CBI学会2024 参加報告

10/28~30の日程で舟堀タワーホールにて開催されたCBI学会2024年大会に参加した。過去に複数の学会に参加したことはあったが、情報系に特化した学会に参加するのは初めてであり、多くの新しい知見を得ることができた。以下に、本学会で特に印象に残ったセッションや講演、学びのポイントを報告する。

初日は計算ADMET研究会が主催するチュートリアルセッションに参加した。このセッションは全4時間に及び、前半はalvaDescおよびYASARAのハンズオンセミナー、後半は薬物動態予測モデルの作成を含む内容で構成されていた。alvaDescは分子記述子を計算する強力なツールで、1次元から3次元の記述子を含む5000以上の記述子を計算可能である。その豊富さには驚かされ、分子の特徴を詳細に表現するためにこれほど多くの記述子が存在することを初めて知った。一方、YASARAはタンパク質やDNAなどの生体高分子の可視化・モデリング・シミュレーションを行うツールである。ハンズオンセミナーでは、HIVプロテアーゼとその阻害剤を用いた分子動力学(MD)シミュレーションを実施し、実践的なスキルを習得することができた。後半では化合物の構造から血漿タンパク質非結合率を予測する薬物動態予測モデルを作成した。Jupyter Notebookを用いて、データの前処理~モデルの評価を一気通貫で体験した。ユーザー側の視点から、予測精度だけではなく、予測の信頼性も提示するべきだという説明があった。予測の信頼性の表現方法は様々な手法があり、今回はデータの密度を基に信頼性を提示するといったアプローチだった。さらに、薬学系ではない人々に対して、どのように薬物動態を説明するのかという視点も学ぶことができた。専門外の人々に対して、難解な理論や専門用語をどのようにわかりやすく伝えるかは、今後の研究発表において非常に参考になるポイントだった。本セッションで用いられた説明を参考にして今後の発表準備において大いに参考にしたい。

2日目は中外製薬の角田浩行先生の「中外製薬の創薬プロセスにおけるAIの活用と今後の展望」と明治薬科大学の植沢芳広先生の「Ames/QSAR国際チャレンジおよびTox24チャレンジからみたQSAR予測の到達点」が印象に残った。角田先生は創薬におけるAI活用の具体例を紹介し、同社独自のAI技術「MALEXA-LI」及び「MALEXA-LO」を用いた抗体医薬品の最適化プロセスについて述べていた。この技術により、リード抗体の選定と最適化において、AIを駆使した高精度な親和性評価が可能となり、迅速かつ低コストで高親和性の抗体を選定することが可能となったと述べていた。ロボティクスを活用した実験自動化のプロセスでは、1週間に2000の抗体データを生成することが可能となり、これによってベイズ最適化を用いた効果的な開発が実現された。角田先生は、デジタル人材育成の取り組みや、AI技術の活用が研究開発プロセスの変革をもたらし、プロジェクトの迅速な進行とコスト削減に寄与していることを説明した。さらに、MALEXAシリーズを他の創薬プロジェクトに適用することで得られた成果や、同社の技術基盤がどのように次世代の医薬品開発を支えているかが論じられた。一方、植沢芳広先生は、国立医薬品食品衛生研究所が主催した第2回Ames/QSAR国際チャレンジおよび第33回人工ニューラルネットワーク国際会議が共催したTox24チャレンジに研究室チームで参加した経験を共有した。植沢先生のチームは、統計ベース(QSAR; Quantitative Structure-Activity Relationship)と知識ベース(ルールベース)のアプローチを駆使して予測精度を向上させる工夫を行い、高精度の予測結果を達成した。QSARの精度向上には、新規アルゴリズムの開発や豊富なトレーニングデータの利用が重要であると強調された。知識ベースのアプローチにおいては、どのような法則をモデルに組み込むかが肝心である。植沢先生の講演で紹介されたチームの工夫と経験は、自身の研究にも取り入れられるヒントが多く含まれていたため、今後の研究にぜひ応用していきたいと考えた。

