第70回日本リウマチ学会総会・学術集会 参加報告

4月22日から24日にかけて開催された日本リウマチ学会年次総会に参加した。本学会では、リウマチ性疾患・膠原病を対象とした臨床研究から基礎研究、さらにオミクス解析やシングルセル解析を用いた先端的研究まで、幅広い発表を聴講することができた。自己免疫疾患の病態解明と新規治療法開発に向けた研究が急速に進展していることを実感するとともに、自身の研究の方向性を考える上でも大きな刺激を受けた。

初日の午前中はシンポジウム1「膠原病における難治性病態の解明」を聴講した。東京大学の藤尾圭志先生と本学の保田晋助先生といった、本邦のリウマチ・膠原病診療および研究を牽引されている先生方から、それぞれ全身性エリテマトーデス(SLE)・炎症性筋疾患についての最新の病態理解を学ぶ機会となった。特にSLEにおいては、I型インターフェロン刺激を起点として、peripheral helper T細胞やThA細胞などのT細胞系が関与し、atypical B細胞の活性化につながるという知見が印象的であった。また、B細胞側ではIGHV4-34陽性B細胞が注目されており、疾患活動性や治療抵抗性との関連が示唆されている点も興味深かった。炎症性筋疾患については、筋細胞死にnecroptosisが関与すること、さらにPD1陽性CD8陽性T細胞やRasGRPを発現するマクロファージが病態に関わる可能性について学び、従来の臨床的分類だけでは捉えきれない免疫細胞レベルでの病態理解の重要性を感じた。

また、シンポジウム3「オミクス研究最前線」では、新潟大学の松本雅記先生からプロテオーム解析の発展について学んだ。近年の質量分析技術の進歩により、単なるタンパク質発現量の測定にとどまらず、合成・分解速度、N末端構造、細胞内局在、複合体形成など、タンパク質の多面的な状態を統合的に解析できるようになっている。疾患病態の理解において、トランスクリプトームだけではなく、実際に機能を担うタンパク質の動態を把握することの重要性を改めて認識した。

二日目は国立国際医療センターからの発表が多くあり、その発表を中心に聴講した。同施設では、産官学共同プロジェクトGAPFREE4として、2020年度から5年にわたり関節リウマチ、SLE、シェーグレン病、強皮症,多発性筋炎・皮膚筋炎を対象に、臨床データに加えて自己抗体、DNAメチル化、プロテオーム、シングルセルトランスクリプトーム、空間トランスクリプトームなどの多層的なデータが蓄積されてきた。今回の学会ではそれらの個別解析の発表が中心であったが、今後これらのマルチモーダルなデータを統合した解析をおこなっていくとのことであり、自己免疫疾患の新たな分類や治療標的の同定につながる可能性を強く感じた。

二日目は若手医師による臨床クイズ企画であるリウマトロジー・チャンピオンシップも印象に残っている。結晶性関節炎の顕微鏡所見や消炎鎮痛薬の使い分けといった比較的身近な内容から、自己免疫疾患診療に関する専門的なtipsまで幅広く扱われており、単なる娯楽的企画にとどまらず、臨床知識を整理する上で有意義であった。正直自己免疫疾患診療の専門的な内容は、自分にはさっぱりわからないものも多かったが、若手医師にもかかわらず短時間で正答を出す登壇者の先生方の知識力には大いに感銘を受けた。

また、この日は幸いにもMeet the expertの藤尾圭志先生のセッションである「まだ教科書に載っていないリウマチ性疾患において重要な免疫細胞たち」のチケットを入手することができた。Meet the expertは少人数のワークショップでその道の専門家の方から最先端の研究の情報をお聞きすることができるセッションであるが、藤尾先生のワークショップでは、先述のシンポジウムⅠの内容からさらに発展して、SLE・関節リウマチ・シェーグレン病のそれぞれにおいて、疾患の複雑性・不均一性に寄与することが最近わかってきた色々な免疫細胞について幅広く学ぶことができた。関節リウマチにおけるAMPプロジェクトのような大規模データベースが整備されてきたことや、空間トランスクリプトーム解析などの技術がリウマチ膠原病研究の世界で普及してきたことから、近年加速度的に様々な疾患関連細胞種たちが同定されてきているということを実感した。

三日目は、International Concurrent Workshop という英語の発表セッションを中心に聴講した。特に29番の炎症性関節炎のトランスレーショナルリサーチに関するセッションでは、関節リウマチや脊椎関節炎を対象として、ヒト検体と動物モデルを組み合わせた研究が多く発表されていた。関節リウマチにおけるTph細胞のTCRクロノタイプ解析、脊椎関節炎におけるIL-7による糖代謝制御とCD8陽性T細胞活性化、IL-26による線維芽細胞様滑膜細胞の活性化など、いずれも免疫細胞、代謝、サイトカイン、組織微小環境を横断的に捉える研究であり、疾患病態を多層的に理解する必要性を強く感じた。

この日は自身もポスター発表を行った。発表内容は、Virtual cellの技術を免疫細胞に応用したVirtual immune cellに関するものであった。手元で用意できた小規模データに基づく予備的な結果ではあったが、得られた知見がリウマチ専門の先生方の経験や既存知見と整合しているとの意見をいただき、非常に励みになった。また、多くの先生方と議論する中で、免疫疾患研究におけるAI活用への期待が高いことを実感した。

午後に聴講したリウマチ性疾患の基礎研究のワークショップでは、慶應義塾大学医学部/理化学研究所生命医科学研究センターの河野通大先生のご講演が特に印象に残っている。というのも、ご発表の内容はT-scanの技術を用いて疾患関連TCRが認識する抗原を同定するという研究であり、まさにAIによるTCR-pMHC予測技術開発という自身の研究とも密接に関わる領域であったためである。実際にその技術を自分たちで再現実装してこられたとのことで、wetでTCR-pMHC結合測定を行うシステムについて、具体的なイメージを持つことができた。

全体を通じて、本学会はリウマチ性疾患の臨床と基礎研究が極めて近い距離にあることを実感させる場であった。症例報告やサブグループ解析のような臨床に根差した発表に加え、診療を通じて得られた検体やデータを用いて病態を解明し、新たな治療へつなげようとする研究が数多く行われていた。一方で、GWAS、eQTL、トランスクリプトーム解析などのバイオインフォマティクス研究は多く見られたものの、AIを本格的に組み合わせた研究はまだ限られている印象を受けた。臨床データと研究課題が豊富に存在するこの領域にAI研究を導入することで、自己免疫疾患研究をさらに加速できる可能性がある。この点で、我々のような医療の世界でAI研究を加速させていく存在が参入していくことの価値があるという確信を得ることができた。今回の学会参加を通じて、今後は多くの臨床家・研究者と連携しながら、AIを活用した自己免疫疾患研究の発展に貢献していきたいと強く感じた。

博士2年・中西 一貴