実現を目指してきました。

がんだけでなく、例えば心電図のみから心臓以外の病気を発見するための方法の構築や、リウマチ・結核・ウイルス感染症等、さまざまな疾患データの解析も行っています。私達の立ち位置は「バイオインフォマティクス」領域ですが、診療データや病院データを積極的に使った「クリニカルインフォマティクス」に取り組みたいという学生さんはこちらの注意事項をお読みください。

Precision Medicine Comes of Age

References

  • Shimizu H, Nakayama KI. A 23 gene-based molecular prognostic score precisely predicts overall survival of breast cancer patients. EBioMedicine 2019
  • Shimizu H, Nakayama KI. Artificial intelligence in oncology. Cancer Sci. 2020
  • Aso H et al. Multiomics investigation revealing comprehensive characteristics of HIV-1-infected cells in vivo. Cell Rep. 2020
  • Shimizu H, Nakayama KI. A universal molecular prognostic score for gastrointestinal tumors. NPJ Genom. Med. 2021
and Others.

Project 2: AI DRUG Discovery

広大な化合物の「海」からほとんど手がかりなしに目的の化合物を「照らし出す」AI創薬システムLIGHTHOUSE (灯台)を開発し、新聞・テレビに大きく報道されました。

現在はLIGHTHOUSEをさらに拡張させ、物理化学法則を取り込んだ創薬基盤プラットフォームの開発をしています。そして、低分子化合物よりも高い特異性・親和性をもつ中分子医薬品のデザインにも挑戦しています。

並行して、投与した薬剤の体内における精密なシュミレーションや副作用の予測法、そしてその分子間相互作用についても解釈可能な方法の確立を目指しています。

QUEST for SMARTER THERAPEUTICS 

References and media

and Others.

Project 3: Systems and mathematical Medicine

生体システムの破綻としての疾患に対し、大規模計測データの数理・情報学的解析によってその病態の理解に深く切り込んでいます。微分方程式やその他の応用数学的手法を駆使し、システム生物学的アプローチを指向しています。

一例として、いわばがんの「アキレス腱」とも言える弱点を探しよりよい併用療法の提案を行っています。また、免疫系が持つ精緻でロバストなシステムを制御工学視点も踏まえ解読に取り組んでいます。

さらに、疾患/細胞ごとの全細胞シミュレーション系の構築を行っています。iPhoneが電話を変革したのと同じく、将来は私達が作ったiHepatocyte等がsingle cellデータ解析等の疾患研究に欠かせないものになるでしょう。

artificial Cell for biomedicine

References

  • Uematsu, Ohno S et al., Multi-omics-based label-free metabolic flux inference reveals obesity-associated dysregulatory mechanisms in liver glucose metabolism. iScience 2022
  • Kodama, Oshikawa, Shimizu H et al., A shift in glutamine nitrogen metabolism contributes to malignant progression of cancer. Nature Commun. 2020
  • Ohno S et al., Kinetic trans-omic analysis reveals key regulatory mechanisms for insulin-regulated glucose metabolism in adipocytes. iScience 2020
  • Onoyama, Nakayama, Shimizu H et al. Loss of Fbxw7 impairs development of and induces heterogeneous tumor formation in the mouse mammary gland. Cancer Res. 2020
and Others.

PROJECT 4: Biologically Inspired computation

広い意味のライフサイエンス研究は、遺伝子クローニング、シークエンス、PCR、RNAi、iPS、ゲノム編集、オプトジェネティクス、次世代シークエンス、シングルセル解析等、新しいテクノロジーが台頭するたびに急速に進展してきました。そして今後も、生命科学に、そして最終的には医療に還元するためには、バイオテクノロジーへの投資が不可欠だと考えています。

東京医科歯科大学で独立後に新たに始めたのが、次世代のバイオテクノロジーとしてのDNAを使った計算科学です。一例をあげれば、パソコンではなく細胞内で行われるパターン認識・畳み込みニューラルネットワークの研究です。これらを拡張し、 (今はSFにしか聞こえませんが) 体内をパトロールし病気を識別してくれる細胞療法の確立や、ゆくゆくはより複雑な回路をインストールし薬を量産してくれる細胞の樹立を目指していきます。

Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic

Project Green

私たちはこれをProject GREENと呼んでいますが、その理由はDNAコンピューターは普通のコンピューターに比べて必要なエネルギーがずっと少ないからです。今はゼロカーボンやSDGsの重要性が叫ばれています。バイオの力を活かした地球に優しい未来の計算手法の確立を目指してProject GREENと名付けました。

もちろん、私達の本当のゴールはGreenのその先にある医療イノベーションです。千里の道も一歩から。SFのような大きなストーリーに地道に取り組んでいます。

Project 5: HARNESSING THE NATURE FOR FUTURE THERAPEUTICS

自然界、特に微生物がもつ性質をデータマイニングし、自然界の設計法則を探求しています。

そしてその法則を活用して、有用な化合物を効率よく作り出すいわば「デザイナーバクテリア」を創出し、感染症やさまざまな疾患治療につなげたいという、野心的なテーマに取り組み始めました。

情報科学と合成生物学の可能性を信じています。

Biology by design

若き勇者求む

この野心的なプロジェクトは「さきがけ」に採択され、始動したばかりです。まだ論文発表はありませんし、世界的にも「微生物のデザイン」はかなり限定的な成功例があるにすぎません。誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げる若き「勇者」を求めています。

チャレンジングなテーマに果敢に取り組み、次世代の医療を一緒に切り開きましょう。

PROJECT 6: Quantum Computing for Biomedicine

Project 2に関連して、AI創薬やその他のバイオメディカル領域の次世代のキラーテクノロジーになると考えているのが量子情報科学です。例えば量子化学は創薬を大きく加速してくれますが、量子計算は量子コンピューターと非常に相性がいいです。

ハードウェア以外の量子コンピューター領域 (アルゴリズム開発など) の研究を行っており、AIと合わせた量子機械学習という分野もあります。

現状の量子コンピューターはまだ真の意味の量子コンピューターではありませんが、生命科学や医学で、従来のスパコンでは太刀打ちできないタスクに量子情報科学でイノベーションを起こしたいと考えています。

Quantum informatics coupled with AI accerates biomedical innovation

量子 x AI領域に切り込みたい挑戦者募集

量子コンピューターはまだまだ黎明期にありますが確実に開発が進んでいます。ハードウェアとしての量子コンピューター開発は大規模な資金と優れたチームがなければなしえませんが、ソフトとしてのアルゴリズムはアイデア次第でさまざまなチャンスがあります。

医科歯科大学に着任後に始めたのでまだ業績はありませんが、医学やバイオのバックグランドを背景に、将来性が非常に注目されている量子情報科学に一緒に貢献しませんか?

政府が重視する領域は「バイオ、量子技術、AI(人工知能)、次世代医療」ですが、清水研では全てを学ぶことができます。