3日目の国立医薬品食品衛生研究所の本間正充先生の「ICH-M7ガイドラインの現状と構造活性相関の利用」と大阪大学蛋白質研究所の水口賢司先生の「薬物動態の統合解析プラットフォームDruMAP」の2つの講演を紹介したい。本間先生によると最新のICH-M7ガイドライン「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中 DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理」では、変異原性の評価QSARの利用が推奨された。これは、化学物質の安全評価において、生物学的試験に替わりQSARの利用が認めれた世界初のガイドラインである。これを機にQSARによる変異原性の予測精度は飛躍的に進化した。最近では新たな不純物としてN-ニトロソアミン化合物が問題となっており、近々、ICH-M7で補遺の策定が開始される。ここでは、N-ニトロソアミン化合物の構造特性からその変異原性(発がん性)の強さを予測し、許容限度値を設定するCarcinogenic Potency Categorization Approach (CPCA)の利用などが現在規制当局で議論されている。このような知見を基に知識ベースの毒性予測モデルなど示唆されていた。製薬企業やその関連企業が具体的にどのような予測モデルを求めているのかを理解する機会にもなった。水口先生が開発したDruMAPは、機械学習技術を活用して複数の薬物動態指標を同時に予測するためのプラットフォームであり、その設計にはChEMBLやCTD、IFなど多様なデータソースを統合し、データキュレーションの質を向上させる技術が採用されている。これにより、ADMETの統合解析を一貫して行える環境が構築されているという。さらに、排出トランスポーターであるP-糖タンパク質の影響を考慮した脳移行性の予測を含め、複数の薬物動態評価を一元的に解析できることが示された。また、企業とのデータ共有の課題に対しても、連合学習を用いたモデル共有により秘匿性を保ちながら研究を進める手法が紹介され、ヨーロッパのmelloddyプロジェクトなど国際的な取り組みを参考にした地域を超えた協力の必要性も強調された。これにより、世界規模での医薬品開発の加速が期待され、特定の疾患に対応する新しい治療法や予防法の開発がさらに促進されることが期待される。このプラットフォームの利用により、研究のスピードアップと効率化が期待でき、私自身もこの技術の一部を自分の研究に取り入れたいと強く感じた。特に、連合学習のアプローチはデータの秘匿性を保ちながらも研究を進める上で非常に有用であり、今後の共同研究などの機会があれば、積極的に活用していきたい。

最後に、2日目と3日目のポスター発表セッションについて述べる。全体で約140件のポスターが掲示され、会場は非常に熱気に満ちていた。発表内容は計算科学や臨床インフォマティクスなど多岐にわたり、さまざまな分野の研究成果が披露された。CBI学会の年会に毎年参加している参加者と話す機会があり、その方は「ここ数年で発表の規模や活気が年々増している」と述べており、特に一昨年から今年にかけての成長は顕著だと感じているという。その成長の背景には、AI技術が様々な分野で活用されていることや、データ解析手法の高度化が大きく寄与しているのではないかという話だった。このような進展に触れることで、常に最新の手法を学び、積極的に自分の研究に取り込みたいという意欲が湧いた。質疑応答の中では、質問に対して発表者が柔軟かつ的確に対応している様子が印象的であり、これにより研究内容への理解が一層深まるだけでなく、ディスカッションを通じて参加者全体が知見を共有する場にもなっていた。今後、学術変革会議Aのリトリートや分子生物学会で初めてのポスター発表に臨むので、本学会で学んだことを最大限に活用し、効果的な発表ができるよう準備を進めたい。

以上がCBI学会2024年大会での主な学びである。多くの講演やセッション、ポスター発表を通じて、AI技術やデータ解析の進展がどのように医薬品開発に貢献しているのかを深く理解することができた。これからの研究活動において、得られた知見を活かし、より良い成果を目指して取り組んでいきたいと強く感じた。

博士課程1年・鈴岡 拓也