この記事は主に現在 医療現場で働いている方や社会人の方で、そこを辞めて清水研の大学院に入りたいという方を対象に書いています。
2025年度入学希望者より年齢制限を設けます
【PIを目指すための修行開始時期について】
私達の大学院受け入れ条件の1は「将来的に博士号取得を経て学術/産業/医療界でのPrincipal Investigator (アカデミアの教授・企業の研究本部長等)を本気で目指している方」です。本気でPIを目指すためにはearly careerのうちから覚悟を決めて&情熱を持って修業しなければなりませんので、次のように年齢制限を設けることになりました。
- 修士課程入学希望者: 入学時点で、25才以下であること
- 博士課程入学希望者: 入学時点で、30才以下であること (生命科学実験はこの年齢からでも問題ありませんが、頭脳を使う数理情報科学はこの年齢がトレーニングを開始できる一番最後の年です)。ただし下記の条件※を満たす方は32才以下であること (卒業は36才になり、その翌年に海外留学のための「37才以下」のフェローシップに出せるギリギリのタイミングです)。
- 社会人博士課程入学希望者: 年齢制限はありません (ただし代わりに卓越した実績が必要です。社会人コースはいろいろな制約がありますし、PIを目指す訓練はしません)
一言補足をしておくと、清水の学部時代に師事した堀井明 教授は30をすぎてから大学院に入った先生ですし、30をすぎてから (年齢上の) 遅れを取り戻すためにひたむきに (堀井先生は週100時間以上ラボで研究をしていたと聞いていますし、iPS細胞の山中先生はどうやったら人の3倍の研究ができるかを常に考えていたといいます) 研究に取り組みPIになる方がごく一部いらっしゃるのはもちろん存じ上げています。ただ事実としてより若い世代でトレーニングを始めた方の方がずっと高い確率でPIになっていますので、私達のマンパワー的にこの制限を設けています。もしこの年齢制限に引っかかってしまうが、どうしても私達にデータサイエンスを見てほしいという方がいらっしゃいましたら、うちでは受け入れできませんが他の研究室に入学した後にそこの先生に頼み込んでダブルメンター制度に応募するということは可能です。合わせてご検討ください。
また、これはあくまで清水研の受け入れ基準であり、本学の大学院には年齢制限は存在しないことを申し添えます。本学に入学したい方は他の研究室にご相談ください。
【年齢制限を設ける理由】
清水研では2023年度入学、および2024年度入学希望の方までは年齢に関係なく面談にお越しいただきました。しかしそれでよく分かったのは、年齢が上の方はあまりに考え違いをしている人が多い or 研究でやっていくという熱意や覚悟がない ということです。例えば、初年度に入学を許可した臨床を6年やってきた産婦人科医はわずか3日で休学し、その後に退学しました (ご本人が書いた私が大学院を辞めた理由も参照)。確かに30代 (やそれ以上) ともなれば、結婚・出産・子育て・親の介護等、人によってさまざまなライフイベントや守るものがあるもので、20代と同じように修行に打ち込むのはできないというのは理解しますが、それでプロの研究者になろうというのは難しいですよね (お医者さんには分かってもらえると思いますが、1年目研修医のうちからプライベートがあるので平日9時5時のみ研修します&当直や夜間オンコールや土日は対応できません、という姿勢では3流の医師にもなれないでしょう。私たちの研究室は病院と違って当直も夜間コール対応もありませんが、堀井先生や山中先生のように猛烈な修行が必要です)。
