正常細胞においては、有酸素下ではグルコースは解糖系を通ってピルビン酸になった後にミトコンドリアのクエン酸回路に入り、逆に嫌気性条件ではピルビン酸は乳酸になります。一方でがん細胞では酸素があってもなくても、グルコースはピルビン酸を経由して乳酸になる。これが1920年代に報告されたワールブルク効果の概要で、生化学の教科書にも載っている非常に有名なものですが、その意義は100年間解かれていませんでした。

そこで我々は「大規模データ計測」「データ科学」「生命科学検証実験」の3つを組み合わせた「三位一体」アプローチによりこの重大な謎に挑戦しました。

その結果分かったことの1つは、ワールブルグ効果は副産物であり、グルコースはペントースリン酸経路経由の核酸合成経路が主であることです。そしてもうひとつ、炭素代謝だけでなく窒素も大きく変わっていて、がんにおいてはPPATという代謝律速酵素が過剰に働き窒素代謝をスイッチのように切り替えて核酸合成を優位にしていることも分かりました。

PPATが特に小細胞肺がんの治療標的になることをデータ科学で予測し、さらに生命科学実験で実証しています。

100年の謎を解き明かし、有効な治療法がまだない小細胞肺がんへのアプローチを切り開いた研究です。

この研究はプレスリリースも出しています。