乳がんは女性で最も多いがんであり、長期再発が多いことが知られています。さまざまな研究の結果、腫瘍細胞の一部はかなり早期のうちに原発巣を離れ、骨髄中に移行し、そこで「じっとしている」状態になることが分かっています。この遠隔臓器、特に骨髄で「じっとしている」がん細胞、播種性腫瘍細胞 (DTC) はほとんど静止期 (G0期) にとどまる (図左上) ため、パクリタキセルなどの一般的な抗がん剤 (増殖の速い細胞を殺す薬) が効かず、残存してしまい、それが長期的な再発の原因になっています。

私たちは臨床データの解析等から、DTCにおける静止期維持分子としてFbxw7に着目しました。Fbxw7はE3ユビキチンリガーゼであり、その代表的な基質はc-Mycで、正常ではユビキチン付加によりc-Mycタンパクの分解を促すことでいわば細胞周期にブレーキをかけています。そしてDTCにおいてはFbxw7の発現量が高まり、そのブレーキがさらに強まる結果、腫瘍細胞にも関わらずG0期にとどまっているのです (図右上)。

そこで私たちはCRISPR遺伝子編集技術を使ってFbxw7をノックアウト (KO) した乳がん細胞を樹立したところ、G0期のがん細胞が有意に減少 (図左下)し、さらにここに抗がん剤を組み合わせることでDTCも含めた根治に近づける (図右下) ことを、マウスレベルの実験で示しました。