2024年度入学希望者は、シニアな方々は私達の選考基準を満たす方が誰一人としていらっしゃいませんでした。そういうシニアな方が私達の研究室見学のために準備をするのも、反対に私達がシニアなゲストに毎回2時間以上もお相手するのも、結果的にお互いに時間の無駄になってしまいました。それに、当研究室は本気でPIになりたい方を育成すると明記しているわけですが、博士号をとったときに例えば40才ですと、海外留学に行くとか自分でグラントをとるとかいう時に非常に不利に働きます。例えば「上原財団」というところの海外留学のためのフェローシップは37才以下でないと応募できませんし、若手研究者向けのグラントの多くは39才までを対象にしています。つまり、年齢が上の状態で入学した場合、博士号をとった時点でもう大御所の先生たちと台頭に渡り合わないといけなくなってしまいます。思い返してみれば、私の大学院時代の前後5学年 (合わせて10学年) で臨床を6年以上やってから来た医師は10名以上いましたが、結局みんな研究者としては生き残れず、大学院を退学したり臨床に戻ってしまいました。
また、これはもう致し方ないことですが、何をするにも適齢期というのが存在します。例えば母国語を身につける赤ちゃんの驚異的な能力を10才になっても持っている人はいないでしょうし、スポーツ選手なら活躍できるピークは20代であり、35才になっても現役という方は稀でしょう。私達の研究室は数理や情報科学を得意としていますが、これら数理的な「頭脳が全て」の世界も若年時代に厳しい訓練をしないと難しい領域です。将棋の藤井聡太さんが20才で名人になったように、アインシュタインが25才で相対性理論を発表したように、数学のノーベル賞とも言われるフィールズ賞が40才未満の人物にしか与えられないように、30代中頃になってから本格的な訓練をしてもPIになるのは極めて困難でしょう。もちろんある程度のところまではいくと思いますし、博士号はとれると思いますが、清水研はそういうところではありません。私達は、受け入れた学生が希望すれば将来的にPIを目指せるよう徹底した教育を行いますが、逆に独立した医科学者になるという観点から見て修行を開始する適齢期をすぎている方には責任を持ってPIに育て上げることができないので受け入れできません。
あなたのライバルたちは22才で学部を卒業し、24才で修士をとって、27-28才で博士号をとっているということをお忘れなく。博士号をとった瞬間、28才で博士号をとってそれ以降もバリバリ研究をやっている人との勝負になります。大学受験で浪人をしたからとか、少しばかり医療現場で働いてきたからとか、そんなのは何の言い訳にもなりません。博士号をとったときに同い年のライバルに追いついていなかったら研究者はほぼ無理でしょう。人生100年時代といいますし、5年程度の遅れは清水研で全てを捨てて武者修行すれば取り返せない遅れではないと思いますが、さすがに10年遅れは無理です。
このような事情から、清水研においては入学時点で上記のような年齢制限をすることといたしました。
私達は、本当に研究がしたい、研究を仕事にしたいという方だけに絞って、そのぶん濃密な教育を行います。その裏返しになりますが、単に修士号なり博士号という学位がほしいだけの方を受け入れする余力はありません。うちと異なり、世の中の大半の研究室は学生は一種の「無給で働く労働力」とみなしていますのでとても重宝してくれるでしょう。本気で研究者を目指していない方は、そういったラボを訪問してください。なんせそういうところは学生さんをただの「労働力」としか思っていないので、ほぼ何も教育はないと思いますが、お目当ての学位はいただけるでしょう。実力が伴わない名ばかりの学位とはいえ、研究者を目指していないわけですからそれはそれで一つの進路かと思います。
人生は常に選択の連続であり、「どっちも」というのは難しいですよね。サッカーのプロであり、かつ野球のプロである人はいません。ピアノのプロであり、かつバイオリンもプロという人もいません。一流の医師であり、かつ一流の弁護士である人もいません (医師で、ただ司法試験に合格しただけのペーパー弁護士は山ほどいますがテストがちょっとだけ得意というのをひけらかしても社会には何の価値も生み出しません)。一度しかない人生をどうしようが (他人に迷惑をかけない範囲において) その人の自由ですが、もし人生で何かを成し遂げ、それを未来につなげたいのなら、そこに全力投球しなければいけませんよね。私達は「アカデミア研究者になり未来の医療を創る」というその一点に特化して、みなさんを全力でサポートする日本で唯一の研究室です。