国際学術誌に論文発表した学部生の声

この度、清水教授の下でオンライン研究チャレンジに参加させて頂き論文発表させていただきました (Hozumi, H., & Shimizu, H. PNAS Nexus 2023)、平塚市民病院研修医 (当時慶應義塾大学医学部6年) の保住英希と申します。

医学部はどこもそうですが、大学に入ってから純粋数学を学ぶ場面はありませんし統計も軽く触れて終わってしまうことが殆です。しかし、私の代はコロナ禍で時間ができてしまったため、それを期に統計と機械学習の勉強をはじめました。とはいえ6年に上がる前に壁に当たりました、それは教科書や資格で学ぶにしても限度があるということです。手術の本を読んでも高難度手術ができるようにならないのと同様で、いくら機械学習モデルを作っても解決する課題が目の前に無いと真に生きた知識が得られません。

それを解決すべく、清水教授にお願いしてZOOMで定期的な面談を繰り返してオンライン研究が始まりました。まずはテーマ決めです。解決しなければならない臨床課題と現場のニーズの乖離を見つけなければなりません。私の場合は抗がん剤の効果予測モデルの精度を解釈可能な形で担保するというテーマでした。病院実習で上級医とディスカッションして得た知見やレポートの際に読んだ論文の蓄積が活きた場面でした。

次はどのようにそれを解決するかの手段を決めなければなりません。新規性を出すには該当分野の論文を読み込んで隙を見つけなければいけません。深層学習や機械学習は勉強していたのでその応用を考えましたが、そういったメジャーな手法で素人が思いつきそうな解法は大抵は試されており、清水教授の豊富な知識にも打ち負かされては別の方策を考える日々でした。結果的にネットワークモデルというそれまでは一ミリも使ったことのないものを採用しましたがそれをきっかけにグラフ理論の勉強に繋がったので本当に運が良かったと思います。

結果が出たら論文の仕上げですが、Discussionの肉付けやResultの見せ方なども多くの場面で自身の知識や学術的な考え方、問いの投げ方がブラッシュアップされていきました。Reviseへの対応も大変でしたが、それを通して研究発表する側にどういった視点や結果が求められているのかを体感する良い機会でした。

ここで得たものは1.論文をより批判的に読む力、2.常に応用可能性を考えてモデルを勉強する視点、3.知識を広げる力の3つです。論文を読んでいても、その筆者らが何ができて何ができなかったのかを深く理解するには自身も壁にぶつかることが有効だと思います。自身も壁にぶち当たったからこそ、論文の筆者らの心境を理解できると思いますし、それを理解できるからこそ次にどういった研究が求められているのかを理解しやすくなると思います。次に、応用可能性です。新しいモデルを学ぶにしても、その学びを駆り立てる力が必要です。論文を執筆したことで感じたハードルやもっとこうした!という思いが新しい分野を学ぶ際に「これをどう使ったら自分の課題を解けるのか?」という方面に頭が進むはずです。これは、自分で研究テーマを設定して解くという経験があってこそのものだと思います。最後に知識を広げる力です。やはり数学的ハードルやプログラミングのハードルは高いと感じる場面は多々ありますが、それでも色んな分野の知識をBDSCで得たからこそ少しずつでも「このプログラムは何をしたいのか」「この数式は何を与えてくれるのか」という目的志向で解釈をすることができるようになりました。

このページを見ている人は、少なからず医療/医学×AIの可能性に興味を抱いているのだと思います。確かに超えるべきハードルは多く、通常の臨床研究や基礎研究の倍以上の労力を費やす必要があるかもしれません。しかし、皆さんのドメイン知識を活かして新たな医療を実現するという点では強力な武器となるはずです。今は前提知識がなかったとしても、恐れずに私たちの仲間になってBDSCや勉強会など清水研の様々なツールを活用していきましょう!誰もが最初はゼロからスタートします、早ければ早いほど多くのものを吸収できます!

保住 英希さん
慶應義塾大学医学部医学科 卒
在籍期間: 2022.4~2023.3