研究するならアカデミア? それとも企業?

人生いろいろな選択肢がありますが、大学等のアカデミアで研究をするのか、それとも企業に研究職として就職するのかというのもその1つですね。清水は基本的にアカデミアですが、留学時代はアメリカの企業にも出入りしていましたし、今はいくつかの日本の企業ともつながりがありますし、あとは企業研究者の友人知人はたくさんおりさまざまな話を聞いています。

そこでアカデミアと企業の研究職を比べてみようと思います。

Q1. 私は研究をしたいのですが、企業でもできますか?

会社はそれぞれかなり違うので一般化はできないかもしれませんが、企業の目的というのは営利を追求することですから、その点では全ての会社は同じです。その観点から断言すれば、企業に行くことは『研究の自由』放棄することです。

研究は本来筋書きのないドラマのようなもので、だからこそ面白いといえます。偶然見つかった分子がその後世界を変えたことは多数あり、例えば感染症を劇的に減らしたペニシリンの発見はまさに偶然ですし、日本人ノーベル賞の例で言えばがん免疫療法の標的であるPD-1は当初は全く免疫とは異なるアポトーシス研究から見いだされました。ところが企業の研究だと営利に結びつけるストーリーが描け、その領域しか研究できません。予想外の何かが見つかっても、そこを自由に研究することなんてできません。また、企業は数年毎に研究方針の見直しがあり、上層部が「そのプロジェクトから撤退しよう」と決めれば、うまくいっている研究でもそこで打ち切りになります。研究者個人にとって面白いか面白くないか、なんて企業にとっては全く関係ないのです。何をしたいかも自分で決められず、していることが理不尽に変更を余儀なくされる。これが「研究の自由を放棄」という意味です。研究者はクリエイターであるべきですが、企業に勤める以上、その実態はサラリーマンと同じなのです。たとえ今は好きなことを企業で研究できていたとしても、それはたまたま今の企業の目的と一致しているからに過ぎず、それが永続する保証はどこにもありません。

企業でも研究はできるが、あまり期待しないほうが賢明でしょう。サラリーマンなのですから、当然ながら配置換えもあり、研究とは違う部署にいくことだってよくあります。そもそも研究部門をまるごと売却することだってあり、そうするとそこの研究者の雇用は全く保証されないでしょうね。昨今は大企業でも統廃合は増えていて、直近だとオリンパスの事例が有名です。

Q2. 企業とアカデミアの大きな違いを教えて下さい。

企業の研究者が恵まれているなと思うのは、アカデミア研究者と違い研究費を自分で獲得しなくてもいいということです。また、一般に同年代のアカデミア研究者と比べれば待遇はいいことが多いと思います。

企業の研究者と共同研究をさせていただく中で見えてきた文化の違いとしては、企業では製品開発やそのための特許の獲得が何より重要で、アカデミア研究者が目指す学術論文発表にはほとんど関心がない企業も多いです。例えばCellという雑誌を知らない生命科学系のアカデミア研究者はいないと思いますが、企業の研究者にはCellをご存じない方もちらほらいます。一文にもならないCellに載せることよりも、自分が研究開発した製品がいくら売り上げるのかというのが大きな関心ごとであり、その点の価値観は企業とアカデミアで大きく違います。

Q3. アカデミアの短所はなんですか?

アカデミアは自由に研究できるというのが最大のメリットなのですが、逆にそのための研究資金を自分でgetする必要があるというのは大きなデメリットです。

また、昨今はアカデミアポスト (俗にアカポス) 獲得はどこも競争が厳しいので、アカデミア研究者になる方が企業の研究者になるよりも難しいと思います。よく「企業もいいしアカデミアもいいな」「臨床もいいし研究もいいな」という学生がいるのですが、私の経験上、そのような中途半端な学生がアカポスについた例はありません。「絶対にアカデミア研究者になってやる」という強い覚悟がなければ大学院時代に競争に生き残れるだけの成果を出すことなんてまず無理です。また「企業もいいしアカデミアもいいな」という学生のほとんどは企業に就職しますが、研究職ではありません。企業の研究職だって倍率は高いので、中途半端な学生が卒業までにその水準に達するのは不可能とはいいませんがかなり難しいでしょう。

アカデミア以外の道は考えない、そのつもりで学問の道を一心不乱に探求し、その結果として企業にせよアカデミアにせよ研究ポストを得る、というのが実態です。