2019年春、メールを送るも何の音沙汰もない、そんな日々を過ごしていた。日本でいくつか論文を出し、次はさらなるステップアップのためにアメリカ留学を考えていた頃だ。多くの医師の場合は医局などのいわゆる「コネ」があったりしてすんなりと留学先が決まることも多いらしいが、私にはそれがなかった。それでいて留学先は世界でも指折りのトップラボに絞っていたから、返事が来ないのも無理はない。だからハーバード大のPamela Silver (以下Pam) からお返事をもらった時には驚いた。Pamはノーベル賞こそ逃したもののGFP研究の初期から高名で、特にGFPを使った核・細胞質間の輸送の可視化とその数理・システム生物学的アプローチでCNSに数々の論文を発表してきた人だが、15年ほど前からはシステム生物学から得られた自然の原理を合成生物学的アプローチでものづくりに活かすという研究をしていた。Harvard Medical Schoolのシステム生物学部門の高名な教授から、CV (履歴書) を読んでいただき、面接したいというお返事が来たのだ。
3月19日午前2時、深夜のラボでSkypeの画面越しにPamと初めて面会し、自己紹介と、これまでやってきた研究、そして今後取り組んでいきたい研究をプレゼンした。また、その後古参のラボメンバーであるRogerとも面談をさせていただいた。正直なところ彼らの話はところどころ聞き取れていなかったのだが、後日Pamから”I would be wiling to consider you if you can get your own fellowship.”という正式な連絡をいただいた。アメリカのトップラボは世界各国から「給料を自分で用意するから研究させてほしい」というポスドク希望者で溢れかえっていて、ボスが給料を全て出すというのはトップラボでは極めて稀なケースだ。「留学フェローシップを取れるなら考えてもいい」というのは、取れれば採用するというような意味だ。
Harvard Medical SchoolのDepartment of Systems Biology (システム生物学部門) およびWyss Institute for Biologically Inspired Engineering (合成生物学研究所) の2拠点の所属だった。コロナ禍での留学で、ラボ間の直接の交流はほとんどなかった (オンラインが中心) し、現地にある日本人研究者の会も対面でのmeetingは全くなかったのはとても残念だが、それを差し引いてもとても貴重な経験をさせていただいた。
Harvard Medical School中央にある芝生スペース。平時ならいろいろなイベントが行われる。