医師国家試験の合格率は90%もあり、世間的には簡単な試験だと思われている。しかし実際には大きな間違いである。医師国家試験を受けるためには医学部を卒業しなければならず、大学入試から始まり、全ての科目に合格して (医学科は全部必修科目なので1つでも落とすと留年する)、総まとめである卒業試験もクリアした人のみが受験する。さらに、「普通」は国家試験に向けて大学受験の頃のように半年以上前から1日10時間など勉強するので、合格率が高いのはそのためである。

しかし清水は「普通」ではなかった。国家試験の勉強はそこそこに、当時通っていたラボで研究をしていたのである。もちろん国家試験の当日 (当時は3日制だった) も、朝一で研究をして、仙台市内の国家試験会場に向かい、そして夜はまた研究をするスタンスだった。いろいろな人に心配していただいたが、それでもなんとか (?) 合格することができた。

研修病院は「マッチング」という厚生労働省の仕組みで指定される。学生側は希望の病院を順位をつけてシステムに登録し、一方で病院側も希望学生に順位をつけてシステムに登録する。相思相愛で第一志望の病院&第一志望の学生同士なら文句ないが、あとは希望の上位から席が埋まっていくというからくりだ。清水の場合、東北大学がある宮城県内、あるいはその隣接県を志望していた。東北地方の出身者ではないが、大学5年の春休みに宮城県沖で大震災があり、学部6年を過ごした地域に微力ながら貢献したいと思っていたからである。

岩手・宮城・山形・福島県を代表する中核病院をいろいろ見学にいって、最終的に岩手県立中部病院を第一志望にした。もちろん各科が揃っていて、救急車を断らず (周りに大きな病院がないので) 特に休日・夜間はその50万人圏内の全ての救急患者がやってくること、そして病院が小さすぎず大きすぎずスタッフの方々がアットホームだったことなどが大きな理由だ。病院側は私を何位にしていたのかは知るよしもないが、2012年採用の8人の研修医の1人に選んでいただいた。