第12回武田財団薬科学シンポジウム (ORGANOID 4D) 参加報告
2025年1月23日・24日の2日間にわたり、大阪コングレコンベンションセンターで開催された第12回武田財団薬科学シンポジウムに参加したため、その報告を行う。
武田科学振興財団が主催する本シンポジウムは、毎年異なるテーマで企画されており、本年度は「ORGANOID 4D: Development, Disease, Diversity and Discovery」と題し、オルガノイド研究に焦点が当てられた。現在、私が参画している研究プロジェクトにおいて、当該分野における近年の技術革新や研究動向の把握は不可欠であることから、今回の聴講に至った。参加者は約200名と規模は限定的であったものの、当該分野を牽引する権威が一堂に会しており、会場では白熱した議論が交わされていたことが印象的であった。一日目には、細胞発生・組織化の基本原理とオルガノイドによるモデリングを主題としたセッションと、疾患モデルとしてのオルガノイドの応用と病態理解・治療創出を主題としたセッションが開かれた。二日目は、オルガノイドを通じて捉える組織・疾患・個体間の多様性や、オルガノイドに関する新たな技術開発や理論的枠組みの提唱についてのセッションが設けられた。
初日は、細胞発生および組織化の基本原理とオルガノイドによるモデリング、ならびに疾患モデルとしての応用を主題としたセッションが行われた。全体を通してウェットな実験系を中心とした研究発表が多く、自身の知見の不足を痛感すると同時に、多大な知的刺激を受ける機会となった。 特に印象に残った講演として、まずユトレヒト大学のHans Clevers氏による発表が挙げられる。これまでのオルガノイド培養では、細胞外基質(ECM)の再現においてマトリゲルの使用が不可欠とされ、コスト面での課題も大きかった。しかし、マトリゲルは必ずしも必須条件ではなく、本質的に重要なのはインテグリン活性化シグナルであるという転換から、細菌の外膜タンパク質をモチーフとした人工材料を活用することで、培養の標準化が可能になるという近年の研究成果が紹介された。 また、ボストン小児病院のCarla Kim氏の肺腺がんの発生機序についての講演では、腫瘍オルガノイドを用いた実験により、AT2細胞がAT1細胞へと分化する過程で生じる一過性の中間状態における機能異常が、発がんメカニズムの背景に存在することが明らかになりつつあるとの報告がなされた。その他多数の講演を聴講し、自身の専門外の領域も含め、幅広い知識を吸収する貴重な一日となった。
二日目の講演の中で特に印象に残っているのはFriedrich Miescher Institute for Biomedical ResearchのPrisca Liberali氏の「組織構築の設計原理」をテーマとした発表である。同氏は、我々の先行研究でも参照しているオルガノイドの表現型解析に関する論文の著書(last author)でもある。講演では腸管の形態形成をモデルに、一過性の単一細胞レベルのゆらぎ、力学的フィードバック、そして遺伝子制御ネットワークが、いかにして時空間的に統合され、再現性の高い組織構築(絨毛–陰窩フィードバック機構など)を生み出すかという問いに対し、深い洞察が提示された。 さらに、EmbryoidやEx uteroの胚培養技術など、オルガノイドよりも広範な空間スケールを扱う技術の発展についても総括され、この分野における技術進歩への追随がいかに重要であるかを再認識させられた。
最後に、両日にわたり行われたポスターセッションについて報告する。本シンポジウムでは、私が参画するプロジェクトの共同研究者である順天堂大学のThanasis Poullikkas氏らが、我々の研究の中でも特にイメージング技術に焦点を当てた発表を行った。オルガノイドからの形態情報の抽出は重要なトピックであり、会場でも多くの注目を集めていた。そこでの議論内容を踏まえ、私自身も、我々とは異なる形態解析のアプローチや、データサイエンスとの融合を試みる他の発表を積極的に聴講した。その中で、注目した一つのトピックはオルガノイド培養の自動化である。2025年に「Physical AI」が社会的関心を集めた流れを汲み、LLMに続くAI活用としてロボティクスとの融合が有望視されている。本会場でも医工学機器メーカー等による培養自動化の発表が散見されたが、現状では既存プロトコルの品質管理(QC)を伴う自動化の段階に留まっている印象を受けた。生命科学領域ではヒト型汎用ロボットによるラボオートメーションも期待されているが、新たなプロトコルの確立までを自動化するには、AIによる能動学習等を活用し、実験の試行錯誤プロセスをシステムに組み込む必要があり、依然として技術的なハードルが高い領域であると感じた。また、意外だったこととして数理生物学的アプローチに基づく研究内容も数は少ないものの発表されていた。例えば、ゼブラフィッシュの体表模様形成をエージェントベースモデルで再現し、パラメータ同定を行うといった研究などの発表も見られ、私の博士課程での研究と非常に近い内容であったため、技術的な詳細に踏み込んだ有意義な議論を行うことができた。ただし、数理的アプローチは現象理解には有効である一方、培養の自動化・データ駆動化という文脈においては、「実際の培養プロトコルをどう改善すべきか」という具体的な示唆を与える解像度での現象との紐付けには至っていない点が、今後の重要な課題であると認識した。
本シンポジウムへの参加は、これまで画像や空間データを中心としたデータ駆動型の形態解析に取り組んできた私にとって、ドライ解析技術のみならず、生物学的なドメイン知識を深め、研究基盤とすることの重要性を改めて実感する機会となった。また、全編英語で行われた講演を通じ、自身の語学力の課題と継続学習の必要性を痛感した。同時に、登壇者らの卓越したプレゼンテーション技術、特に緩急をつけつつ前演者の内容を引用して会場を沸かせるような構成力には深く感銘を受けた。研究内容、技術、そして発信力、どの側面においても一層の研鑽が必要であることを強く認識し、大きな刺激を受けた二日間であった。
今回このような貴重な機会をいただいたことに心より感謝申し上げます。
